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きこりの王子さま  作者: 岸田龍庵
6/8

2−3

 ヘンリックは馬である兄レオナルドの口取りをして、歩いていた。

 馬になってしまった兄の背にはオーレリアが乗っていた。いったんオーレリアを彼女の家に送り届ける途中だった。


 心ここにあらず。


 オーレリアはそんな感じでかっぽかっぽ歩くレオナルドに揺られていた。

 誰も喋らなかった。

 おそらくは会話が出来る、馬と人間に分かれてしまった兄と弟も一言も口を利いていなかった。鳥や森の動物がいつものように兄弟と話そうとどこからともなく出てきたが、いつもとは違う兄弟の様子を察すると、どこからともなく消えていった。



 こんな話があっていいのだろうか。オーレリアはぼんやり思った。

 自分を助けてくれた王子様の名前を聞こう思ってきたのに、王子様は馬になっていたなんて。

 しかし、自分は王女様。小さい頃から「王子様が助けてくれる」ということだけを教えられてきただけの王女様。そんな王女様の私に何が出来るのだろうか?

 王女様の私に。


「ヘンリック」

 オーレリアは知らず知らずに王子を呼び捨てにしていた。

 口取りをしていたヘンリックは答えずにオーレリアを見上げただけだった。

「あなた達に呪いをかけているものは誰なんですか?」

 ヘンリックは目を丸くした。何を言っているのだろうかとヘンリックは思った。

「誰なんですか?」オーレリアの聞き方は執拗(しつよう)だった。

「聞いてどうするのです」やんわりとヘンリックは言った。

「倒しましょう」オーレリアは言った。

「どこの誰なのか知りませんが、倒しましょう」

 その言葉に、さすがに馬になったレオナルドも首をオーレリアの方に傾げた。

「何を言っているんだ、この女?」馬になっていなければレオナルドはこんなようなことを言ったに違いない顔をしていた。



「しかし、王女。倒すと言っても僕たちには先祖伝来の宝刀もなければ、祝福を受けた魔法の鎧もありません。こんな私たちではおちおち命を落としにゆくようなモノです」しごく冷静にヘンリックが言った。

 もっともといえばもっともなことだった。

 事実、今は馬になってしまったレオナルドがアクタイオンを倒すことが出来たのも森のみんなが武器や魔法の手を提供してくれたからに過ぎない。

 ただし、アクタイオンを倒しに行くという勇気は誰も貸してはくれなかったが・・・。



「そんなもの必要ありません。知恵と勇気があれば人間なんでも出来ます。行きましょう」

 オーレリアは「行きましょう」と言ったところで、どこに行くのか誰を倒しに行くのか何も決まってはいない。

 するとオーレリアを乗せたレオナルドが止まった。ぴたりと止まって動かなくなった。

「ちょっとふざけないで頂戴」オーレリアはレオナルドの腹を叩いたり手綱を引っ張ったりしたが、馬になった木こりはまったく動かなかった。

「家に帰るんです私は」

 レオナルドは首を傾けた。






 ローランド家では蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 さらわれて二度と生きては帰ってこないだろうと思っていた娘が帰ってきたばかりか、王子をつれて帰ってきたのだから。


 ところが、久しぶりに帰ってきた娘は「ただいま帰りました」の一言も言わずにお城の倉庫に駆け込んでごそごそと探し始めた。

 呆気にとられた両親は倉庫の入り口で娘のやっていることを見ているしかできなかった。

 オーレリアの両親と同じように「呆気にとられて見ているだけ」なのが木こりの兄弟だった。

「あのう」おそるおそる、オーレリアの母親は黒い馬の傍らにいる、顔も服装も王子様っぽい少年に声を掛けた。

「あなたが娘を助けてくれた、王子様ですか?」

 王子と呼ばれたヘンリックは丁寧に「いいえ、違います」と答えた。「助けたのはこっちです」と黒い馬の方を指さした。

 オーレリアの両親は顔を見合わせた。

 この若者は何を言っているのだろう?馬が人を助けにやってくるわけがない。

 馬は馬だ。それに喋っているあなたは王子様そのものではないか。

 服装と言い立ち振る舞いといい。助けられたとはいえウチの娘は奇妙な王子を連れてきたモノだ。



 そうこうしている間に倉庫からオーレリアがガチャガチャ物音とともに出てきた。

「おい、それは」狼狽したのはオーレリアの父だった。

 オーレリアが手にしているのは先祖伝来の鎧と、湖に住む魔法使いから祝福された剣だった。

 どれも父の宝物であり、父がさらわれた母を助けに行ったときに魔物と戦った武器であり防具だった。それに馬具も一緒に持っていた。



「お父様、これを借ります」

「私の宝物じゃないか」

「宝物をこんな薄汚い倉庫に入れておいて、何が宝物なもんですか」

 もっともだった。しかし、さらわれて戻ってきたら、娘は口汚く随分と違う性格になって戻ってきたらしいと両親は思った。

「ちょっと悪い人を退治してきます」そういって父の宝物をヘンリックの足元にどさりと置いた。

 馬と王子の兄弟はそろって鎧を見てそれからオーレリアを見た。

「あの、オーレリア」言ったのはヘンリックだった。

「こんな年代物の鎧を借りても僕たちに呪いを掛けた人は倒せないと思うよ」

「誰があなたにこれを着てくれと頼みました?」オーレリアは言った。

「私が着るんです。さ、鎧の着方を教えてちょうだい」

読了ありがとうございました。

まだ続きます

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