02
後書きに、01と02に登場するキャラの軽いキャラ設定的なものを書きました。
×⇔×⇔×
…確か、俺はこう言ったはずだ。
『ようやく、一日が終わる』と。
──なのに、
「ただいまー。麻弥花、居るか?」
下回りを終え、我が家への帰還を果たすと同時に、先に来ているはずの麻弥花を呼ぶ。
ひと月前までの踏ん張っていた冬の寒さは、このひと月の間に何処かへ追いやられ、最近は暑ささえも滲み出てきている。
空調機を使うほどでは無いにしろ、せめて扇風機くらいは出して風を浴びても良いかもしれない。
そんな外の暑さから逃げるように玄関へと入り、あまり変わらない室温と、帰って来たという安堵に脱力する。
玄関の鍵が開いていたから、既に麻弥花は中にいるはずなので、特に確認もせずにそのまま自室へ向かい、直ぐに着替えた。
着替えが終わり、薄くじっとりと汗をかいていたのでフェイスタオルを取りに風呂場へ寄り、その後リビングに向かうと、そこには──。
「あ、来た。おかえり、凛人」
「おー、白蕪君おかえりー」
「凛人先輩のおかえりだー!」
…リビングには、麻弥花の他に二人、見知った女子が。
「……ただいま。…麻弥花?」
「…えっとね、玄関の前に二人とも既に居て、それで仕方なく…」
「あぁ。うん、察したわ……で、だ。毎回言うが、何で入間先輩と香織が居るんだ?」
「毎回言うけど、ご飯食べに来たんだよ?白蕪君」
「私も先輩同様です!」
…この二人はいつも……。
いや、それはとにかく、もしかしてまた翠とか他の奴らも…。
「麻弥花…もしかしてこの二人以外には…」
「う、ううん。…この二人だけだよ?……それに、玄関のところにあった靴、私のと二人のしか無かったでしょ?」
「えー、今日は翠ちゃん居ないの?…からかうと楽しいのに…」
「入間先輩はちょっと黙ってて下さい。…これ以上話をややこしくされても困るんで」
確かに、今日は玄関で靴を脱いだ時に数を確認しなかった気がする。だから誰が居てそして誰が居ないのか、なんて事を知る由は俺には無かった。
一応言っておくが、今回の件について、玄関に他の靴があったら確認する前に違和感を感じるだろ、と言う意見は、悪いが水に流させてもらおう。
毎日必ず一人は寄って来ていると思われる家では、自分以外の誰かしらの靴が玄関にあるのは、日常茶飯事。…つまり、いつも誰かしらの靴が玄関にあるわけだ。…まぁそんな訳で、違和感に関しては無反応だった。
そしてどうやら、今日部屋に入っていたのは、低科一年の入間時雨先輩と、俺の二つ年下で、大科一年の仁科香織の二人だったらしい。…二日ぶりではあるが、またこの組み合わせか。
誰かしらが必ず居るのは気のせいだ…と言うか、是非気のせいであって欲しいのだが、まぁ、あくまでそれは願いであって、現実はそうじゃない。
特にこの二人の場合は、事情が事情なので追い出すにも追い出せないのが辛いところではあるが、この二人はそれ以上に辛いことを味わってきているのだから、俺だけ楽になるわけにもいかない。
「白蕪君、今日は何作るの?」
「……相変わらずマイペースと言うか入間風吹かしてると言うか…。ここに居ることに対しての弁明無しですか…。今まで聞いたことも無いですけど」
「白蕪君も分かってるじゃない♪」
「おいコラ今一瞬音符が見えたぞ」
「先輩に対しておいコラとか言っちゃダメですよ凛人先輩」
「そう言う香織後輩はなぜ我が物顔でくつろいでやがる」
「だって第二の…と言うより下手したら第一の家みたいなもんですし?」
「はいはいはいはい!問題発g──」
──ピンポンパンポン
失礼致しました──。
「…じゃあ、仕切り直して、どうして二人が居るのかはまぁ分かったし、分かってるからいいよ。…いいけどな、家主が端っこに追いやられてるこの状況は何だ!?」
手短かに人数分の料理を作り上げ、食卓に並べる。
一人暮らしにしては大きなこの食卓は、もともと母親との二人暮らしの時から使っていたもので、それなりに大きいものではあるのだが、実はその当時から余るほどの大きさだった。
それは、母親の一言、『このくらい大きいのじゃないと足りないから』によって、無駄にでかいテーブルの購入が決定したのだが、もしかしてこうなる事を予測していたのだろうか。
「白蕪君、レディファーストって知ってる?」
「いや、知ってますけど…。なんかこれは違う気がするぞ…」
そして今、俺はその食卓の広さに大いに甘えているわけなのだが、…何故だろうか。明らかに俺の立ち位置がお客さんなんだが。
「あ、凛人先輩、そこのドレッシング取ってくれますか?」
「おう。これか?こっちか?」
「えっと、そっちの左の方です」
「あいよ。…ふぃー……」
「女の子の前で溜息なんてだらしないよ?白蕪君」
「いや、確かに正論ですけど、その前にここ俺の家なんですが…」
「君って本当にプライベートが少ないよね。心底大変そうな事してると思うよ」
「減らしてる中に先輩が居るの分かってて言ってますね!?てかそろそろ追い出しますよ!?」
「冗談よ、冗談。流す力も身に付けないとね?」
「…お二人でいちゃつくのは外でにして下さいよ~。てか凛人先輩周りに女の子しか居ないからってどこぞの茶髪主人公みたいにハーレム作ろうとか考えてませんよね?」
「…あのな、香織。俺とあの人じゃ環境が違うし、少なくとも俺はラッキースケベなんか起こさないし、そもそも女子が口に出す類のアニメでは無いと思うんだが…」
それなりに落ち着いた雰囲気の食卓から一転して、話がアレな方向へと旅立つ。
流石に危険を感じたので話を逸らそうとしたところで、これまで聞いていただけだった麻弥花から反撃が来た。
「…凛人はラッキースケベ起こした事あるよ。…私の部屋に来た時……」
「!…あ、あれは、ラッキースケベじゃなくて!…えっと、そ、そうだ!あれは事故だ!事故!」
「…えっと…凛人先輩、世の中ではそれをラッキースケベと言うんです」
「うわー、白蕪君サイテー。明日クラスの皆に言いふらしちゃお」
「待って!待って下さい入間先輩!…それは本当に俺が学校に通えなくなるから!」
女子しか居ない学校で、女子に遠ざけられたら、イコール学園全体を敵に回すようなもんだからな。
それに、そうなると学園の体裁的にも俺が摘み出されそうだ。…飽くまで試験生なんだから。
「そ、そうですよ。それに、…私も、恥ずかしいですし…」
「因みに、麻弥花先輩は何されたんですか?」
「……着替えを…覗かれ…っ…」
途中まで言って顔を真っ赤にしながら手で覆いこんだ麻弥花は、そのまま椅子の上でうずくまるように身体を丸める。
流石にやり過ぎたと思ったのか、すぐさま入間先輩がフォローに入っていた。…あの人は自分でからかう癖にフォローも自分でやるんだよな…。しかもしっかりと。ま、だから憎まれないのかもしれないが。
それを見た香織もこれ以上はこの話題を掘り下げる気は無いらしく、ちょっと意外な形で話題は別の方向へと転換せざるを得なくなった。
ここで麻弥花を慰めても良かった…と言うよりは原因は俺にあるのだから本来はそうすべきなのだろうが、この場合に限って言えばそれすら話題の掘り下げにつながる気がして、そうするのはやめた。後で謝りつつ好物の大福でも作って許してもらうことにしよう。
「…そう言えば──」
気持ちを切り替える意味でも、雰囲気的な意味でも、今すぐに話題を提供しないと後々が怖いので直ぐに言葉をつなげる。
「そう言えば、今日『純沼』に寄って来たんだが、剣道部って大会だったんだってな」
「大会と言うよりは練習試合ですね。…規模が規模なんで大会でも問題ない気はしますが」
「そうなのか。…てか、香織は何か出たのか?」
「私ですか?取り敢えず個人で出ましたよ?団体は私じゃとてもじゃなけどムリですって。…純沼先輩はホントに強いですから団体も出てましたけど」
風香と同じく剣道部に入っている香織は、溜息をつきながらそう言う。
毎年この時期に行われているらしいその練習試合は、最初の開催を含め二、三回が『その人数を入れる会場が土日だと確保できない』という何とも適当な理由によって、平日開催で行ったらしいのだが、それが恒例化し、現在に至るそうだ。今初めて聞いたが、運営委員のやる気のなさが目に浮かぶ。
「ま、でも、『記録』は超えたんだろ?」
「当たり前じゃないですか。そうしないと生活出来ませんし…」
…実は、とある事情で香織には両親が居ない。
なので、孤児院に本当ならば入れられるところだったのだが、学校の保護制度の一つである『高記録者支援』を使って生活している。簡単に言ってしまえば、成績優秀者に対する金銭的支援だ。…一応の建前では、これもまたウチの母親が学園長と決めた話らしいのだが、香織の扱いは俺の従姉妹という事になっていて、親の居ない現在、ウチの母親が保護者になっているらしいのだが、詳細はよく知らない。
因みに、入間先輩にも事情があって、この二人は俺が一部面倒を任されていたりする。…と言っても、人助け程度でいいとは言われているが。
「そ言えば、凛人先輩は──」
ピンポーン…ピンポーン…
香織が何かを言おうとしたタイミングでインターホンが鳴り、俺が香織に少し待つように言ってから向かうのと、麻弥花が入間先輩から解放されて向かうのが同タイミングだったので、結局二人で玄関に向かう。
サンダルを履いてから、玄関のドアを開くと、そこに居たのは天洞翠だった。
×⇔×⇔×
「すみません、遅くなってしまって」
「いや、いいよ。別に強制はしてないからな」
「それは…私では力不足だからですか?」
「そうじゃないっつの。いろいろと手伝ってもらえるのは有難いし、特に他の奴の対応をしてくれるのは本当に嬉しいから文句はないけど、翠が大変だろ?」
「…私の事など、気にせずに過ごして下さい。…私は学園のメイドです。そして、今のご主人は白蕪様。私など、使い捨てるくらいの気持ちで使って頂いて──」
「翠、その辺で止めろ」
「…すみません。失礼しました」
「…はぁ、…あのな?毎度言うが俺は、メイドだからへりくだるとか、そういうのが嫌いなんだ。だから、口調は仕方がないにしても、せめて態度だけでも少し改められないか?」
玄関を開けると、ドアの前で立って居たのは、重橋学園のメイドの一人で、俺専属のメイドでもある、天洞翠だった。
緑色のショートカットの上には、白いカチューシャが付き、その服装もいわゆるメイドと同じだ。
学園のメイド…と言うより、正確には普通科の中のJ組がメイドや執事を専門に養成するクラスで、普通科ではあるものの、他のクラスとはいろいろと仕組みが違う。
そして、翠に関しては、同い年ではあるものの、一年分飛び級しているため、先輩だったりする。なので、学年的には入間先輩と同じだ。
「今日は、仁科様と…入間さんが来ているんですね」
玄関に置いてある靴を見て、少し溜息気味にそう言う翠。やっぱり入間先輩が苦手なようだ。…まぁ、俺もそれは分からなくもないが。
「無理はしなくていいぞ?…特に入間先輩は」
「そうだね。入間先輩は私と凛人で対応するから」
「……では、すみませんがお願いしてもよろしいでしょうか」
「おう。…俺たちで抑え込めるかは分かんないけどな」
「…まぁ、出来るだけ頑張ろうよ」
「そうだな。…取り敢えず上がれよ、翠」
「はい。失礼します」
一連の話を終え、ようやくリビングへと戻る。
入間先輩が翠を見た直後にからかい始めたので、それをすぐさま俺と麻弥花で止めにかかり、香織の相手は翠に任せる事にした。
「…はぁ…入間先輩、あのですね…」
「まぁまぁ、細かい事は気にしない♪」
「翠さん、ここ教えてもらってもいいですか?」
「はい。そこはですね──」
しばらくして、翠に任せていた香織は勉強を始め、向こうは静かになっていた。…向こうは、な。
「あ、そうだ。…ねぇねぇ白蕪君、お姉さんとお風呂入る?」
「「えっ!?」」
この人、思い付きでなんて事を…。思いっきり最初に『あ、そうだ』って言ったぞ、さっき。
──まぁ、結局想像通りと言うか、予想出来ては居たのだが、俺と麻弥花の二人では、入間先輩の奔放さと言うか天真爛漫さと言うか、とにかくそれに対応するのは無理だったらしい。
もうこうなったら、時間が過ぎるのを待つしかない…か。
──今日は流石に、これ以上はなさそうだ。
俺も疲れたし、後は悪いが翠に任せて、一足先に少し寝かせてもらおう。
「翠、悪いんだが──」
「はい。大丈夫です。承知してます」
「悪いな。…麻弥花も、送ってやれなくて悪いけど」
「ううん。お疲れ、凛人。香織ちゃんと入間先輩は私と翠さんで送って来るよ」
「えー、白蕪君寝ちゃうの?」
「疲れてるんで…」
こうして、──今回は本当に、今日の幕を降ろした。
丸球 麻弥花
大人しめの性格で、凛人からもかなりの信頼を得ている。クラスでは凛人の席が隣で、そのせいか、何かと二人そろって先生に何かを手伝わされる事がある。外見は紺色のショートカットに、茶色の瞳。
龍ヶ峰 すみは
凛人と同じクラスで、担任で宮園先生を悪く言う人を見つけると迷わずに足を出す暴力屋。腰まである赤色のポニーテールを揺らしながら出してくる蹴りは、まともにくらったらどうなるかは…まぁ、皆さんの想像にお任せしよう。
純沼 風香
商店街の中にある店の一つ、『純沼』の一人娘。剣道を小さい頃からしていて、キレのある動きからの正確な一撃で、重橋学園剣道部のエースでもある。水色のショート。
入間 時雨
凛人の一つ先輩で、低科一年生。とある事情で、凛人が面倒を任されていたりする。からかい好きで、他人をからかう癖に、それが過ぎると自分でフォローをいれる、よくわからない人でもある。
仁科 香織
重橋学園剣道部の大科一年生。つまりは、風香の後輩である。とある事情で両親が居ないが、凛人の母親が引き取った。
天洞 翠
重橋学園で養成されているメイドの一人。現在のご主人は凛人で、七年間仕えている。なので、ある程度の事は口に出さずとも理解出来ている、ある意味では一番の理解者。飛び級を一回しており、学年は時雨と同じく低科一年生だが、年齢は凛人と同じ。




