088 真田昌幸 その3
信忠さんと昌幸父さんが仲良く?なる話です(笑)
上田城をくれと言われた信忠さんの頭に?マークが浮かぶ。果て?上田・・城?
いくら甲州討伐を率いたとは言え、信州の全ての地名を覚えている訳は無い。しかも今の上田には城も何にも無いのだから当然の反応だ。
「上田とは、北国街道と東山道を結ぶ要所に御座る。ここに我らの城を建てて頂きたい。調査だけはさせておりますが、城砦はかなり大規模なものになりまする。真田家が単独で建てるのは少々無理があります。」
信忠さんが興味を抱いた顔をする。やべ、父の垂らした針に食いついちゃったよ。信忠さん大丈夫?
「その代わり、もしそれがしが考える理想の城を此処に建てること適えば、東山道、北国街道経由で、いかなる国々も真田の許可無く信州で軍を動かせなくなりまする。」
信忠さんがしばし沈思する。
「悪くない。確かにそれが、適えば今後の北国、東国制覇にわが方の有利となろう。・・しかし、それは我が織田に対しても言える事だ。もし、真田が我らに敵対すれば、その防壁は我が軍の侵攻を妨ぐだろう・・」
さすが信忠さん。父の本質を正しく理解している。娘を嫁に出したぐらいで、思う通り動く保証はない。
「その辺はこの度、目出度く、この真田は織田家の外戚となった事ですし、信頼頂くしかありませんが、一つ・・真田の忠誠をお見せしましょう。」
そういうと、父は「一人我が家臣で紹介したいものがおりまする。」と言って信忠さんに許可を取ると、おりょうさんを呼び、彼女に人を呼びに行かせた。
しばらくすると、中背の男性が入ってきた。それは私が有る程度予想していた通り、庄八郎師匠だった。
信忠さんに向けて平伏する師匠。
「この者は横谷庄八郎。彼の兄横谷左近と共に我が真田に使える重臣の一人で御座います。が、同時に真田忍軍を率いる者に御座います。今信忠殿をお助けしている全ての真田忍軍は彼の指揮下にいるものと考えて頂いて結構です。彼が忍軍の長にある事は郷でも一部の者しか知りません。もちろん他国でその事を知る者は、信忠様ただ一人に御座います。」
まぁ言わんとしている事はわかる。井浦さんと共にその正体は秘中の秘。それを教えるから真田の忠誠を信じろと言うのである。
「そなたはもしかして、お幸の師匠か?」
信忠さんは突然思い出した様に言った。ああ、佐助の過去話で多少話したかもしれない。名前までは出してないよな?
「いかにも、ゆき姫様がお話を?」
師匠が何故知っていると思ったのか問う。やべ。後で怒られかしら?
「いや単なる想像だ。お幸からは郷に忍術の師匠がいるとしか聞いておらんが、もしかしてと思った次第だ」
誘導尋問に引っかかった格好だが、師匠にしても、そもそも正体をばらしたからには下手に隠すのは逆効果だとの判断だろう。信忠さんももしかしたらそれを逆手に取って試したのかもしれない。或いは単に私が信用を置くものであれば、信用できると思っただけかもしれない。
「そうか良かろう。上田城の件、さすがに即答は出来んが前向きに検討する。但し、何れにしても、出すのは金だけだ。人手と部材はそちらで用意してくれ。木曽義昌には良い木材を都合する様、申し伝えるぐらいは出来ると思う。」
父やったな!信忠さんがオッケーを出したのだから恐らく問題なのは金の工面だけだろう。これで、別所の「幸村縁の温泉」計画も一歩前進ね!
「後、これは結納云々とは別件だが、明日の安土会議において、新体制が発表される。これまで、曖昧だった織田家内の軍組織を整理したものだが、従来の五大軍団長職はそのままに、その下に十二軍将を置き、更にその下に百軍長を置く事とした。これに伴い寄騎制度は廃止する。この十二軍将の一人に、お主真田安房守昌幸が指名される。」
父が、「ほう」と唸る。
「十二軍将とか百軍長とはあくまでも役職名で定員数を表すものではないが、いずれにしても軍将となった者は、次代の軍団長候補であり、少なくとも軍務面では重臣と言える立場になる。是非とも受けて貰いたい。」
信忠さんが父の理解が追いつく様一拍置いたが、父は理解において理屈を追うタイプでは無いので、多分付いてきている。下手をすると貰える物は貰っておこう位にしか思っていない可能性もあるが・・。
「真田家がではなく、この真田昌幸がという理解で宜しいのかな?」
信忠さんが少し目を見張る。
「これだけの説明で其処まで理解するとは御見それした。そうだこれはあくまでも個人に与える称号で、家に紐付くものではない。個人における能力主義をより明確にしたものだ。」
これは私ですら少し驚いた。これまで、信長さんは能力主義を標榜していたが、この制度は其れを更に先鋭化したものと言える。つまりどれだけ偉大な当主であっても、それは一代限り、その子や一族のものでも、それに匹敵する功績や能力を示さなければ、その地位は得られないのである。
「面白う御座るな。ある意味下克上を制度化した様なものですな。もちろん受けさせて頂く。五大軍団長の地位は変前より確実に一つ減っている。それがしは取りあえずそれを目指せば宜しいので御座るな」
父を恐ろしいと思うのはこういう時である。もの事の本質を恐ろしい程、鋭く的確に突いて来るのだ。
信忠さんは特に鼻白む訳でもなく大きく頷く。
思い返せば、もしかしたらこの瞬間、父と信忠さんは同士と言える間柄になったのかもしれない。
「そういえば・・。新設されると言う若手武将の馬廻りですか?の部隊の噂を聞いたのですが、一人推薦したい者がいるのですが」
父が急にそんな事を言い出した。
「それを何処で?」
まさか。昌幸父さん、安土に忍び放ってない?!師匠なら超機密情報でも入手しかねないけど
「いや先ほど隻眼の小僧が吹聴しまわっておりましたぞ。秘密だったのですか?」
あのお調子者・・。思わず信忠さんも額を抑えている。
「まぁ、明日には発表される事だが・・。して推挙したい人物とはどちらで御座るか?」
信忠さんが観念して聞く。
「なに倅で御座るよ。おゆきの一つ上の兄で、儂が言うのもなんですが、中々見所が御座る。先の森殿の海津城の撤退。支援したのが実はこの倅でござる。」
予想外だ?!兄まで信忠さんの下に派遣しようとしているのか?父入れ込みすぎじゃないか?!
「それは願ってもないが、かまないのか?」
兄は私とは違って替えの無い嫡男である。それを自分に預けて良いのか?と聞いているのだ。
「なにそろそろ外を見せてやるのも必要かと。もう一つの真田の忠誠の証と取ってもらっても宜しいかと。勿論その内帰してもらわんと困りますがな」
そう言う事なら、と信忠さんは快諾する。兄が来るとなれば私としても心強い。
その後、庄八郎師匠の膳も運ばれ、酒宴は続いた。
それ以降はどうという事も無い世間話で盛り上がったが、途中で私は面倒になって振られでもしない限りニコニコして只管黙る事にした。
それにしてもそろそろ眠いんですけど・・・。お前ら早く帰ってくれ・・。
一見信忠さんが一方的に決まってる事を昌幸父さんに申し伝えているだけの様に見えますが、昌幸父さんは信忠さんのお人好し加減を試す様に色々仕掛けてます。信忠さんはそれを、意図的なのか、天然なのか、さらりとかわして、逆に昌幸父さんを釣り上げる事に成功したともいえるかもしれません。




