オープニングその5
外食してたら異世界でマイカーでチビッ子と二人きり。
ステータスは存在しない、あるのは職業とスキル。レベルという概念はあるが、具体的なものは特に無い。熟練度とかその辺も数値ではなく直感的なもので、『鑑定』のようなスキルでもあれば別なんだろうけど、とりあえず現状は持ってないし出回ってはいないらしい。
「割と地球からの転移者は多いんですよー。何せコピペですから、向こうはいなくなる人もいないわけで。察知されなければ文句を言ってくる人も居ないのですー。なので、私が把握していないスキルや色々な物事が存在する可能性も結構有りそうですねー」
「そう言えば貴方の転移は特殊でしたねー。他の方の場合、最初にこちらのルールを説明して大体出来ることを教えた上でクラスを選択してもらうんですがー。
あ、そう言えばこちらの世界のルールを説明してませんでしたね。」
存在するクラスは槍、弓、馬の三種類らしい。そしてそれぞれ強い弱いの関係になるってそれって何て言うSRPG?と言うか兵種だよね。クラスを選択してってどんなんなのさ。
「異世界ですよー。ここの世界は地球のイメージでいう中世、剣と魔法の世界ならだいたい近接、遠隔、特殊で特効みたいなものですよ。魔法兵に弓特効ってのはなくて残念ですが、そもそも弓は魔法の風とか土壁で無効化ってもんですしねー。」
幻想世界で水滸伝なのかしら、というか脱線しすぎてもうよくわからない。そもそも、俺はごほうびご飯の途中だったはずなのに気づけば異世界な訳で、更に言えば仕事明けで疲れてるしだいぶ酒も入っているし、簡単に言うとかなり寝たい。
なのにキーはマイペースにあっちこっちに話を飛ばし、興味深いとこもあるんだが気が付くと違う話題に移っている。
「普通に転移される方々は、クラスを選択して自分のスキルを自分で選び、ナビをカスタマイズしてからチュートリアルスタートって感じなんですー。だから異世界に憧れのある人ならだいたい剣士とか魔法使いなんかを選びますねー。まるでゲームの世界だーって。」
「ちょっと待った、そう言えば俺は何のクラスなんだ?それにスキルだったか、この車もそうだけど、俺はどんな能力があることになってるんだ?」
断片的な解説を遮り、気になったところを突っ込んだ。と言うか、おれ自身の説明がここまで後回しにされてるってどうなんだ。
「…それがですねー、私にもよくわからないんですー」
「…どう言うことだ?」
目をそらしながら、答えるキー。もしかしてこいつ、話題をそらすためにあれこれ遠回りしたんだろうか?
「そもそも、チュートリアルまで行かなかったと言うのが前代未聞なんです。貴方と半分くらいは同化してる身なので、その、ものすごく頭を抱えたい状況なんですが。
先程の騒動で私のなかにある権能の大半がロストした状態です。数値で表すと87%ほどの機能が使用不可能です。また、情報もデリートされたのかバックアップまで到達出来ないのかすらわからないのが現状でして。
具体的に言うと、私が、貴方に、何のクラスを与えたのか、今の私はわからないんです」
「更に言えば現在地も不明です。通常なら、ある程度人里の近くで簡単な魔物と一対一で戦い、それじゃあ良い旅をと伝えて終わりなのです。でもここは、これまで見たことがない場所で、私の知識のなかに存在しない土地になります」
どうやら俺のナビは、割と迷子ってるらしい。