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真田隆盛記 ~おゆきの戦国日記(ぶろぐ)~  作者: とむ熊 しのぶ
安土会議編
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084 海軍総督

周囲からは凋落著しいと見られている滝川一益。信忠は果たして彼を復活させられるのか。


柴田さんとほぼ入れ替わる様に、今度は滝川一益さんが入ってきた。織田軍団長の中では柴田さんと並ぶ、猛将と聞いていたのだが、その印象は大分違う。というかかなり疲れた表情で、ずいぶん覇気に掛ける感じだ。


「山崎に参陣できなかったばかりか、上野まで失い、全く面目次第も御座いません。」


入室するなり、消え入る様な声でそう言ってしょんぼり気味で頭をたれた。


信忠さんに促されて漸く席に着いた。どこか上の空という感じである。大丈夫か?この人?どこか体が悪いんじゃないだろうか?


「そうだな。山崎参陣は兎も角、上野失陥はお主らしくも無い失態だったな。」


一益さんはそう言われて只只恐縮するばかりだった。


「一益。お主を東国方面軍団長、関東管領の任を解く。手勢を率いて一旦自領の伊勢で謹慎しろ。」


一益さんは、がっくり肩を落とし、俯くとぶるぶる肩を震わしている。


「私は隠居に御座いますか・・」


織田家では良くある事だ。どれ程の功があっても、失策によってあっという間に転落する。織田家の黎明期を支えた家老でありながらその地位を失った、林や佐久間兄弟等前例に枚挙の暇は無い。


だが、信忠さんの答えはちょっと違った。


「ばか者。今の織田家にお主を隠居させる余裕など無い。悪いがまだ働いてもらうぞ。本能寺の変で織田家は多くの優秀な家臣を失った。そもそも明智が抱えていた家臣団は武将としても官僚としても優秀な者ぞろいだったからな・・。あれをごっそり失った事で織田家は、今深刻な人材不足に陥っているんだ。」


一益さんは少しポカンとした顔をした。信長さんの時代にはそんな事を言われた事はなかったからだ、良くも悪くも信長さんは、優秀なものは取り立て、そうでない者は容赦なく切り捨てる。だから皆戦々恐々として、功績を挙げる事に必死だったのである。


あの光秀さんの反乱はそのプレッシャーに耐え切れなかったからでは無いかと一益さんは思っている。光秀さんの織田家への功績は本来巨大だった。織田家と旧将軍家とを結びつけ、京都に食い込ませると共に、扱いの難しい京の天皇家や公家を硬軟使い分けた政略で織田色に染めて行ったのである。


あれ程早く山城を織田政権下で安定させたのは光秀さんの功績以外の何者でもない。


だが一旦京が安定してしまうと、光秀さんの示せるファンクションは目に見えて減少していった。特に光秀さんを焦らせたのは秀吉さんの躍進では無いだろうか。


織田家には彼の事を下男上がりと蔑む風潮があったが、そんなハンデを物ともせず、あれよあれよと言う間に織田五大軍団長の一角を占める程の頭角を見せる様になる。


あれは化物だ。と一益さんは思ったものだ、殆ど戦略レベルでは信長さんに匹敵する能力を有するとまで言われ、時間の問題で西国を統一し、巨大な功績を挙げてしまうだろう。


光秀さん自身も決して、能力的には低いものではないが、本音の所ではあれにはかなわんと気付いてしまったのでは無いだろうか、其処へ持ってきって事実上奴の副将として援軍に指名され、一時的とは言え風下に立たされるに居たって、遂に感情を抑えきれず暴発してしまった。それが本能寺の変の真相ではないか。一益さんは我が身に置き換えてそう考えていたのだ。


一益さんは、そんな事をグルグル考えて呆然としていたのだが、もちろん私にはそんな事、知る由もない。


「まだ呆けるのは早いと言っているのだ」


そんな一益さんを見て、信忠さんは喝を入れる。


一益は、表情を引き締める。


「して拙者は何を」


その表情を見て、信忠さんは漸く本題に入れるとちょっとホッとした表情をする。


「お主には初代海軍総督になってもらう。」


「海軍?・・総督に御座いますか?」


「そうだ。俺は日ノ本を統一した暁には海洋に打って出るつもりだ。海に囲まれた日ノ本が更なる発展を望むなら、海洋に進出する以外は無いと俺は考えている。その為には今伴天連共に独占されている海洋貿易の状況を打破する必要があり、当然彼らに伍する海上戦力が必要だ。今の沿岸しか行き来できない海軍では駄目だ。広い大洋に乗り出せる優秀で強力な火力を持った多くの船を揃える必要がある。」


そこで、一旦話を切り、一益さんの表情を見る。引き締まった厳しい表情は変わらないが目が爛々と輝いている。それに満足した信忠さんは続ける。


「お主は、このやがて世界に伍する強力な艦隊を九鬼らと共に創設し、初代海軍総督となるのだ。」


一益さんが、この部屋に入って始めてニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。私は猛将の復活を見る思いだった。信忠さんやるなぁ。こういう芝居じみた士気の上げ方は秀吉さんを見習ったのかも知れないね。


「だが、その前に・・。」


信忠さんがふと口調を改めるように言ったので、勢い込んでははー!!とでも言おうとしていた一益さんは肩透かしを喰う。


「正直、親父殿の死後のお主を見ていると、どうも覇気に掛けるというか、判断が安定していないというか。兎に角お主の能力について疑問を持つ者が増えている。親父殿が死んで、滝川一益は終わってしまったと口さがない噂をする者も居るぐらいだ。」


滝川さんがぐぬぬという顔をする。そりゃ屈辱だわな。


「だからお主に、名誉挽回の機会を与える。四国討伐軍を率いて、四国の長宗我部を降して参れ。残念ながら軍勢には余り余裕が無いが、信雄と筒井ら伊勢・大和勢を連れて行け。もちろん九鬼も全面協力させる。お主と共にあの武田に止めを刺した俺だから断言できる。お主には児戯だろう?」


一益さんは今度こそははぁーー!!と裂ぱくの気合いを込めて返事をする。完全に猛将復活ね。一益さんは父とも仲が良いみたいだから、元気になるのは良い事だ。


でも信忠さん結局、私のアイディアを採用してるじゃない。もう、名参謀おゆきちゃんはまだまだ必要な様ね!


「それと海軍総督の話はまだ極々一部の者しか知らん。その時が来るまで決して漏らすなよ。細かい話は然るべき時が来たらまたする。その時お主の下に付ける者も今手当てをしているが、人が居ないのは本当だ。もし四国にお主が見てこれは、と言う者が居たら是非ともつれて来い。長宗我部元盛自身も、もし本気で臣従する気があるなら降してもかまわん。くれぐれも気負いすぎてしくじってくれるるなよ。お主がしくじると俺の構想が全て破綻するからな!」


ちょっと気合を入れすぎたかな?と思ったのか。最期に釘を刺す信忠さんであった。


滝川さんはもう一度、ははーと言うと、来た時とは見違えて生きいきとして退出していった。


私の中で滝川一益さんってザ職業軍人と言うイメージがあります。優秀な軍官僚であるのは間違いないんですが、優秀な上官が居ないと途端に能力が発揮できなくなってしまう。4人の軍団長の中で一番信長さんロスが如実に現れたのは彼の様な気がします。キャラは違いますが丹羽さんもその傾向が強かった様な印象ですが、このお話では早々に信忠さんと合流できたので救われた感じでしょうか。

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