079 佐助 その7
絶体絶命の中、佐助の反抗が始まる
私はじっと洞穴の入り口を睨んだ。
そこには妙に無表情に見える目がこちらを覗いていた。
目が合った!
彼は我々を認識した!
冬眠前のこの時期のクマは危険だという。冬眠に備えて、兎に角食べるからだ。空腹の冬眠明けの方が更に危険だという話も聞くが、人を襲う事も辞さないという点で変わりはない。
通常人の味を覚えていないクマは人を襲わないとも言うが、この時期の彼らは、特に我々の様な抵抗の手段を持たない年端も行かない子供を襲うのに何の遠慮もする必要は何もないのだ。それが弱肉強食の世界だ。
「おゆき。火を頼む」
そう言って、前を向き直った佐助は一瞬で雰囲気が変わった。なんかスイッチが入った感じだ。
私に背中を向けるいつものやせっぽちなチビスケが、まるで知らない人の様に見えた。
私はランタンから火縄に火をつけると、消さない様に、いつでも佐助に渡せる様に、筒部分を握って用意をする。
佐助は右手に鉈を、左手に柵の紐を持っている。
その時である。いきなり、焚火が急場の風除けと共に吹っ飛んだ?!吹っ飛んだというか、爆発したと言った方が近いだろうか。
爆発の余波で火の粉と雪の舞い散るその向こうから、無表情な顔がぬうっとあらわれた。
特に怒りも焦りも無いその表情は、我々の事を只の餌としか認識していないのかもしれない。
ゆっくりと佐助に近づくと、それでもじっと動か無いでいる佐助に、息が掛かるほど顔を近づけ鼻でクンクンと匂いを嗅いでいる。
まさか佐助あきらめて無いよね?!
勿論そんな事は無く、佐助はその鼻にいきなり頭突きを喰らわした!!
おい!ガキのタイマンか?!
勿論その程度ではクマには何程の打撃を与える事は出来ない。だがいきなりタダの餌だと思っていた者からの反撃に、一瞬ひるむ。
佐助はその隙をつく様に、右手で持っていた鉈でクマの顔面を思いっきりぶん殴った。
ガキっという異音がしてあの分厚い鉈が弾かれ、佐助の握力では支えられなかったのか鉈が吹っ飛ぶ。だが。ここまでは恐らく佐助の想定通り。
クマが怒りを爆発させて佐助に襲い掛かろうとする。佐助は左手の紐引いて例の柵をクマに向けて立ち上げる。クマはまんまとその柵に突っ込み喉元に深々と銛が突き刺さった。
吠えた口から血が噴き出した。
私は息を呑んでその光景を見ていたが、思わず心の中でやった!と喝采を上げていた。
だがそんなに甘くはなかった。深々と喉元に銛を受け、口から血を噴き出しながら、クマの勢い止まらなかったのだ!
佐助の「ちっ!」いう舌打ちが聞こえた。
クマは佐助に覆いかぶさる様にして、その狂暴な腕の一撃で襲い掛かった。
佐助は何とか仰向けに倒れこむ事で辛くもそれを躱すが、最早後が無い。クマは再び腕を振り上げ、更なる容赦ない一撃を浴びせ様とする。
ダメだ!佐助が死んでしまう!!
私は「いやああああああ!!」という悲鳴を聞いた。
それは自分の声だったのだが、私はその悲鳴と同時に、知らぬ間にランタンをクマに向かって投げつけていた。
ランタンは油をまき散らしつつクマの顔面に当たり、それに火が燃え移りクマの頭が一瞬で燃え上がった。クマは仰け反り、慌てて両腕で自分の顔をはたき、こすり、炎を払い除け様とする。
一瞬やんだクマの攻撃。その隙を佐助は逃さなかった。
「おゆき!筒!!」
と叫ぶや、左手で忍刀を引き抜き、右腕で私から短筒を受け取る。
受け取るや否やすぐさま体勢立て直した佐助は、ぐうぉおおと怒りの咆哮を上げるクマの口に忍刀を突っ込み、同時に復讐に燃える様に佐助を睨んでいたクマの左目に鉄砲の筒先を突っ込み抉るや、引き金を引いた。
グアゥン!という何ともくぐもった音がしてクマの口から何かが飛び散った。
時間が止まった様な一瞬の後、クマの体がぐらっと前のめりになる。
佐助はすかさず飛び退り私を庇う様に立ちはだかる。
睨みつける我々に向けて、クマが一歩足を前に出した様な気がした。
まだ生きているのか?!どんだけの生命力だ?!。
だがそれは錯覚だった。クマはそのまま私たちの前で崩れ落ちる様に倒れた。
燃え移ったランタンの炎も最早消え、暗闇が訪れる中、私たち二人はその場にへたり込んだ。
「やった・・・。」
私は、佐助の口からその言葉が思わず漏れたのを聞いた。
どうやったらクマを倒せるのだろう。しかも5歳児の腕力で・・。と必死に考えた末こうなりました。某百獣の王の人に聞いてみたい程悩みましたよ(;^_^A結論として、格闘戦でクマを外部から倒すのは例え鉄砲を使っても無理!っという事になり、直接脳に銃弾を撃ち込むしかないという事になったんです。最初は口からと思ったんですが、余程クマがおとなしく口を開けてないと無理だろう思ったので、目ん玉に銃口突っ込んで打つ事にしました。口に忍刀を突っ込んだのは攻撃したというよりは、自分の体をクマの頭に固定する為だった思われます。恐るべき佐助の戦闘センスですね。




