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翌日、王女オーレリアは歩いてレオナルドのいる木こり小屋へ行った。
遠目に薪割りをしている人影が見える。その人影のそばに、見たことのある女性が立っていた。見たことがある人影はグースおばさんの娘のキンバリーだった。
オーレリアは声を掛けようとしたが、その人影はレオナルドではなかった。
栗色をした長い巻き毛の、ちょっと見ると女の子と見間違うような感じの男の人だった。その容姿と木こりの作業がとても不釣り合いに見えた。
「おはようございます」
オーレリアに気がついたのか、キンバリーの方から声をかけてきた。オーレリアは挨拶を返した。
何でグースおばさんの所のキンバリーがこんな所にいるのだろう?
「あなたは、どんな用事が?」
「薪を分けてもらいに」細い透き通るような声でキンバリーは言った。「これが日課なんです」
なるほど。確かにグースおばさん達女手しかない家では薪割りは一苦労だろう。
食事とかの世話をしてもらう代わりに力仕事を肩代わりしているのがレオナルド達なのだろう。
しかし、レオナルドの姿が見えない。
「おはようございます」良く通るさわやかな声で木こりの男はオーレリアに声を掛けてきた。オーレリアは小さく頭を下げたが、彼女はこの木こりに見覚えがない。しかし、相手は自分の事を知っている。
「ヘンリック」たしなめるようにキンバリーが声をかけた。キンバリーもこの男が誰であるか知っている。
「ああ、そうか」木こりは勝手に納得したように言った。
「人間の姿でお会いするのは初めてですね。ヘンリックです」
木こりは自分がヘンリックだと言った。
「ヘンリック?」
それは馬の名前じゃないのだろうか。レオナルドの愛馬。
と、ここまで考えた時に、オーレリアはグースおばさんが聞かせてくれた話のことを思い出した。
「あの兄弟は、どちらかが必ず動物になっている」と、
まさか、
「兄さん、おいでよ」
ヘンリックの声に、小屋の奥から黒毛の大きな馬がのっそりと出てきた。
黒い馬は人なつっこい印象があるヘンリックとは違って、どこか無愛想に見える。
事実、黒い馬はジロリとオーレリアを見てから、プイっとそっぽを向いた。
「兄さん、失礼じゃないか」馬に向かってヘンリックは言った。
黒い馬はブルルと鳴いただけだった。
その様子はまるで「人間の言葉なんかわからない」と言っているようだった。
そんな、そんなことって。
馬は、黒い馬は間違いなくレオナルドだった。当然言葉なんかは通じない。でもオーレリアにはわかった。
レオナルドは弟に変わって、馬の時間を過ごしているのだ。
レオナルドは驚きを隠せないでいるオーレリアの方を上目づかいに申し訳なさそうに見ると小屋の方に下がってしまった。
「まったく兄さんは。気を悪くしないで下さいね」とヘンリックは言った。
オーレリアは言葉が見つからなかった。
「グースおばさんの所に行けば、僕らの事を知るんじゃないかと思って、あえてお見せしました」
確かに、グースおばさんは話をしてくれた。
でも、昨日の今日だなんて心の準備もあったものじゃない。あの黒い馬が私を助けてくれたレオナルドだなんて。
これでは彼の名前を彼から直接聞けることなどないではないか。オーレリアは全身の力が抜けていくような気がした。オーレリアはその場にへたり込んでしまった。
彼女が住む土地には魔法使いもいれば怪物もいるし、妖精も使い魔も普通に存在する。
街角にある彫刻は、魔法を掛けられた「誰か」かもしれないし、庭で遊んでいる犬は、やはり「誰か」かもしれない。
そんな事はオーレリアの周りでは当たり前のことだった。でも、自分の知っている人が魔法をかけれられ馬になっているなんて。
「無理もないかな」とヘンリックは思った。
ヘンリックは兄から直接色々聞いている。
兄は期限が未だだというのに馬になった。オーレリアが自分のことを忘れてしまえるように。
自分はもともとは王子だけど、今はただの木こりだから。
読了ありがとうございました。
まだ続きます




