美味しいは正義
異世界で初めてのお宅訪問、こう言うときは引っ越しそばを持っていくということが人間関係を円滑にするらしい。古きよき習慣は異世界で通用するのか、車の中にはお菓子増量ちゅう。キーがお留守番だから、ちょっと不憫に思ったヒロシなのであった。
「うちのコロナがお世話になりました」
村で一番大きな建物に案内され、開口一番がこうだった。コロナの育ての親でこの村の長であるカルナさん、見た目は二十代後半の綺麗な女性。ただ、うまくは言えないが、経験を得た者のオーラと言うか威厳のようなものを感じる。
「いえその、そんな大したことをしたつもりはありません、顔をあげてください」
一方流されやすく都合の良い男でお馴染みの俺27才、会社勤めのドライバー勤務。この違いが人を従え導く存在なのか、人に使われついていくだけの存在なのかの違いなのだろうか。
「本来ならば村の者を救っていただいたお礼をしたいところなのですが、たくわえもそうなくて恐らく今年も冬を越えるのもやっとの状態でして」
「いやまぁ、本当に気にしないでください、お礼がほしくてやった訳じゃないです。多分なんかそう、運命のお導きってやつですかね?」
心から謝罪と感謝をされていると伝わるほどの熱を受け、なんとなくドライブしてたらゴブリン引き殺しちゃいましたくらいのノリでやってしまったことに、ここまでの感謝をされてしまっていることに対する罪悪感すら芽生えつつあった。
その罪から目をそらさんと、持っていたものを差し出す。
「あ、これ良かったら。コロナが集めてた薬草はもちろんですが、あー、お近づきの印に?」
差し出されたコンビニ袋を受け取ったものの、中身がよくわからないのか当惑するカルナさん。
「あ、すみません。えーっと、俺の世界の食料なんですけど」
ペットボトルのキャップを開けて、お菓子の包装紙をとりひらく。一週間分のコンビニお菓子、全部開けた。パーティー開けである。
職業は会社員、職種は酒屋の配送業、いわゆるトラックの運ちゃんである。朝早くから夜遅くまで、居酒屋やバー、個人営業のスーパー等に飲料その他を運んで回るお仕事なので、一日の大半を運転している。配達先から次のところまで距離のある場合、おにぎりや簡単に摘まめるものを食べてカロリーを補給する。途中でレストランや食堂なんかに寄れるようなお昼休憩のある勤め先なら良かったのだろうが、人手不足によりブラックすれすれどころかアウトな職場環境では、運転している時間が休憩時間なのであった。
さておき、そのような環境における一週間分のコンビニ食料なので、それなりの分量である。村長やコロナを含めて、七人の前に様々なお菓子が広げられることとなった。
「コロナはこのチョコバーをさっき食べたんだけど、どうだった?」
「すごく美味しかったです!」
水を向けた瞬間の即答だった。
「うん、その、怪しいかもしれないですがコロナのお墨付きも貰いました。良かったら皆さんで召し上がってください。」
村人の視線が村長に集まる。コロナの勢いに驚きながらも、言われたチョコバーを手に取り、恐る恐る口にした。