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ブフイが昼日中、公然とアゲオブビの呼び出しを受けたのは、テトツのインタビュー記事が掲載された翌日のことだ。前回、会った時からアゲオブビは副局長に昇級していて、ブフイが向かったのは副局長室だった。中に入ると硬い表情のアゲオブビがいた。
「テトツに会うなら、その前にひと言、相談してほしかったな」
アゲオブビはブフイが部屋に入った途端、そう言った。
「アゲオブビ副局長が、以前からテトツ氏の知り合いだったとは、存じませんでした。何か記事に問題がありましたか?」
ブフイが答えると、
「いや、記事に特に問題はない。だが、テトツは悪名高い人物だからな。君が彼に洗脳されてしまわないか、心配になっただけだ」
ブフイの記事は、ほとんどを、テトツが本の中でも述べていた、ミス国政府への批判文で占めていた。自国民が行けもしない場所を、教科書に領土と書く無責任さを、改めて世に問う内容だった。
ただ、「慰安婦少女像普及委員会」についての言及もあった。
これについては、詳しい中身には触れず、テトツの批判はミス国政府だけにとどまらず、矛先はゾモ国にも及び、近々「慰安婦少女像普及委員会」といった組織の立ち上げを模索している、といった程度の内容だったが、それがアゲオブビの目に止まったようだ。
「君は、ここに書かれている『慰安婦少女像普及委員会』なるものについて、何か知っているかね」
アゲオブビに聞かれ、ブフイは正直に答えることにした。
「何でも、ゾモ国からのミス国批判には数々の行き過ぎがあるようで、その行き過ぎた、的外れの批判の証拠、つまり象徴として、テトツ氏は、慰安婦少女像を普及させたいらしいですね」
そのブフイの言葉を聞いていたアゲオブビは、突然、大きな笑い声を上げた。
「ハハハハ、行き過ぎた、的外れ批判の証拠とは、テトツにしては随分回りくどい話だな。君は、どう思う、この委員会を」
ブフイはアゲオブビの直球の質問に少し迷ったが、
「まあ、私にも、テトツ氏のおっしゃっていることが分からないでもありませんので、一応、立ち上げ時には取材をしてみようかと考えてます」
と、ここは後で問題になるのも避けたいので、正直なところを述べた。すると、アゲオブビは正面からブフイの顔を見据えた。
「君は忘れてはいないよね。3つの金科玉条。反権力主義、厭戦気分、そして、贖罪意識。行き過ぎた批判、的外れな批判、それで結構じゃないか。それでこの国に贖罪意識が定着するなら、それが戦争の抑止になるのさ」
ブフイはアゲオブビの言葉に、一瞬、嫌悪感を覚えたが、
「では、取材はやめるべき、と言うことですか」
と、あくまで冷静に返した。すると、アゲオブビは、
「そんなことは言ってない。こうした動きは、我々にとってのチャンスでもある。利用させてもらうさ。私が言いたいのは、テトツのような奴に深入りしないことが、君の身のため、ということさ」
アゲオブビとの面談は、そこで終わったが、それから数日後、ブフイはウギベデ新聞の社会面を見て驚いた。そこには、テトツが「慰安婦少女像普及委員会」として、ゾモ国から少女像のミニチュアを大量に購入した、というニュースが短く紹介されていたのだ。ブフイは再びワヨモを訪れることを決意した。