1−2
木こりの王子様 1−1の続きです
私を助けに来たのは、
金色に光る鎧をきて金色の盾、それに金色に光る斧を持っていた。顔は金色の兜に隠れていて見えない。
王子様なら普通は細い宝石がついた剣を持っていたり、刺繍が入ったチョッキを着ているはずなのに、この男はイカツイ鎧姿。金色の鎧だが品のない金色の鎧。
この人は王子様なんだろうか?
「アクタイオン、悪いけどお前には死んでもらう」金色の兜の奥に見える目が光っていた。
「お前がいるだけで森に住むみんなが迷惑するんでな」
「大した自信だな」大蛇は鎌首をもたげた。「貴様なんぞ触れるまでもないわ!」
言うと大蛇は口から火を吐いた。金色の男は正面から火を浴びていた。
「王子様っ!」思わず声が出てしまった。
「思い上がった人間めが」大蛇はひとしきり火を浴びせると二つに割れた舌をチロチロとなめ回していた。
「残念だったな」男は金色の盾に隠れていた。男の金色の鎧はどこも焼けてはいなかった。
男は盾を放り投げた。盾は床に落ちると木の板に変わった。
「こざかしい!」大蛇は大きなしっぽをムチのように男に目がけて振り回した。 尻尾は男に当たったように見えた。
ところが男が立っていた場所には大蛇のしっぽが転がっていた。
「お礼をいいな。臭い尻尾をきってやったんだ」
言葉使いが汚い!こんな王子様は見たことない!
「そろそろ本気になったほうがいいんじゃないのかアクタイオン」男は斧を振って刃についた血をはらっていた。「じゃないと死ぬぜ」
言葉使いが汚い上にふてぶてしい。
「なるほど。久しぶりに楽しめそうだ」大蛇は全身をブルブル震わせた。すると大蛇の首が八本に増えた。
「ようやく正体を現したか」男は楽しそうに言った。
「これでお前の死も確実」大蛇の八つの首が一斉に男に襲いかかった。男はまったく避ける様子がない。
すると男は左手を空に向かってかざした。男の手が金色に光り始めた。
男は左手を大蛇に向かって一閃させた。すると男の手から出てきた光の刃が大蛇の首を三つもはねとばした。
大蛇の絶叫が耳にうるさかった。
男は左手から出す金色の光で次々と大蛇の首を跳ね飛ばしていった。八本に増えた首は結局最初の一本になってしまっていた。
強い。強すぎる。
「どうした?もう首は増えないのか?」男の左手は光っていなかった。
「お前は一体?」大蛇は動揺していた。強すぎる男に恐怖していた。
男は無言で斧をふるった。大蛇の最後の首が胴体から離れた。
「ただの木こりだ」
大蛇の首がどさりと落ちた。大蛇は死んだ。首がなくなった胴体がピクピクとけいれんしている。
私は怖くなった。
大蛇にではなく、あっさりと大蛇をやっつけてしまった男にだ。見ると男の体が光った。光が消えると、男の姿が別人に変わっていた。
男は上半身裸だった。
筋肉がいっぱいついている裸の男が身につけているのは粗末な革の腰巻きとサンダルだけだった。金色の兜も鎧もどこかに消えてしまっていた。
こんな男があの大蛇をやっつけたとは思えない。
上半身裸になった男はごろりと横になってしまった。そしてそのまま腕枕をして寝てしまった。いびきがうるさい。
なんなのこれは?
この男は私を助けに来てくれたんじゃないの?勝手にやってきて勝手に怪物退治をして寝てしまった。
私は膝から力がなくなってくるのを感じた。今まで男と大蛇の戦いを、どうして見ていられることが出来たのかが分かった。緊張していた。考えてみれば大蛇にさらわれてから、まともに寝ていなかった。その緊張が解けた。
もう、何が何だか分からなくなった
肉が焼ける匂いが鼻につく。その匂いで私は起きた。
ここは?
「起きたか?」裸の背中が見えた。
そうか。私は大蛇にさらわれて上半身裸の男に助けられたんだ。
もっとも私は助けられたわけじゃなくて、まだ牢屋の中にいる。
裸の男は、何かを食べていた。火にあぶった肉のようなものを食べていた。その様子を見ていた私のおなかが鳴った。
「食うか?」おなかの音を聞いたのか、男が自分が食べている「モノ」を私に見せた。鉄の串に刺さった円筒型の肉のかたまり。真っ黒い鱗がついた串焼き。
あの大蛇の肉じゃない?
あんなもの食べられるわけがない。私は答えるより先に何回も首を横に振った。
「そうか、結構いけるけどな」いいながら男は大蛇の肉にかぶりついた。
なんなんだろう、この男は?
「あの、ここに何しに来たんですか?」
「何って、アクタイオンを倒しに来たんだよ」私の問いに男は不思議そうな顔をした。
「あんたこそ何してんだ?」
何って?私は悪い大蛇に捕らえられた可哀想なお姫様なのよ。
すてきな王子様が助けにきてくれるはずなのに、どうしてこんな身分が低い野蛮人に助けられないといけないの?
「そうか、あんたさらわれたんだな?」男は斧を持って私がいる牢屋に近づいてきた。大蛇と戦っていた時には金色に光っていた斧はただの木こりが使うようなみすぼらしい斧に変わっていた。
「ちょっと離れていな」男は斧を錠前に向かって振り下ろした。ガチンと音がして錠前が壊れた。
「はいよ」男は鉄格子の扉を開けた。
これは勝手に出ろということなのだろうか?
こういう場合は男の人が女性の手を取って出してくれるのでは?
しかし男はまた大蛇の肉を食べているだけだった。私は仕方なくドレスが汚れないように気をつけながら牢屋を出た。
「あの、あなたは?何者?」
もちろん名前を聞くつもりなんてこれっぽっちもなかった。名前を聞いた所で、名前を教えてもらった所で、この男は王子様じゃなから全然構わないんだけれども。
「ただの木こりだ」自分は木こりと言った男はつまらなそうに言った。
「助けてもらったんだ、礼くらい言ったらどうだ?」そして命令口調で言った。
これは、
私はお姫様なのよ?木こりのような身分の低い人間にお礼を言うような教育は受けていない。
なんて思っていたらまたお腹が鳴った。
「そうか腹減ってんだよ、なあんた」木こりは食べかけの大蛇の肉を見ていた。「これは食えないんだよな」そう言って肉を火の中に捨てた。
「ちょっと待ってろ」木こりは指笛を吹き鳴らした。甲高い、耳を切り裂くような音だった。木こりの指笛が止むと、どこからともなく三羽の鳩が飛んできた。
三羽の鳩は木こりの周りをくるくる回ると足元に止まった。この三羽の鳩は木こりの言葉が判るのだろうか?
「すまねえな、みんな」木こりの顔が少し寂しそうに笑った。鳩は木こりの言葉に応えるように鳴いた。
木こりはゆっくりと斧を手に取ると鳩に向かって振り下ろした。
私は目をつぶってしまった。
目を開けると木こりは首がなくなった鳩の毛をむしって串を刺して火にあぶっていた。火のそばに鳩の首が三つ転がっていた。
残忍な男。
自分で鳩を呼んでおいて殺してしまうなんて。おまけにこの木こりは自分で殺した鳩を食べようとしている。
「食べな」木こりは自分で殺した鳩の丸焼きを私に突きつけた。
いよいよこの男の神経がよく分からない。
「冗談じゃ、ありません。こんなもの食べられません」この男のやることなすことに腹が立っていた。
「黙って食え!」ぴしゃりと木こりは言った。
「あんたのために、みんなが命をくれたんだ。ありがたく黙って食べな」木こりの顔が怒っている。大蛇と戦っている時もでも、木こりはこんな顔はしていなかった。
「みんなが生きるためにみんなが命を分け合っているんだ。俺が生きていくためには森の仲間の誰かの命を食べなきゃならない。鳩はあんたにそれをしてくれたんだ。だから黙って食べな」
木こりはひとしきり言うと、転がっている鳩の首を三つ拾うと火の中に放り込んだ。
「ありがとな、みんな」
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1−3へ続きます




