オープニングその4
ラチられた荒野で叫んだ
「…全く同じだな」
就職して二年目にローンで買った大きめのミニバン、ついこの間、七年目でようやく支払いを終えた愛車が目の前にある。一年目でぶつけたときのへこみも、こすられて自力で直した助手席のドアの治療痕も、車内には仕事終わって帰り道にコンビニで買ったコーヒーの空き缶もそのままある。
「貴方が魔力を込めすぎたせいで、色々余計な汚れや傷まで再現されてますねー。新車創造するよりも難しいと思うんですけどー。まぁこのお茶とお菓子はなかなか美味しいですけど、とりあえず説明を再開したいので中にお願いしますー」
いつの間にか車の後部座席を倒し、明日から食べようと買っていたちょっとお高いコンビニ食品を手当たり次第貪る自称神様。いい加減自称神様呼びも面倒だな。とりあえず車に乗り込む。
「なぁ、えーっと神様?」
「あ、とりあえず説明を始める前に、私のことは好きに呼んでいただいて構いませんよー。今の私は名前がない状態ですから、適当な呼び名をつけてもらえると逆に助かりますねー」
まずはこの自称神様についてわかったことをまとめると、今の俺と同じように本体のコピペ的な存在らしい。そして、本体と元々の俺とを足して2で割ったようなものでもあるらしい。
「おかげで人間という存在とより意思疏通が出来るようになったと言いますか、次元が違いすぎてたので噛み合わないことが一杯あったんですよねー。今だからわかりますけど。ただ、本来の力に制限はかかるし見た通り小さくなってしまい、これで名前も無い状態だとそのうち消滅してしまうような感じですしー。さっきの貴方の無茶な力の使い方で意識領域にも自覚できるレベルで欠損が出てきてますし、本当に困ってるんですけどねー」
説明を始めて、話しながら次第に弱っていくような自称神様。何これ俺が悪いのか?
「とりあえずで結構ですので、すぐに名前をお願いします。多分あと二十秒くらいで意識が無くなる状態かとー」
「えええちょっとマジか、今あんたにいなくなられても。あーっとなんでもいいんだな」
「はいー、あと十秒ですねー」
「キー、鍵の意味でキーだ!」
昔飼っていた鍵尻尾の猫の名前、咄嗟に浮かんだ名前だった。そう言えばアホ毛が鍵尻尾に見えなくもない。尻尾どころか頭の上のだから一緒にするなと怒られそうだが。
よくわからないが見た感じ落ち着いているようで、とりあえず消滅の危機は去ったらしい。キーは少し考え込むようなしぐさをして、こちらに笑顔を向けた。
「登録を完了しましたー。これで私はこれから貴方のナビになります。今後ともよろしくお願いしますね」