004 信幸
もし真田幸村が女だったら?という発想から、筆者の果てしない妄想をつづっていくif小説です。若くして織田家に人質に出された真田幸村ことおゆきが、真田忍軍を率いて、大活躍するお気楽エンターテインメント作品です。細かい事は気にせず真田の活躍をお楽しみ下さい。
館に私を誘うというか引っ立てているのは、私の兄源三郎信幸である。
真田昌幸の長男にして嫡男なのだが、長男なのに何故源三郎なのか謎である。
何に付けても気まぐれで常人には理解し難い突飛な行動の多い父であるので、一々気にしていられないのだが、何となく気になった幼い私はお祖母ちゃまにそれとなく訊ねてみた事がある。
お祖母ちゃま曰く、この地方のゲン担ぎが何やらかんやら・・・と。
詳しくは忘れてしまった。
私も割といい加減なのは父譲りかもしれない。
その点兄の方は、いい意味でそのいい加減さは受け継いでいなさそうだ。
そればかりかこの一歳年上の兄は、真逆といえる真面目な性格の優等生君である。
若くして領内経営等にも積極的に参加し始めており、そういった事にあまり興味が無い父にとかく嘆いていた重臣の高梨内記等は泣いて喜んだとか。
性格は兎も角、戦働きの方はちゃんと父の才能を受け継いでいる様で、小競り合いながら既にいくつも武勲を挙げており、その片鱗を覗かせていた。
なんと言っても兄の最近の活躍と言えば、人質として母や姉と暮らしていた新府城からの脱出譚であろう。
織田家の甲州征伐時、勝頼公が放棄した新府城で真田一族は孤立してしまう。父はその時勝頼公を迎える為先行して岩櫃に戻って来ていた。兄らは本来は勝頼公と伴に岩櫃へ帰還(というか案内?)する予定だったのだが、勝頼公は小山田信茂の甘言に乗って急遽、行き先を変更、その為真田一族は新府城に取り残されてしまったのである。
その時兄はわずかな手勢を指図し八面六臂の活躍を見せる。織田家の残党狩りや武田家の裏切り者、野盗の類が跋扈する乱れに乱れた武田領内を見事に突破し、岩櫃までわずかな犠牲で無事たどり着く事に成功する。
新府城からの脱出に関しては、姉の婚約者で小山田信茂の家臣小山田茂誠さんの協力や脱出後の真田の忍軍達の援護があったとは言え、動揺する事なく一族や家臣を纏めて難行を乗り切った手腕は父を満足させるものだった。
母等は、その時のトラウマで「二度と人質は嫌です!」と言い続けている。
母と姉に無事再会出来た私は喜びのあまり、お兄様ステキ!と一瞬思ってしまった程である。
そんな事を思い出しているといつの間にか館にたどり着いていた。
館の門をくぐると、高梨内記が待ち構えていた。
「若様、御屋形様のお召しですか?」
と私の方を見つつ微妙な表情を隠しきれない感じを醸し出している。
「まぁそうだ」
兄も微妙な声音でそう答える。
嫌な予感のレベルゲージが更に急上昇である・・。
兄や母は無論の事、何故か家臣達も私の事となると異常に過保護な態度を見せる事がある。
兄や姉は割と大柄で、姉等は女ながら中々長身ですらっとした美人である。母もどちらかというと大柄である。父も戦国武将らしい偉丈夫だ。
一方私はというと彼らに比べると小柄だ。いや、ちっちゃくないよ!普通だよ!うちの一族に大柄な者が多いだけなのだ。
だがそんな私がどうしても皆、保護欲を掻き立てられるらしく、当主の末娘でちっちゃくて美少女(自称)という属性な私は、真田の郷ではまさにアイドル的な存在なのだ。
とはいえ私も戦国に生まれた女子。それ程気を使われるのは不本意ではある。なので兄に一番可能性のありそうな事をストレートに聞いてみる。
「兄上、私はどこかに輿入れでもするのですか?」
私も十五歳、十分お年頃である。
領内にはあまり未婚で適齢期なものはいないので、滝川殿の一族かまたは徳川家?
「おま?!嫁???」
どちらもイマイチだなぁ・・と思っていたら兄が失礼な事をのたまった。あたかもお前が嫁等考えもしなかったと言わんばかりの驚きの表情である。
そういえば嫁入り作法などとんと教わっていない事に気が付いた。
短槍と鉄砲はたんと仕込まれた記憶はあるのだが・・。
え?私、忍になるの?
そういえば私の幼馴染で内記の息女であるきりも私と一緒に庄八郎師匠に仕込まれていたが・・。
「馬鹿な事を考えてないで、行くぞ。父上から直接聞けば判る。」
何故かあきれ顔で答える兄。心の中を読まれたか?
露骨に不満な顔をしつつ兄に従う私。内記も心配そうに後に続き、いつの間にか矢沢頼幸も合流してその後に続く。
お前ら心配しすぎだ!
っていうか不安レベルがマックスなんですけど・・・。
すいません。真田の郷編もうちょい続きます。