187 奥州方面 その2
私は出陣に向けて準備を進めていた。丹羽さんがせめてもと言う事で、清正さんの部隊を三千から五千に増強する事にしたのである。
私と佐助だけなら直ぐに旅立てるのだが、そう言う訳には無論行かない。
一応関が原には既に高山右近さんと蜂屋頼隆さんが先行して入っており、着々と迎撃準備を進めているが、もちろん例え佐々さんと合流したとしても徳川さんと決戦を行うにはまだ全然足りない。
そこに、加藤清正さんの五千の兵が加われば、多少格好が付くという訳だ。
私は清正さんの準備が整う間に、佐助に指示を出した。
先行して現地入りしている伊佐と協力して、尾張の防諜を徹底させたのだ。
そんな中尾張の別働隊金森さんの隊の情報が入って来た。
榊原さんと抗戦していた金森さんは、佐々隊撤退を確認するとその役割を終えたと判断して、大きく後退した。
逃がすまいと猛追する榊原さんであったが、犬山から出撃した稲葉一鉄さんの牽制を受け、追撃を断念しかけるが、その隙を狙って今度は金森さんが反撃、再び抗戦、一鉄さんの牽制、すぐさま金森さんは後退。これを繰り返すうちに、榊原さん隊はついには岐阜まで誘引されてしまったと言う。
戦なれした金森さんと一鉄さんのナイス連携である。
勿論金森さんの狙いは榊原さんの隊を徳川さんの本隊から引き話す事だ
岐阜に到着した金森さんは一鉄さんと協力しながら、榊原さんの隊をそこに釘付けにした。金森さんと一鉄さんが岐阜城の要害を利用したのは言うまでもないが、それだけでは無く、榊原さんの隙を突いては出撃し、その度に痛打を与えていった。
一鉄さんも金森さんも美濃出身。特に一鉄さんは美濃三人衆とまで言われたお人である。地形的な優位が彼らにある事は言うまでもない。
榊原さんとしては、岐阜城を攻略するには、戦力的に全く不足しており、かといって撤収しようにも金森・一鉄隊がそれを許してくれない。
榊原さんは金森さんを追う内に、いつの間にか、引くもならず押すもならない状況に追い込まれてしまったのだ。百戦錬磨の榊原さんらしくない失策ともいえるが、侵攻開始以来の快進撃で気が緩んでいたのかも知れない。
こちらの方は何とか当初から予定していた形へと持ち込めた様だ。
更に朗報が入る。
奥州で、佐竹=相馬連合が、一時陥っていた窮地を当面脱出したというのだ。
この段階で、伊達輝宗さん救出の報は未だ我々には伝わっていなかったのだが、それを待つまでも無く。上杉さんからの援軍が暴れ周り、伊達軍を散々に混乱させ、その間に体制を立て直した佐竹さん=相馬さん連合は、伊達=最上連合に反抗を仕掛け、一時失っていた相馬さんの本城小高城と中村城の奪還に成功したという。
上杉さんの援軍は僅か三千と、どちらかと言うとこの局面での援軍としては、小勢であったが、其れを率いて来たのが普通の人ではなかった。
なんとあの懐かしい前田慶次さんだったのだ。
確かに賤ヶ岳で分かれた時、越後の知り合いの所に行く様な事を行っていたが、どうやら上杉さんのお宅だった様だ。
後で聞いたところによると直江兼続さんとお友達だった様でそこにお世話になっていたらしい。あの生真面目そうな直江さんとお友達とかあまりイメージが湧かない。
歳も結構離れてるしね。
まぁ友情に年齢差はあまり関係ないかもだし、何もしないで直江さんの家で酒ばかり飲んで、ダラダラしている慶次さんを、直江さんが苦笑交じりで眺めている姿も目に浮かぶから、案外そんなもんなんだろう。
そのお陰と言う訳では無いんだろうが、慶次さんからすると「一宿一飯(どころでは無いはずだが)」の恩義ぐらいの感覚でこの援軍の指揮を受けてくれたのだろう。
賤ヶ岳で、猛将佐久間信盛さんを翻弄したあの手際を見ると、年端も行かない伊達さんの所の次男じゃあそりゃ手に負えないわな。
聞くところによると、慶次さんは例によって、無双を発揮し、伊達さんの本陣に突っ込んで行くと、大将(小次郎さん)に一騎打ちを仕掛け様としたのだが、余りにも小次郎さんが未熟だったので興をそがれてさっさと撤退しまったそうだ。
鬼庭佐月さんでも居れば、壮絶な一騎打ちでも始まっていたかもしれないが、幸いと言うか、彼はこの時、臍を曲げて、米沢城に戻ってしまって居た様だ。全く自由な人のなんと多い事か(笑)
でも本当は、遠藤基信さんから輝宗さん救出の報を内密に受け、急遽駆け戻っていたのだが、勿論他の者は知る由もない。
いずれにしても、奥州が持ち直した事は大きい。
まだ佐竹さんが北条にちょっかい出せる程、状勢が優位になった訳ではないが、なし崩し的に、伊達=最上連合に侵攻されるの防いだのである。慶次さんが飽きて援軍を放り出したりしない限りは、少なくとも侵攻を持ちこたえる位は分けないだろう。
慶次さんはああ見えて情が深い。いや、戦国武将としては深すぎるといっても良いかもしれない。口では人を小ばかにした様な事を言っているが、あのおまつさん一族だってかなりの危険を冒して救出に向かったのだそうだ(当時を語ったおまつさんの言から七尾城が襲われた時は城内に居なかった事がわかっている)。
ところが、その武名を知り、利用しようとすると、するりと居なくなる。そんな天邪鬼な性格なのである。
全く困ったお人なのだが、信忠さんとは意外と相性良さそうだ。お互い結構だらしなさそうだしね(笑)
その内またふらっと遊びに来るんじゃないだろうかと思っている私である。
織田家復活の金森さん頑張ってます。蜂屋さんも関ケ原でせっせと地味な作業にいそしんでおります。お二人地位を回復出来ると良いですね。そして、前田慶次さん再び登場です。また暴れまわってます。勝手な人ですが友達(兼続さんの事)の頼みは断れないみたいですね。




