012 和田峠 その3
遂に盗賊団の頭目と思われる女偉丈夫と本格的な戦闘に入ったおゆき達。果たして勝負のゆくえは?
我々三人の間合いの外に、女偉丈夫が仁王立ちしていた。さすがに呼吸は荒く、肩で息をしている。ただその表情は見事な笑みを浮かべている。
こんなシチュエーションでなければ、すこぶる魅力的な良い笑顔だ。
「あんた達最高だよ。こんな最高な戦いが出来るなんて、私の勘も捨てたもんじゃないね。兄上の言いつけを無視してチョッカイ出した甲斐があるよ。」
こいつ、間違いなく戦闘ジャンキーだ。私は確信した。
三人とも、中々再び間合いに入れず、攻めあぐねている。私は兎も角、真田忍軍屈指の二人としては珍しい。
だが、女偉丈夫はふと当たりを見回す。
「なんだ?楽しくやっているのは私だけじゃないか」
確かにこの女偉丈夫以外は、せいぜい野伏か夜盗崩れの様である。真田忍軍の精鋭の相手が務まる筈もなく、あらかた片がついてしまっている。
無事なのは女偉丈夫の後に巨大な錫杖を持って控えている男だけだ。
「どうですかな。そろそろ見逃して貰えませんかな」
小助が事実上の降伏勧告をするのを女偉丈夫が面白そうに聞いている。
「これは兄上にこっ酷く叱られるだろうな。ただ・・・どうせ叱られるなら、もう少し遊ばせてもらおうか。」
女偉丈夫が後の男に腕を差し出し錫杖を受け取りつつ言い放つ
何をするかと警戒していると、いきなりその錫杖を高く掲げ、石突を地面に強く打ち付けた。
ガシャーンっという金属音が山間部の峠に鳴り響いた。
同時に、辺り一面が即座に真っ白な霧で覆われる。
「しまった!術っ・・・」
佐助の焦った声音が途中で掻き消えた。
意外と明るい霧の中で、佇むのは女偉丈夫と私の二人だけ。
物理的に一瞬で霧を発生するなど最早人間業ではない。考えられるとすれば・・
「幻術か・・」
私は思わず漏らしていた。
女偉丈夫が一瞬おや?という表情になった。
「女か?」
ああそういう事か。女だよ。悪かったな。どうせあんた程胸デカくねぇわ!
「益々面白い」
ん?どういう事?
「あんたをこの結界に誘い込んだのは、あの二人の行動からおそらくあんたは結構大事にされてるっぽかったんで、あんたを人質に取れれば、一挙に形勢逆転できるかなと思ったんだけど・・」
私は答えない。その通りだからだ。
「あの二人程じゃないが、あんたも中々のもんさね。特に最後の躊躇いの無い一撃とか惚れ惚れしたよ。技術だけじゃない。恐るべき戦闘感覚だ。人質に出来そうと考えたのは嘘じゃないけど、そんなあんたと差しでやり合いたいとも思ったのもまた事実さ」
こんな饒舌だったんだ、とちょっと意外に感じる。或いはそれだけ上機嫌なのか?だとすると相当まずいな私。なんとかこの戦闘ジャンキーから逃れる術はないものか?
「そんなあんたが女だって言うじゃないか。」
ん?これってもしかして見逃してもらえる流れ?
「私はこう見えて女でね」
うん多分知ってた。
「でも、これまで男でも本気で適わないと思った者は数える程しかいなかったよ。女に至ってはもちろん一人もいなかった。折角二人きりになれたんだ。たっぷり楽しもうじゃないか!」
恋人に語りける様な言葉を野獣の様な顔でのたまう女偉丈夫。
だめか~。見逃して貰えないのか~。
私は覚悟を決める。
私は懐刀を取り出し、素早く杖に取り付ける。鞘を外して、立派な短槍のいっちょ上がり。私は重さとバランスを量るようにくるり短槍を一回しして、穂先を少し下げて小脇に抱える構えを見せた。
「面白い玩具だが、そんなもので歯が立つと思っていないだろうね」
女偉丈夫はちょっと気がそがれた様な表情をする。
歯が立つかどうか、自分の体でこれから試すがいいさ・・。
私がスイッチを切り替えると、さすがに女偉丈夫もそれを感じたように、錫杖を構えなおした。
異能?バトルはまだまだ続きます。次回おゆきが本気を見せます。




