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きこりの王子さま  作者: 岸田龍庵
4/8

2−1

 運命の森は強風が吹き荒れているようにざわついていた。


 普段ではあまり訪れるような事のない種類の「お客」が、良く知っている馬の背に乗って森の中を走っているからだ。

 その「ざわつき」を一番敏感に感じていたのは、運命の森に住むただ一人の人間レオナルドだった。



「何かあったのか?」思わず独り言が口を出た。

 この森の事はなんでも知っているはずだった。でも、この森のざわつく様子はあまり見たことがない。

 ざわつきの中をついて、聞いたことのあるの音が聞こえる。ヘンリックの(ひづめ)の音をレオナルドが聞き間違えるはずはなかった。

 しかし、おかしなことにヘンリックと一緒にざわつきが近づいてきている。というよりも、ヘンリックがざわつきを運んできているように思えた。



 レオナルドは薪割りの手を休めて蹄の音が近づいている方を見ていた。

 ヘンリックが森の中から出てくる。ヘンリックはいつもと変わってはいなかった。しかし、その背に誰かが乗っている。

「誰だ?」

 ヘンリックは駆けてくる速度そのままにレオナルドの周りをぐるぐる回っていた。

 ヘンリックがやけにうれしそうにはしゃいでいるのがレオナルドには分かった。

 その原因が自分が背に乗せている人物にあるというのも分かった。

 レオナルドは背に乗っている「女の人」の姿を見て、斧を取り落とした。

 ぐるぐると回っていたヘンリックが止まり、またがっていた「女の人」が背を伸ばした。




「来てしまいました」

 王女オーレリアは金色の巻き毛をふわふわさせて言った。

「来てしまいましたって、あんた」レオナルドは(とび)色の瞳を驚きに大きく開いていた。これだったのか。森のざわめきの原因は。

「ヘンリック。お前、どういうつもりだ?」レオナルドは馬に言った。ヘンリックはうれしそうに鳴いただけだった。

「ヘンリックは悪くありません」オーレリアは馬から降りようと体をひねった。

「私が連れてきてって」

「危ない」

 王女オーレリアはバランスを崩してレオナルドの上に落ちた。

「いてて」







「王子様?」王女オーレリアはオウム返しに聞いた。「あの人が?」

 グースおばさんはにっこりとうなずいた。

 グースおばさんの家は運命の森のはずれにあった。小さなログハウスでお世辞にも裕福とは言えないような風情だったが、どこか説明のできない暖かさがあった。暖炉の暖かさ、スープの温かさ、そしてグースおばさんの暖かさ。

 食卓を囲んでいるのはグースおばさんと、おばさんの娘のキンバリー。それにオーレリア。



「レオナルドの目をじーっと見てごらん。彼の目は(とび)色をしているから」

 そうだったかしら。グースおばさんの言葉に、王女オーレリアはレオナルドの目を思い出してみた。

 しかし目が(とび)色だったとかまでは思い出せない。よくよく考えてみればレオナルドの目なんかまじまじと見たことがなかったではないか。

「この国の人間にゃ、鳶色の目をした人はいないからね」

 そういえば、と王女オーレリアは自分の瞳もグースおばさんの瞳も鳶色ではなく青だ。

「彼はねえ」グースおばさんは昔話を始めるように言った。「滅ぼされた国の王子様なんだよ」

 グースおばさんの話はこういうことだった。



 レオナルドが生まれた国は、彼が少年の時に悪い魔法使いに滅ぼされてしまった。彼の国で生き残ったのはレオナルドと弟のヘンリックだけだった。

 ともに少年だった二人は迷いに迷って「運命の森」についた。

 でも、運命の森は人が住むことを許されていない場所。

 森の精たちは兄弟に向かって

「お前たち二人のどちらかが動物になれば森で住むことを許してやってもよい。動物の世話をする人は森の仲間だからだ」と言った。

 兄弟は取り決めをして、何年か交代で動物になるという事を提案した。森の精もそのことに承諾して何年かごとに兄弟の片方に魔法をかけ、片方の魔法を解くことをしていた。

 兄弟の片方がいつも動物でいることで兄弟は運命の森に住めることになった。



 でも、運命の森に住んでいる間は、兄弟は人間の姿で話をしたことは一度もなかった。

 兄弟はいつの日か、運命の森を出て、国を滅ぼした魔法使いをやっつけることを夢見て、お互いが動物になる日々を過ごしている。

 と、いうのがグースおばさんの知っている限りのレオナルドの話だった。

 レオナルドは木こりで森の世話になっているから、森の精が困ったような時は彼が出ていって戦ったり、いろいろするのだという。

「でも、彼は自分は森の王様だって言いましたけど」

「だって、運命の森で住んでいる人間は彼一人だもの。運命の森に居る人間で一番エライのは彼よ。そういう意味じゃ王様でしょうね」







 その夜。外は冷たい風が吹き荒れていたが、グースおばさんの家のベッドルームは暖かだった。ベッドに入って、見慣れない天井の模様を見ながらオーレリアはぼんやりと考えていた。

 レオナルドは、この先にどうするつもりなのだろう?

 グースおばさんの話を聞くと、彼は、というより兄弟はこの森を離れることはないだろう。

 もし、彼ら兄弟が運命の森を離れる時は、自分たちの国が再興できた時か、呪いが解けた時か、それ以外にはないのだろうか?

読了ありがとうございました。

まだ続きます

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