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「王子様が出てくる話」を書いて欲しいという依頼があって書きました。
短編のつもりでしたが、このサイトだと分量が多いので続き物として投稿します。
初続き物です。よろしくお願いします。
「囚われの身」というものに憧れというのはあったけど、退屈すぎる。
寂しい孤島の、そのまた塔の一番上の部屋に助けるのには絶好の場所に閉じこめられているというのに、まだ王子様は助けにこない。
三日経っても誰もこない。来るのは一日二回の給仕をするこびとの怪物だけだった。
このまま誰も助けに来てくれなくて、朽ち果ててしまうのかしら。
そんなことを考え始めた時に、鉄の扉が開いた。
扉の向こうに立っていたのは待ちに待った王子様だった。
「あの」初めて助けられる私は、助けに来てくれた王子様に、どのように接して良いのか判らなかった。
「さあ、助けに参りました」
どぎまぎしている私に、王子様はおろし立てのように汚れのない真っ白な手袋をした手をさしのべてくれた。
王子様の衣装はかなりのお金がかかっているように見えた。たくさんの宝石をちりばめてある冠、金の糸の刺繍が高価そうなチョッキ、真っ白なタイツ、冠と同じように宝石を散らした剣。
こういうお金の掛かっている王子様は「一流の王子様」なんだろうな。
でも、王子様はどうやって怪物たちをやっつけてこのほこりだらけの塔に登ってこられたのだろう?
そんなことよりもとても大切な事を聞かなきゃならなかった。たった一つの約束事だけを私は小さい頃からお母様に教えられてきた。
「助けてくれた王子様の名前を聞きなさい。もし、その王子様が自分の名前を名乗ってくれたら、その王子は自分にとって運命の人」なんだと。
「あの、お名前を」を言う前に、
「王子。急ぎましょう。次の姫を助けに行かなくては」
「なんと、遅れているのか?」
「はい、一時間程の遅れです」
「魔法使いを倒すのに時間がかかっていたようだな。やはり安い怪物退治屋はダメなようだな」
「そのようで。次からはもっと金を積んで優秀な退治屋を雇わないとなりませんね」
「しかし、父上がうんと言うか?」
私を助けにきた王子様は、おつきのおじいさんとそんなような会話をしていた。
それからの私はじゃがいも袋と変わらなかった。流れ作業で馬車に乗せられてお屋敷まで運ばれていった。
なんなのこれは?王子様が家まで送り届けてくれるのではなかったの?それから日を改めてお城から使者がやってきて、正式に舞踏会の招待が届いて、王子様に求婚されるのじゃなかったの?
それにどうして、あの王子様は名前を教えてくれなかったの。
「助けてくれた王子様の名前を聞きなさい。もし、その王子様が自分の名前を名乗ってくれたら、その王子は自分にとって運命の人」
私は、そう教えられて育ってきた。でも、わざわざ悪い魔法使いにさらわれて、王子様に助けられてみたのに、その王子様は私を牢から出すだけで忙しそうに帰ってしまった。
「お父様、これはどういうことなのです?」
家に届けられたその日の夕食の時に聞いた。
「う〜ん」お父様は唸っているだけだった。
「さらわれた場所が良くなかったのでしょうか?」お母さまがお父様に聞いた。
「いや、その王子はつまりあれだ。ただの点稼ぎだな。助けられた王子が悪かったのだ」
私の生まれた土地には、たくさんの王子がいる。
私のお父様も王子で、お母様は姫だった。王子だったお父様が、さらわれたお姫様のお母さまを助けて、二人は結婚して私が生まれた。
私はこの家の「お姫さま」で、弟はこの家の「王子様」になる。
私の生まれた土地では、「年頃の娘は、悪い魔女などのところにさらわれて、王子が助けるのを待つ」という風習がある。年頃の娘と男が出会うきっかけはそういうものだった。
そういうわけなので、
私は「魔女」にお願いして塔の上に幽閉されて、王子様が助けてくれるのを待っていた。
つまりは「さらわれる」という設定の中で私は王子様を待っていた。
ところが助けにきてくれた王子様はお金で雇った人間に怪物退治をやらせて護衛の人間に私を送らせただけだった。
「良い行い」というのをすると、教会からの祝福があって、地位が上がるので、効率良くさらわれたお姫さまを助けることだけを目的にしている王子様もいる。私を助けてくれたのはそういう王子様だった。
この手の王子様は、お姫さまを助けることに興味がなくて、お姫さまを助けた事実を教会に伝えて祝福を受けて地位をあげることが目的だったりする。
もちろん、助けるお姫さまに興味はなくて、出会いとか、結婚相手を探すということは頭にない。
そんな相手じゃ助けてもらっても意味がない。じゃがいも袋を届けると同じように家に送られるだけだ。
「本当の王子様に助けてもらわないとダメですね」とお母さまが言った。
「しかし、いるか?今どき本物の王子が?」
お父様は諦めるように言った。今は自分の地位をあげることしか考えていない王子様しかいないらしい。
本当の王子様はどこにいるのだろう?
私を迎えにきてくれる王子様は?
運命の糸でつながっている王子様は?
「また魔女にさらってもらうように頼んでみるか?」私の顔を見てお父様は言った。
ところが、私は本当にさらわれてしまった。
「さて、お前をどう料理してやろうか」牢屋の中の私を覗き込む爬虫類の目が笑っていた。うろこだらけの大きな怪物は長い胴体を揺すって笑っていた。
もうダメだ。私は本当に危険な所にさらわれてしまった。とても霊力が強い恐ろしい大蛇の住む山につれてこられてしまった。
今までみたいな「お嫁さん、お婿さん探し」のためにさらわれるようなものじゃない。
本当にさらわれてしまった。多分、誰も助けには来てくれない。怪物退治屋なんかに頼っているような王子様じゃ、本物の怪物なんかに立ち向かうような勇気はないはず。
私は大蛇に食べられてしまうんだ。
なんで私には王子様が助けに来てくれないのだろう。
どうして自分の地位を高める事にしか興味がないような俗な王子様しか来ないのだろう。
本当の王子様はどこに行ってしまったのだろう。
でも
こんな状況で助けに来てくれる王子様こそ、本当の王子様なのかも。
「おや?愚か者が一人来たか?」大蛇は水晶玉を覗き込んでいた。
「見るか?」大蛇は水晶玉を大きな口にくわえて私に見せた。水晶玉の中には森の中を歩いている一人の男の姿が見えた。
この男の人が私を助けてくれる王子様なのかしら。
でも、従者が一人も居ない。馬もいない。それに服がみすぼらしい。こんな王子様は見たことがない。なんて思っていたら水晶玉から男の姿が消えた。
どかん。と、扉が開いた。私は目を背けた。入ってきたのが体の右半分がなくなっているこびとの怪物だったからだ。
「アクタイオン様、ヤツは強すぎます」それだけいうと、右半身がなくなったこびとは血を噴き上げて倒れた。
「これは一体?」アクタイオンと呼ばれた大蛇は不思議そうに死体を見ていた。
「そういうことだ」
どこからか声がした。大蛇はきょろきょろと自分の部屋を見回す。
「強すぎるヤツの登場だ」声の主は大蛇の正面にいつのまにか立っていた。
私は声を大にして「王子様」と叫びたかった。
でも、その王子様は私が想像したいた王子様とは全然違っていた。
読了ありがとうございました
1−2に続きます