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アゲオブビに代わって正面に立ったのは、ザオク・サヨブシカ。高校教師、教員団体の代表を経て、最近では評論家としてマスコミにも度々登場する人物で、直接会うのはフプイは初めてだった。
「いいかね、フプイ君。反権力主義、厭戦気分、贖罪意識の3つを金科玉条にするというのは、それを何よりも優先することだ」
ゼオクの言葉に、フプイが考えを巡らせていると、
「例えば反権力主義、君はこれをどう考えるかね?」
とゼオクはブフイに問いかけた。
「国民を、国家の権力の乱用から守ることでしょうか」
とブフイが言うと、ゼオクは大きな声を出した。
「違う。全然違う。反権力主義とは、政権が現与党スシブオホ党政権であろうと、現最大野党コフデ党政権であろうと、とにかく時の政権の政策には反対する、ということだ。ミス国をとにかく1つの政党、政治組織には統一させないこと。何故なら、ミス国という国家は1つの意志を持つと、戦争に走る国だからだ」
ゼオクの勢いに、ブフイが少し抵抗を感じながら黙っていると、
「納得できないかね、ブフイ君。じゃ、次に厭戦気分、これについては、君はどう思うかね」
まだ考えがまとまらないブフイは、唸りながら答えた。
「う~ん、厭戦気分と言うよりも、戦争反対とか、核兵器廃絶とか、平和運動といった方が、ピンと来る気がしますが・・・」
すると、再びゼオクは声を荒げた。
「それも違う。全然違う。厭戦気分とは、戦争の悲惨さ、理不尽さ、憎悪、恐怖を、この国が2度と戦争をしないように、ことごとく徹底的に国民の心に植え付けることだ」
二度も発言を否定され、ブフイが目を閉じて考え込むと、ゼオクは再び声をやわらげて質問を続けた。
「3つ目は、贖罪意識だ。これは分かるね。ミス国は先の戦争で、近隣諸国に多大な迷惑をかけた。一度戦争になれば、勝つために見境がなくなってしまう。それが人間だ」
ブフイは少し臆しながら、問い返した。
「贖罪とは、フズユハ国での大虐殺や、ゾモ国の従軍慰安婦といった、今でも騒がれる対外関係についての贖罪でしょうか」
すると、今度はゼオクは声を荒げなかった。
「その通りだよ、ブフイ君。ただ重要なのは、ここからだ」
そう言うと、ゼオクは少し間を開け、再びブフイを見つめた。
「ブフイ君。私は、最初に言ったね。厭戦気分、反権力主義、贖罪意識を金科玉条にするというのは、それを何よりも優先することだと。何よりもとは、それはつまり、事実よりも、と言うことだ」
「事実よりも・・・」
ゼオクの言葉を、思わずブフイは反復した。事実よりも優先する、とは、嘘をついても構わない、と言うことか。しかし、そんなことをしたら新聞は信用を失ってしまうのではないか。
少し青ざめたブフイの顔を見て、ゼオクは続けた。
「心配いらない。新聞は、不都合な真実は書かなければいい」
納得できない表情を見せたブフイに、ゼオクの言葉が浴びせられた。
「そして今、これを聞いたブフイ君には、ウギベデ新聞に在籍する限り、この方針に従ってもらう。秘密を知った君に、拒否権はない。ただ、ここのメンバーを見れば分かる通り、この委員会に在籍する限り、君の前途は明るいことは、君も納得してくれるだろ?」