036 本能寺の変 その6
重臣たちを集め京からの脱出を決意した事を告げる信忠さん。彼らの運命は?
「この者は真田安房守の息女源次郎幸村殿だ。日向守謀反の報は彼女の手の者からもたらせたものだ。俺は彼女の力を借りて、京から一旦脱出するつもりだ。他の者も各自の才覚で京から脱出せよ!」
真田が強力な忍軍を率いているのは京でもそれなりに有名だ。それでも色々疑問を持つ者も居たかも知れない(特に私が男なのか女なのか(笑))が、信忠さんの断定的な物言いに無理矢理頷く。
「ちょっと待ってくれ。俺は戦うぞ!」
またこの忙しいのに我儘君が現れた。だから時間が無いんだって!途中で駆け込んできた奴だ。恐らく小姓が館以外の重要人物にも集合の触れを回したのだろう。確か菅屋長頼さん?貞成さんと並ぶ信忠さんの側近じゃないか。
「奴等が来た時もぬけの空じゃ、野郎に上様の逃亡が直ぐばれちまう。俺が出来るだけ抵抗して奴等引きつける。その代わり、ここじゃ幾ばくも時が稼げん。上様。二条城を頂戴したい。」
ん?そういう事?意外と出来る子だった。時間の無いのは彼も判っているのだろう。一挙に捲くし立てる。二条城をくれとか、どう考えても無茶苦茶である。だが、無茶ではあるが理に適っている。
「そう言うことなら儂もお供仕ろう。」
如何にも叩き上げの歴戦の武将といった感じの男がずずずいっといった感じで一歩進み出る。多分猪子平助さん?私は伺候に備えて重要人物さん達を多少は予習してたのでなんとなく想像できる。
「長頼、平助・・。助かる。お主等に頼もう。兵は幾ら必要だ?」
信忠さんを数瞬迷った挙句、搾り出す様に答える。
「二百もあれば。後は撤退に使って下さい。」
菅屋さんの言葉を待たず、平助さんが即座に答える。実戦では平助さんを信頼しているらしく菅屋さんも何も言わない。
「うむ。では兵二百に俺の鎧兜も付けよう。宜しく頼む」
信忠さんは囮の役を要求している訳だが、元々そのつもりだから二人に否応は無い。
「報償の前払いという事で有りがたく頂いておこう!」
菅屋さんは、勤めて明るく信忠さんの身代わりを買って出た。
「(斉藤)利治。残りの兵を差配せよ。俺には一兵もいらん。真田の手勢を借り受ける。それでは、各々方。自分の役割を果たせ!また京で会おうぞ!」
そう言うと私と佐助を引き連れて、部屋を颯爽と出て行った。
途中小姓達が刀や風呂敷に包まれた着替等と思われる荷物を抱えて駆け寄る。恐らく付き従うつもりだったのだろうが、信忠さんはそれを彼らから引っさらってしまう。
「俺について来る必要は無い。お前達も散れ。できれば上京の知り合いの所にでも駆け込め。行き先がないなら貞成について行け!」
しばし唖然としていた小姓たちだが、意を決した様に思い思いの方向へ駆け出す。命令に要らぬ反駁などしない。なんともよく出来た小姓達である。
「信忠様。先日献上した葦毛の馬はまだ屋敷におりますか?」
私は気になっていた事を問う。
「厩にいる筈だ。今其方に向かっている。」
それはそうだろう逃げるなら厩に行くわな。
「他に居る物は?」
信忠さんはそれで思い付いた様に聞いて来た。うーんなんか要るかな?大概の物は忍軍が用意してくれてると思うからなぁ。と其処まで考えてはたっと思い付いた。
「もし可能なら。鉄砲を・・。」
こう見えて私は鉄砲も得意としている。音がして目立つので出来れば使いたく無いが、一応持っておけば安心である。
「厩に向かう途中に武器庫があるそこらか好きなだけもって行け。」
そんなには要らないけど、正直助かる。
即座に佐助が先行して武器庫とやらに向かう。
厩に付くと、佐助の手の者の手配だろう、白星が既に引き出され、鞍まで置かれている。私が途中で乗り捨てた新月もこちらに既に回されている。相変わらず惚れ惚れする程の手際の良さだ。妙覚寺全体が混乱しているのを良い事に勝手自侭もいい所である。
勿論そんな事を気にする信忠さんでは無い。私は信忠さんから荷物を受け取ると白星に括り付けた。
一瞬着替えて貰った方が良いかしら?と思った私だったが、信忠さんは全く意に介していない様で刀だけを腰に挿すと、鞍に飛び乗ってしまった。
まぁ寝間着とは言え、羽織は着ているしこの前の着流しと夜目にはそれ程違う様に見えだろう。・・・気がする。
私も新月に跨り、「では」っと飛び出そうとしたが、佐助がそれを止める。
どうした?!急がないと。っと一瞬イラっとしたが、続けて甚八が現れたので佐助の意図を理解した。どちらに逃げるにしても明智や京の最新情報をアップデートしておく必要があるのだ。
「明智の軍は既に京の街に侵入しつつあります。軍勢は総勢約一万三千。二手に分かれ一隊はそのまま西方から、もう一隊は南から進撃。本能寺を囲む目論見かと。」
甚八が状況を説明する。
「本能寺の動きは?」
信忠さんが堪らず質問する。
「先程数騎が本能寺に駆け込むのを見ましたが、信長公が脱出した様子はありません。いずれにしても明智軍は少数ながら威力偵察と思われる隊を幾つも先行して京の街に放っているので、あちらの方は最早脱出もままなら無いかと・・。確率は低いですが、我々もそれらと接触する事は覚悟しておいて下さい」
駆け込んだのは春長軒さんだろう。でもさすが明智さん抜かりないなぁ・・。ギリギリ間に合わなかったかなぁ・・。こんっ畜生め。
むぅと口をへの字にしていた信忠さんだが、表情を変え「では、我々も行こう」と馬を進めた。
甚八は既にいない。先行したのだ。
私は信忠さんの真横に新月をつけた。二頭の葦毛が並んで動き出す。
その前を佐助が進む。そして私は信忠さんには問う。
「して、我々は信忠さんを何処にお連れすれば?!」
既に決めていたのだろう。即座に答えた。
「堺へ!」
既に白み始めた東の空が後少しで京の町並みを照らそうとしていた・・・。
なんとか2話に収まりましたが、正直書きたい事の半分ぐらいしか書けてません。一番代表的な所は信忠さんが京からの脱出を決意する所とかですね。本物の歴史では、明智さんにぬかりはあるまいといって二条城で徹底抗戦を覚悟したという話なんですが、このお話では、全面的におゆきちゃんを信じている態で強引に纏めてます。この辺どうしてこういう思考に走ったか描きたかったのですが、どんどん冗長になっていきそうだったので、諦めました。愛は歴史より強しです!(謎)




