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上甲微・出陣前夜

 サクは戦場となりうる場所をハツネに告げて、土地を探索させた。


 木製の机を削り、地図を作る。

 机上の模擬戦を幾度となく繰り返す。

 実際の軍議の場でも使用するためである。



鬼公(きこう)が、動いた」


 鬼公が布陣するという噂は、(またた)く間に大邑商(だいゆうしょう)を駆け巡る。


 それまで、婦好が担いサクが参じた戦は、相手が仕掛けた攻撃を防衛するものであった。

 今回は違う。外交の延長線上にある儀礼的な戦いである。


 とはいえ、命を奪い合うことに変わりはない。

 戦車を整える。

 武器を揃えて研磨する。

 食糧を確保する。


 戦に際し、婦好軍の編成を組み直した。


【婦好軍】


 婦好隊 千

 第一隊 レイ 五百

 第二隊 リツ 五百

 第三隊 キシン 五百

 第四隊 ギョク 五百

 第九隊(非戦闘部隊の長) シュウ 五百 外 五百


 婦好直属の者はおよそ四千の軍である。

 第九隊のうち外五百は、月のものなどを理由に後衛に回る人員である。


 第三隊の隊長のキシンはサクが抜擢した。

 長年従軍しており、人望も厚い。

 無駄を嫌い、動くべきときを知る者である。


 キシンはいつしかサクの思考の相手をするようになった。


「これはこれは、サクさま」

「キシン。今日も作戦を練るのを手伝ってはくださいませんか」

「昨日の続きですね。次の手ですが、わたしが敵なら東から婦好軍を攻めます」


 もとはキシンは高貴な身分の末娘だ。

 嫁に行くのを嫌い、志願して婦好軍に入隊した。


 キシンは、特に武芸に秀でているわけではない。

 しかし、機転が利く。

 目の前の小利を捨ててでも、のちの大利を見極めて判断できる人物だ。

 また、婦好軍の加入歴はサクよりも長い。敵側の諜報員である可能性も少ない。


 だから、婦好に進言して隊長にした。

 武功によって隊長を決定する婦好軍にとっては珍しい人選である。

 同僚の嫉妬心を封じ、気を配りうまく立ち回ることもできる。

 サクはキシンを信頼している。




 商王の軍は以下である。


【商王軍】

 商王(直属) 一万

 (じゃく)  四千

 戉  二千   

 婦好(大将軍)四千

 子商     三千

 子画     三千 

 井亥     三千


(辺境の守)

 沚馘

 倉候豹

 望乗

 攸候



 対して、鬼方の軍は以下と伝え聞く。


【鬼方軍】

 鬼公(直属)    二万

 張達(大将軍)   五千

 ほか、不明


【土方(鬼方連合軍)】

 呂鯤(大将軍)  八千



 兵数は鬼方が多い。

 しかしながら敵方の情報には嘘が混じるものだ。


 おおよそ互角、とサクは見積もった。

 商は戦車・武器の数と技術が敵よりも高く、訓練されている。



 


 商王は長期の斎戒沐浴(さいかいもくよく)に入った。


 王(みずか)ら白装束を纏い、桑林の野に祈る。


 商王に伝わる祭祀は秘儀だが長く過酷である。

 祭祀を担うなかで、微王は髪と肌を掻きむしって発狂したらしいことをサクは伝え聞いた。



 からりと晴れた日を選び、商王とその巫祝が天に戦いの開始を伺う。


 サクの父もまた巫祝の氏族として連なった。


 〇癸丑卜して、(けん)(うらな)う。鬼方は(わざわい)せざるか。


 〇(うらな)う。鬼方を()たしむることなからんか。


 〇貞う。人三千を登(徴)し、鬼方を伐たしむるに、出佑を授けられんか。



 天帝からの返答を商王が受け取った。


  「(ゆるす)」と──。



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