新乙女軍、セイラン◇
サクは婦好に抱きかかえられたまま、廟堂をあとにした。
意識はあるが、身体が動かない。
「サク、早く休もう。姉のもとへ」
……姉?
サクは言おうとしたが、口がうまく開かなかった。
廟堂の回廊を進む。
すると、煌びやかな装飾の若い女性が婦好に駆け寄った。
「きゃああ、婦好ちんじゃない!こんにちはあ!」
甲高い声である。
「……? 誰だ?」
婦好が訝しんだ。
「え? 覚えてない? うっそー、つれないなあ。婦好ちん。覚えて覚えて! 婦セイ様に仕えてる、セイランだよお」
「そうだったか。以前に会ったときと雰囲気が違う」
「えへっ、まぁ、あたしもいろいろあったからねえ」
セイランは婦好のまわりをゆっくりと歩いた。
「見てのとおり、病人を連れている。もし用事があるなら、手短に頼む」
「つれないなあ。婦好ちんに知らせたいことがあってぇ……じつは、あたしもいま、婦井様に言われて、率いてるのお。おんなのこだけの軍っ!」
「よろしくねえっ!」
セイランは、手を差し出した。
「あ。この子のこと抱っこしてたら、手は離せないか、あーん、残念〜〜」
「セイランよ。それならば、戦場で会おう。
ところで……、首元に紅い痕が咲いているのは、職務と関係のあることか」
婦好に指摘されて、セイランは首元をおさえた。
「あれ〜〜? ついてた? もう、婦好ちんに見られるなんて、最悪」
「微王のものか?」
「違うよ〜〜、微王も商王も、わたしなんかと寝ないよ。その役目は、婦井様!」
「そなたは、大事ないか」
「んー? なになに? どういう意味?」
「功名心のために心身を摩耗してはいないか。胸中の乙女は涙していないか」
「えへ、心配してくれてるの? 大丈夫だよお。婦好ちんよりは、殺してないし。
それにしても、この子は? 倒れちゃってるけど、どうしたの?」
「参謀の、サクだ。巫祝の娘だ」
「ふうん」
セイランは唇に手をあてて低い声で囁いた。
「参謀、ねえ。あたしのほうが、すっごく使えると思うけどな……えへへ」
セイランは婦好の耳元で誘うような声色を出す。
「婦好ちんなら、わたしの身体、好きに使っても、いいよ?」
怪しげな雰囲気から一転、セイランは快活な笑顔で去っていった。
「婦好ちん! 今度、鬼方討伐のときは協力しようね!」




