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第5話 ゲーム実況、やってみた! Aパート

『ゆーゆー! 今日も勇者アマリリスチャンネルを観てくれてありがとうございます! 今日もおなじみMARIRINこと勇者アマリリスが一生懸命がんばります!』


 いやー……先日の放送は不意打ちだったわー……。


 あんなイイ笑顔見せられたら何度も再生しちゃうわー……本当に尊かった……。

 もう今日一日ずっとメシ食ってる時の顔が気になって、世界征服会議なんて手につかなかったわ。部下に怒られたのなんのって。


 この水晶板、もっと小さくできないものか……。

 そうすればいつでもどこでもMARIRINの動画が観られるのに。


 ――いや、そんな技術があったら人間どもが戦争の通信手段に使うだろう。

 なんで人間の文明の発展を願ってるんだ私は。


『今日はですね、私の修行の様子をお見せしようかと思います! えっと、先日の質問コーナーで理解できたんですけど、私が普段何やってるのか興味ある人が多いみたいで』


 確かにそうだ。勇者アマリリスが冒険以外では何をしているのか気になる。


 いや、もちろん憎き勇者の動向が気になるのであって、プライベートなどには興味がない。むしろ自由な時間は撮影の事など忘れてのんびり過ごしてもらいたい――


 いやいやいや、勇者の抹殺が目的なのに、なんで勇者の健康を祈ってるんだ私は。


『撮影スタッフさんが凄腕の魔導士なので、いつもヒマな時は魔法の練習してるんですよ。なんでも魔法学校では割とポピュラーなやり方みたいなんですけど、ご存じですか、これ?』


 画面に映るMARIRINが持っているのは、両手で抱えるほど大きな――不定形生物。

 透明なクッションとでも例えれば良いのか。


『これ、魔法学校で教材に使ってる“エーテルスライム”っていうんですけど、これに魔力を吹き込むと、自分の好きな形に変える事ができるんです。見ててくださいね!』


 そう言って勇者がスライムに魔法を吹き込むと、ぐにゃぐにゃと変形する。


 やがてスライムに足のようなものが生え、細部が引き締まり、顔のようなものが生まれ――四本足の動物のようなものになった。これは……犬だろうか?


『できましたー! それでですね、この“エーテルスライム”同士を戦わせるんです! まだまだ勉強中ですけど、とっても楽しいんですよ!』


 ほう、魔法学校ではそうやって修行をしていたのか。

 確かにスライムの変形技術、操作技術などが鍛えられる。

 ゲームと修行を同時に行える、画期的なものだ。


『それでは対戦してみたいと思います! といっても相手はいつも修行をしているスタッフさんなんですけどね! 紹介します、スタッフさんの“エーテルスライム”です!』


 画面内にもう一体のオブジェクトが出現する。


 こちらは――なんと勇者アマリリスそのもの。


 愛嬌のある顔に、適度に肉付きの良い体型、風になびく長髪、全てが再現されている。


『って、これ私じゃないですか! 私、自分相手に対戦するんですか!? で、でも負けませんよ! それでは勝負開始です!』


 画面内で対峙する犬と勇者。


 これは……どちらを応援すればいいのか。


 犬の方はMARIRINが一生懸命作ったものだ。しかしその相手はMARIRINそのもの。

 どちらが勝っても後味が悪いではないか。

 くそっ、これはコメントに書き残さねばなるまい。


『いきます! くらえー! あっ、ちょっと待って、それハメじゃないんですか!? あっ、あっ、あーーっ!』


 こう言ってはアレだが、MARIRINが操る犬はそれほど強くなかった。


 魔力量自体は多いが、肝心の操作がおぼつかない。本当に修行中なのだろう。


 対するMARIRIN人形は犬の攻撃を的確に避け、華麗に戦っている。

 これ舐めプだろ絶対。

 MARIRINの下手なプレイを長引かせるために、わざと焦らしているな。


『あれっ、なんで動かないんだろ、あっ、ちょっと、今はダメっ! あれーっ、どこいっちゃったの? えっ、どっち!?』


 そうじゃないMARIRIN! 右だ、右!

 ああっ、後ろから攻撃されてる!


『えっと、あ、そうか、スライムだから強く魔力を入れちゃうと逆に伝わりにくくなるんだ! もっと優しく魔力を伝えて……あっ、動いた動いた!』


 そう、その調子だ、もっと優しくスライムは扱え!

 落ち着いて敵の攻撃を見切って、そう、今が攻撃チャンスだ!


『あっ、今ならいけるかも! えいっ!』


 いいぞ、そう! そこでラッシュをかけろ!


『えいっ! えいっ! え……きゃーっ! 魔力量がゼロになっちゃった!』


 ああ、負けた!


 なんてゲームが下手な勇者なんだ!

 ツッコミどころ満載じゃないか!


 ミニチュアのMARIRINは勝ちポーズをとっているが、その横で本物のMARIRINがガックリとうなだれている。


 すまないMARIRIN、正直フォローのしようがないくらい下手だった。


 まったく……こんなに下手なゲームをどうして動画にしようと思ったのか。

 どうせなら、もっと上手な勇者の動画が観たいものだ。


『ええと、すみません、今回は負けちゃいました……でも、次は絶対勝ちますから! もしよかったら、また観てくださいね! チャンネル登録はこちらから!』


 ……いや待てよ。

 今回のMARIRINは途中から魔力操作のコツを覚えた。


 次は勝てるかもしれない――また観てみよう。


『ううう……次は絶対に勝とうね、ウサギさん』


 あれウサギだったのか!

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