002 人質
もし真田幸村が女だったら?という発想から、筆者の果てしない妄想をつづっていくif小説です。若くして織田家に人質に出された真田幸村ことおゆきが、真田忍軍を率いて、大活躍するお気楽エンターテインメント作品です。細かい事は気にせず真田の活躍をお楽しみ下さい。
「おゆきを人質って、織田には既に義母さまを差し出しているではないですか?!」
鬼の形相で、父に食って掛かったのは、私のお母様である。
田舎には似つかわしくない雅な格好しているが、それもそのはず彼女は分家とはいえ京の公家の名門菊亭家の一門に名を連ねる者である。
そんな彼女がなぜこんな片田舎に輿入れしてきたか全く謎だ。信玄公の正妻三条の方の侍女だったという噂を聞いたことがあるが正確なところは娘の私ですら知らない。
信玄公や三条の方の勧めで父に嫁いだのなら、隠す必要はないと思われるので、かなり強引に掻っ攫ってきたのではないだろうか。
いくら信玄公の覚えめでたい若手武将だったとはいえ、不逞な輩である。
そんな馴れ初め(予測)の両親な訳だが、幸いな事に仲は非常に睦ましく。普段はたまにイラっとする程ラブラブだったりする。
母は公家出身だからか田舎ではちょっとお目にかかれない洗練された美人さんで、年齢を考えれば、信じられないぐらい若々しい。
姉のまつと私と三人並ぶと、三姉妹のようだと(お世辞半分だとは思うが)言われる事がままある程だ。
そんな母が夜叉の様に恐ろしい形相となっている。
「いや、人質というのは建前で、京で情報をコソッと集めて来て欲しいだけだよ」
父も苦笑しつつも、あわてて弁解する。
「そんな事、井浦殿の手のものか左近殿の弟御にやらせれば良いではないですか。」
井浦とは井浦昌相、左近殿の弟御とは横山左近の弟庄八郎の事で、どちらも昌幸の股肱の臣で忍軍の差配を任されている忍びのトップ達である。
「いや、それは勿論、実行は彼らにやらせるが、信長公は無類の忍び嫌いだから、下手に内密に入京させると、即座に敵対行動と取られかねん。おゆきの警護であれば言い訳も立つだろう」
正室とはいえ、本来当主の差配に口を挟めるを訳も無いのだが、そこは惚れた弱みだろうか、真面目に真意を説明する父であった。
「でも、まだうら若い乙女の身で、魑魅魍魎の跋扈する京に向かわせる等・・」
母も中々引き下がらない。ジト目だが若干上目遣いですがる様に見つめる彼女であった。山手殿と呼ばれる京女の彼女であったが、基本子煩悩なのである。三人の子供たちにはベタベタにあまい。
父も心底困った様に唸っていたが、ふっと何か思いついた様に表情を変える。
「そうだ!おゆきには男装させて京に上らせよう。それなら大丈夫だろう!あやつは女ながら兵法に天賦の才があると庄八郎もいっておった。短槍と鉄砲を扱わせたら若い男衆でもちょっと太刀打ち出来ないそうだぞ」
わけがわからない。何の解決になるのか全く不明だが、あまりの突飛な発想に、母の思考が一瞬とまる。
「よし!それでいこう!信幸っ!信幸は控えているか?!おゆきを連れてまいれ!」
そのスキを逃すまじと一気呵成に畳み掛ける。攻めるは火の如し。さすが信玄公覚えめでたし甲州軍艦の体現者である。
控えの間で苦虫を百匹噛み潰した様な顔をしつつ、聞かぬ態を装っていた兄信幸が、呼ばれて襖をすっとあけ、無言で一礼すると、何事も無かった様に立ち上がりその場を立ち去っていた。
父とは正反対な生真面目な兄なのである・・・。
次話投稿のテストです。なんとか投稿はできそうです(;^_^A