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ミス国の左翼系大新聞「ウギベデ新聞」の記者、ブフイ・ボパピタナは、入社2年目にして、鋭い現状分析を交えた記事で、早くも頭角を現す存在だった。そんな彼に、大先輩にあたる記者アゲオブビ・グペーから、ある日、不思議な招待状が届いた。
「ウギベデ平和委員会へのご来席を願う」
と書かれた紙には、日時と会場名が書かれていた。会場は、「ウギベデ新聞」の社内にある会議室だ。ブフイは、どうしようか一瞬考えたが、同社の大先輩、彼にとっても目標的な人物のアゲオブビの名が記されている以上、無視する訳にはいかない。
開催日は3日後の午後6時半とあり、仕事で社にいるブフイには断る理由は考えられなかった。
ブフイはそれから、同僚それとなく聞いたり、ネットで調べたり、社内文章も見てみたが、「平和委員会」なるものの存在を見つけることはできなかった。
指定された日時、指定場所の会議室を訪ねると、周りに人はおらず、ドアには何も書いてない。
ブフイが半信半疑でゆっくりとドアを開けると、そこは広めの会議室で、左右に並んだテーブルの両側に20人ほどの人が座り、正面の演台のような場所に、アゲオブビ・グペーが立っていた。
「ようこそウギベデ平和委員会へ。ブフイ・ボパピタナ君」
ブフイが驚いたのは、それだけではない。そこには、「ウギベデ新聞」の副社長、各部の部長など、会社のお歴々の姿も目に入ったからだ。
「ブフイ君、まずは、そこに座り、私の話を聞いてほしい」
演台の真ん前に置かれた1つだけの椅子に、ブフイが座ると、アゲオブビは話し始めた。
「先の大戦で、我が国が歴史的敗北を喫し、国内外で未曾有の犠牲を出したことは、ブフイ君もご存知だろう。そして、その戦争へと至る我が国の歴史の中で、国民の戦意高揚に、我がウギベデ新聞が心ならずとも一定の役割を果たしたことも、また事実である」
話を聞きながらブフイは、周りから熱い視線が刺さるを感じた。
「そこで戦後、我がウギベデ新聞では、この国が二度と戦争の惨禍に見舞われることがないように、秘密裡に1つの組織を立ち上げた。それがウギベデ平和委員会、この組織なのだ」
アゲオブビはそう言うと、演台の隣りにある黒板に移動し、そこに文字を書き始めた。
反権力主義
厭戦気分
贖罪意識
アゲオブビが書いた言葉は、この3つだ。それを書くと、アゲオブビは再び正面を向き、ブフイの目をじっと見つめた。
「ミス国が将来に渡って、2度と戦争をしない国になるため、我々が金科玉条として胸に刻んでおくべき言葉が、この3つだ」
ブフイの目は、アゲオブビの目と、黒板の文字を行き来した。
それにしてもブフイは思った。反権力主義にしろ、厭戦気分にしろ、贖罪意識にしろ、目新しい言葉でもない。その言葉を心構えにするためだけの「委員会」とは何だろう?すると、
「ここからは現役記者には言いにくい話なので、私が出よう」
と1人が立ち上がった。それブフイには意外な人物だった。