小さな村その1
村も娘も大切だ、この身に何があろうと守ると誓った
「コロナが帰ってきていない?」
朝早くから薬草を集めてくると村を出発し、いつもなら昼前には戻って来るはずだが、昼も中頃を過ぎても戻ってこないと門で見張り番に就いていたレンから先程下番時の報告を受けた。
「はい、いつも通りのように出ていったので、恐らく何かあったんだろうと思います。道草を食うような事も言ってませんでしたから」
育てた私が言うのもなんだが、あの子は賢い。皆に心配をかける様な真似はしないし、普段の薬草採りにしたって、自分から村のためにとすすんでやってくれている。村はずれにある変わり者婆さんの面倒も見てくれるし、そちらに顔をだす場合は必ず行き先を誰かしらに告げている。
「動けるものを集めて、捜索に出る。レンは明けで済まないがここで仮眠をとってくれ、留守を頼む」
大丈夫だ、あの子は賢い。もし魔物に襲われたとしても、きっとどうにか時間を稼げるはずだ。今すぐ飛び出して助けに向かいたいが、何事にも一人では限界がある。あせる気持ちはあるが、今はただ準備を整え少しでも早く助けに向かえるようにするだけだ。
「揃いました、いつでも出れます!」
門に集まり装具を確認する。装具と言っても、それぞれが狩りに使う鉈や弓と、村に残された簡単な胸当て等だ。
「皆すまない、コロナ捜索のために集まってくれて。無事に戻れたら何らかの礼を約束する」
「水臭いっすよ村長、コロナちゃんを助けたいのは皆同じっす。早いとこ行って皆で戻って村長のお酒で宴会にしましょうよ」
「ネージュもたまには良いこと言うな」
「たまにじゃないっすよ!」
ネージュとクリスのやりとりに、皆が笑う。気遣ってくれているということを感じて、少しだけ心が前向きになる。
「わかった、ありがとう。そうだな、早いところ出発するとしようか。帰ったら宴会だな」
皆の顔を見て、うなずく。歩き出そうとしたとき、物見台から大声が響いた。
「村長!大変だ!黒い猪みたいなデカイ、見たことない魔物だ!あり得ない早さでこっちに来てる!」
こちらから少し離れたところで止まった魔物の中から、娘が出てきたときには心底驚かされた。話を聞けば、危ないところを助けてもらったと言うではないか。服に汚れはあるものの、見たところ傷ひとつもない。
魔物に手を振る娘、あれは魔物ではなく召喚体だと言っていたが、どれだけの魔力で出来ているのか、欠片も理解が及ばない。
召喚体から籠と白い袋を持って男が出てきた。二十歳そこそこの普通の人間のように見える。あれほどの魔力を扱うのに、普人族?魔族か化け物が姿を変えていると思った方が良いのかもしれない。ともあれ、娘をここまで送り届けてくれた恩人には違いない。もてなしの準備をするため、先に戻ることを伝え一度解散することにした。