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きこりの王子さま  作者: 岸田龍庵
3/8

1−3

きこりの王子様1−2の続きです

「そうか、あんたは例の王子様探しの途中に本当にさらわれちまったわけか」


 大蛇の山を下りる山道。

 私は木こりが呼んだ馬に揺られていた。馬は木こりが指笛を吹くとどこからともなくやってきた。木こりは馬の口取りをしている。

「さらわれた相手が悪すぎたな。あんたあのまんまじゃ本当に食い殺されてたぜ」木こりは笑いながら言った。

「おぼっちゃま王子様じゃアクタイオンには勝てないだろうな。助けてもらった相手も悪かったけどな」そういって木こりは大笑いした。


「でも、どうして助けてくれたの?」

 不思議で仕方がなかった。どうしてみんなに恐れられている大蛇相手に、この木こりはたった一人で立ち向かっていけたのだろう?

「別にあんたを助けに行ったわけじゃないぜ」木こりは私の方を見て言った。

「あのまんまアクタイオンをほったらかしにしておいたら森のみんなが迷惑するからな。森のみんなの力を借りて俺が代表でヤツを退治しにいっただけだ」木こりは楽しそうに言った。

「森の聖霊のみんなの力があったから俺はアクタイオンに勝てたんだけどな」

 つくづく不思議な男だった。

 今まで私が出会ったことのない人種だった。

 私にとってはこの男のほうが怪物に見えた。


 それっきり会話がなくなった。私は黙って馬に揺られているしかなかった。私とは反対に木こりは小鳥や草木と話をしているように見えた。

「あなたは動物の言葉が分かるの?」

 木こりは不思議そうな顔をした。

「言葉なんか分からないよ。ただ、なんとなく、そんなことを言っているんじゃないかって気がするだけだよ」と木こりは言っている。

 でもその様子はどうみても会話をしているように見えた。それはとても楽しげだった。



 やがて道は二つに分かれていた。右に行くと私の屋敷に続く道。反対は木こりの住む森に続く道。

「ヘンリック、このお姫様を家まで送ってもらえねえか」木こりは馬の鼻面をなでた。すると馬は「分かった」とでも言うようにヒヒンと鳴いた。

「お姫様、こいつが家まで送ってくれるっていうから。ここでお別れだ」


 ここでお別れ。


 お別れと言われると悲しくなるのは気のせいなのだろうか。

「あの」私は木こりに言った。

「私の父に会って頂けますか?多分、たくさんの褒美をめらえると思いますが」

 そんなことがあるわけがない。でも、どうして私は身分の卑しい人間に頼み事をしているのだろうか?

「褒美?」木こりは目をきょとんとさせた。

「そんなもんいらないよ。俺はのんびり木こり稼業(かぎょう)が出来ればいいからさ」ガハハと木こりは笑った。

「でも・・・あなたには欲がないのですか?」

「欲?」またまた木こりはきょとんとした。

「俺は色々なものを森の仲間からもらっているから足りてるよ。まあ人には色々いるからな。あれこれ欲しい人、そうでない人。俺はどっちでもないけどな」

「あなたは他の王子様みたいに人助けをして教会から徳のある人と褒められたりしたくはないのですか?」

「王子?」目をきょとんとさせて木こりは言った。

「俺は森の王様だぜ、王子様よりエライんだぜ。王様の俺は王子様にはなれないなあ。さ、ヘンリック。頼むぞ」

 木こりはそう言ってもう一度ヘンリックの鼻をなでた。

「じゃあなお姫様。今度は王子様に助けてもらえ」

 木こりは左の道へ、

 私を乗せたヘンリックは右の道を、それぞれ歩き始めた。



 ぽくりぽくり。



 ヘンリックの(ひづめ)の音を聞きながらぼんやり考えていた。

 不思議な木こり。

 木こりなんだけど森の王様。

 王子様ではなくて王様。

「ねえ」私は木こりの真似(まね)をして私を乗せてくれているヘンリックに聞いた。

「あなたのご主人様はどこでもあんな感じなの?」

 応えてくれないかと思った。

 でもヘンリックは「そうですよ」とでも言うようにヒヒンと鳴いた。

 言葉が分かったのかしら?

 何かがもやもやしていた。ヘンリックののんびりとした足取りに揺られながらもやもやしていた。

 なんだろう?

 私は王子様に来てほしかったのに、来たのは木こりの王様だった。

 キレイでもないしお金持ちにも見えないし、ちっとも優しくなかった。

 

 キレイでお金持ちの王子様はこれからもたくさん私の目の前に現れると思う。

 でも優しくない木こりの王様はもう来ないかもしれない。

 不思議なもので、王子様にかけてもらったたくさんの優しい言葉は一つも思い出せない。

 でも、優しくない木こりの言葉の一つ一つは思い出せる。


「ただの木こりだ」


「俺は森の王様だぜ」


「黙って食え!」


「助けてもらったんだ、礼くらい言ったらどうだ?」


「ヘンリック」私は知らない間に馬に話しかけた。

「私をあなたのご主人様の所につれていってくれないかしら?」

 ヘンリックの足がぴたりと止まった。そして彼はうれしそうにヒヒンと鳴くと、いきなり元来た道を走りだした。

 私は背をかがめてどうにか手綱を握っていた。ヘンリックはものすごい速さで走っていた。

 ヘンリックに揺られながら、私の中のもやもやの理由が分かった。

 私はまだ、お礼を言ってなかった。

 助けてもらったお礼を。

 それにまだ、名前も聞いてない。

 どんな名前なのだろう。

 彼は名前を教えてくれるだろうか?

 

 名前を教えてもらえたら?

 その時、私は彼になんて言うのだろう?

読了ありがとうございました。

2−1に続きます

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