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帰還

 返る。還る。帰る。


 望白は必死で戦車を走らせた。

 セキは今、死に瀕している。


 セキは城の責任者にして、すべての者の母たる存在である。望白にとっては初めてできた理解者であると言っても過言ではない。



 失ってはならない。


 望白は思う。

 かの少女たちであれば、あるいは、と。




「開門!」


 高き新城の壁に粉塵が舞う。

 ギィ、という重き音が響いた。


「シュウさんを呼んでください!!」


 望白の必死の呼びかけにシュウが駆けつける。

 そのときの望白の顔面はまるで血の雨に降られたようであった。瞳から流れる滴だけが、朱色の液体を拭う。


 その様子に、シュウは何が起こったのかを瞬時に理解した。

 シュウが駆け寄り、戦車のなかを確認する。


「あぁ!! セキさま! セキさま!!」


 シュウと第九隊の兵士がセキの身体を抱える。


「望白さま。ここはわたしに任せて。わたしの医術でできることをするわ」


 望白に対し、シュウは毅然と言った。


「望白さま、あなたは戦って! 城を、守って!!!」




 ◇◇◇



 サクとレイは無数の矢と、血が残る場所へ訪れた。


「遅かったかしら。サク、情報は?」

 とレイはサクに問う。


「いまだ、ありません。もしかしたら、セキさまは捕らえられてしまったかもしれません」



 サクの脳裏に、キビの姿が過ぎる。

 あのときにできなかった行動を、いまなら取れる、とサクは考える。


「サク。どうするの?」


「レイさま。このまま敵本陣へ向かいましょう」



 ◇◇◇



 婦好軍の敵たる虎譚は、本陣へ引き返した。


 虎方の軍師たる虎譚は戦況を顧みる。


 本当はセキを人質に取りたかったが、相手は防御の専門家。罠の危険があり、弓で射るほかは近づけなかった。


「まあ、良いでしょう。情報によれば、あのひとは婦好軍の要。敵に対しては損害を与えた」



 虎譚はその足で総大将のもとへ向かう。

 総大将は椅子に座り、居眠りをしていた。


「虎封さまに、申し上げます」

「ム……」


「我々虎方軍は、退却すべきです」


 攻めるべき城の守りは堅く、なにより猛禽のような敵の大将が味方を次々と殺してゆく。


 婦好という敵大将は戦場を縦横自在に駆けめぐり、次々と兵士を狩った。まるで遊ぶように現れては消えてゆく。


 末端の兵士まで、婦好という存在に軍が怯えはじめていた。


 再度攻めるとしても、兵士に恐怖心が残るのは良くない。


 加えて、四方を敵に包囲されはじめている。分が悪い。

 影の戦においても、敗戦は濃厚であった。




「立て直しましょう。しかし長期的な楔は打ちました」


 そのとき、虎方の本陣には婦好が迫っていた。

 ついに婦好軍の旗が虎封と虎譚を捉えたのである。



 虎譚は覚悟を決めて、腹に力を込めた。

 婦好に聞こえるように声を張る。


「もう、ここまで来ましたか。ずいぶんと、我々の痛ぶってくれましたね」



「虎譚よ。将の首級を持ってくればよかったか?」


 遠くに居るのに、天の使者のようなよく響く良い声である。


 虎譚は敵ながら惚れ惚れした。


 王の妃という立場にして、最強の戦士、婦好。


 しかしながら、その強さはときに脆さになるだろうことは、容易に予想できた。


 ゆえに狙うべきはその弱き部分である。


 虎譚は微笑んで声高に宣言した。


「婦好さま。あなたはまるで死の使者ですね。あなたは九将のうちすでに五将と兵糧庫を滅ぼした。しかし、その間、我々はあなたのお気に入りの家臣を殺しましたよ」



 虎譚は婦好に対して、賭けに出る。


 この女将軍ひとりを殺せば、敗戦は一転して勝利となる。


 すなわち、婦好を怒らせ、動揺させてその隙をついて殺害する。



「亡骸も我々が辱めました。その者の名を教えてあげましょう」




「第九隊隊長セキ。それから、」



「第八隊隊長サク」

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― 新着の感想 ―
[一言] さて、婦好はどう行動するのか。 多分冷静に対処しそうな気はしますが。
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