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01

ハーメルンでも同じものを投稿しています。

…作品名が違いますが。


URL


https://novel.syosetu.org/121820/

 世の中には、いろんな状況に陥っている人が沢山いることだろう。

 まぁ専ら、陥っていると感じているからには、それが吉と言うよりは凶なのだろうが。

 例えば、…そうだな、何故か目の前に居る知り合いの女子に自分の意思とは関係なくラッキースケベを発動させてしまうどこぞの茶髪主人公だったり、例えば親の借金を肩代わりしなくちゃいけなくなったどこぞの青髪執事だったり。

 それを本人が凶と受け取っているかはさて置いたとしても、そういう星の下に生まれた以上は、これからもその道を歩み続けるのが運命だろう。


 まぁ、こんな話をしているのだから、早い人は想像がついただろう。

 何を隠そう、俺自身もそういった星の下に生まれてしまったらしい。


 周りから見れば羨ましい事ではあるそうなのだが、当人としては断じて拒否したい。そんな甘ったるいものではないと。よく言うだろう?隣の芝生は青いと。もう少し簡単に無い物ねだりと言ってもいいが。


 とにかく、俺が望んでいたのは平凡で落ち着いた人生だったはずなんだ。

 それこそ小科三年くらいまではそうだった。

 なのに、どうして俺の周りはこうなっちまったんだ──。




 ×⇔×⇔×




「……れか………してやれ」


 遠くの方から何かを言う声が聞こえる。でも、ところどころ切れていて、よく判断出来ない。

 薄い感覚からは外界の情報は殆んど入ってこないし、視界は真っ白で何があるのかまるで不明だ。

 ──と、そこへ。


「起きて、凛人(りんと)


 耳元で囁かれる、聞き覚えのある声。

 それと同時に、身体が揺さぶられた。


「んぅ…ぅ…んん?」


 どうやら寝て居たらしい俺は、さっきの声の主・丸球(へりなし)麻弥花(まやか)に揺さぶられ、その身体を起こす。


「…私の授業で、しかも教卓の目の前の席で堂々と寝るとはいい度胸だな、白蕪(しらかぶ)

「はい…。すいません…」

「じゃあついでだ、お前この問題解け。…解けなかったら、課題追加だ」


 そう言いながら笑っているのは、宮園先生。

 うちのクラスの担任で、担当教科は現国だ。


「えっと…?前で言っている事を要約してるから…。…その文の三つ前から一つ前までが答え…ですよね?」

「チッ…。話聞いてなかったくせにあってやがる」


 まぁこの通り、教師としてはアレなのだが、何故か生徒からの人気は高い先生だったりする。


「…よし、今日の授業はここまでだ。帰りのSHRは私が面倒だから無しだ。もともと連絡も無いしな。…じゃあ、私は先に行く。お前らも時間になったらとっとと帰れよ!」


 宮園先生は、そう言ってまだ五分ある授業時間の終了を待たず、先に行ってしまった。


「……相変わらずだな、あの人は」

「それが人気の理由の一つなのが凄いよね…」

「いや、アレは最早マイペースじゃなくて自己中…っ!?」


 麻弥花に返事を返している途中、後ろからの殺気を感じ、慌てて頭を下げる。

 すると、下げた頭の上──丁度頭のあった位置を、一陣の風と脚が通り抜けた。


「クソっ…避けられた」

「殺す気かバカ野郎!」

「あ゛?…んんっ…何か言った?白蕪君」


 振り向き、俺に綺麗な笑顔(まぁ、目は笑ってないし、それこそ最初は般若に見えたが)を向けているのは、龍ヶ峰(りょうがみね)すみは。

 うちのクラス切っての暴力系で、俺にしか暴力を振るわない。

 …それも、そのはずなんだけどな。


 この学園──重橋(えはし)学園にいる生徒の中で、男子生徒俺ひとりしか居ないから。

 …ホント、どこの○Sだよ。…誰だよ、織○君と同じ状況にしたの。


 まぁ良…くはないが、せっかく触れたし学園について話してしまおう。


 私立重橋(えはし)学園。

 小科・中科・大科・低科・高科──まぁ要するに、全ての年科を持っている学園な訳だ。

 年科についての話は後に回すとして、この学園について、続きを語ろう。

 この学園、正確には重橋(えはし)女子学園といい、名前の通り、女子学園なのだ。

 だが、最近になって共学が増え、しかも重橋学園の近くにもひとつ、共学校ができた。

 その共学の波に飲まれるように年々入学する生徒が減り、それどころか転学生徒が入学生徒の半分に迫ろうとしていた。

 流石に危機を感じた重橋学園も、共学化を進めようとしたが、PTAに反対をくらい、断念。

 そこで、試験的に男子生徒を何人か居れる事にして、それを何回にも分け、始める事になった。

 一回の試験期間は小科入学から大科卒業までの十年間。つまり、今年俺が大科を卒業した時点で、第二回目の試験生が入学してくるわけだ。

 因みに、男子生徒が転学して居なくなった時も、試験は終了になる。


 そして、俺は他何人かの男子と一緒に六歳の頃、第一回試験に選ばれた訳だ。


 入学して、小科で四年を過ごし、中科に入った。中科は三年間だが、途中でひとり男子が転学し、残り俺含め三人で中科の三年を過ごした。

 だが、大科への進学時、ついに残りの二人の男子が抜けた。

 この時点で俺は、この学園唯一の男子生徒になってしまった。


「…宮園先生を悪く言うなら、蹴るからね?」

「蹴ったあとで言うな!!」

「細かいことにいちいち煩いわね。いいじゃない、別に」

「良くねぇよ!下手したら死ぬぞ!?」

「まぁまぁ、落ち着いてよ凛人。すみはちゃんも」

「…そうね。一回落ち着いて、それから殺そう」

「落ち着いて殺すなよ!ってかやっぱり故意じゃなぇか!」


 因みに、こいつとだからこんな会話になっては居るが、何故か俺の女子への人気もそこそこ高かったりする。

 この間消しゴム忘れた時はそれを口にした瞬間にクラスの女子ほぼ全員から消しゴムを借りる羽目になったし、昼になれば必ずどこかしらのグループに誘われる。


 でもまぁ、俺も俺で男としてある意味詰んでいて、こういう状況だったら浮かれるのが一般的なんだろうが、全く持って平常心だったりする。…ホント、慣れって怖い。


「取り敢えず、帰ろ?凛人」

「そうだな。…じゃあ──」

「凛人君さよならー」

「バイバイ、凛人君」

「白蕪君さよーならー!」

「凛人君じゃーね!」

「………

「………

「………


「…あ、相変わらずだね」

「追いかけてこないのが唯一の救いだな」

「正確には、追いかけてこなくなった、でしょ?」

「…言うな、思い出したくない……」

「あはは…」


 まぁ、そんなこんなで、教室を出る。

 廊下に出たら出たで視界に入る女子に何かを言われる、または何かをされる。こんなのは日常茶飯事…と言うより日常そのものだ。

 もともと珍しかった男子生徒だし、六歳から今の大科までずっと一緒の学園に通っている訳だから、そこら辺はもう友達感覚なのかもしれないが、それにしても俺に対する周りの接し方はおかしいと思う。いや、違うか。俺の事を他の女子と同じ様に接してるからそう感じるのかもしれないが。


「…ふぅ、ようやく外だ……」

「…毎日こんなだから大変だよね…」

「いや、…もう慣れた」

「まぁ、十年近くも続ければそうなるよね…」

「寧ろ、十年近くそれを続けて来たあいつらのが凄いわ…」


 そんな事を話しながら校門を出て、家へと向かう。

 俺の家はとあるマンションの一部屋で、他にも数名の重橋生が住んでいる。因みに、麻弥花もその一人だ。


「あれ?おーい、麻弥ちゃーん!凛人ー!」

「ん?」


 学園を出て直ぐ、通学路にある商店街にすら入らない──二・三分もしないうちに後ろから声をかけられる。

 この距離で声をかけて来たということは、まず間違いなく重橋の生徒だろうが。


「あ、風香ちゃん!」

「よっす!凛人も」

「おう。風香も今帰りか?」

「うん。いやー、大会疲れたよ…」

「…の割には大声だったよな」

「いいの、別に。…それとも面を…」

「悪かった悪かった」


 ──純沼(すみぬま)風香(ふうか)

 商店街の八百屋の一人娘。

 剣道を小さい頃からやっていて、重橋学園剣道部のエースでもある。

 ちょっと小振りなその身体を活かしたキレのある動きと正確な攻撃は、学園内では敵うものなしだ。


「今日は麻弥ちゃんだけなんだね。いつもはもっと居るのに」

「それは主に木下(きのした)とか(あずさ)とかさくらとか可音(かのん)とか琳藤(りんどう)とか…」

「もう良いよ…。言い出したらキリ無いでしょ、本当に」

「…まぁ…な。それは認めるわ」

「周り女の子だらけ…ってか、女の子しか居ないし、しかもある意味モテモテなのに良く彼女が出来なかったよね、凛人」

「凛人は昔からそうだよね。いつも女の子三人以上とは居る気がするよ」

「それも…否定できねぇな」

「ね?」


 確かに、俺以外には女子しか居ないこの状況。

 そんなところに居るのに『女子と』居ないって言ったらそれは事実上のボッチ宣言だ。

 しかし前述の通り学園生徒の俺への認識は『友達』であり、『その他女子と同じ』扱いになっている訳だから、体育時の更衣室などその他を除いて基本的に──というよりは、例外なく女子が周りに居る。

 俺も俺でそれをどうと思うわけでもなく、ただ当たり前として接してきたからには、それを不思議に思うはずもなかった。…男として詰んでると思ったことはあるが。


 そんな事を話しながら歩いて居ると、商店街に着いていた。


 小宮通り(こみやどおり)商店街。

 風香の実家の『八百屋『純沼』』や、隣のクラスの優奈の家の『浜波精肉店』などを含め、年中人で賑わう活気あふれる商店街だ。

 一時期は人気(ひとけ)の少なさから取り壊しや封鎖といった話も出ていたが、その後の活動で人気(にんき)を取り戻し、現在まで続いている。


「あ、そうだ。今日風香のところ寄って行っていいか?確かきゅうりとレタス切れてたはずだから」

「いいよ。麻弥ちゃんも来るでしょ?」

「そうだね。お邪魔じゃなければいいかな?」

「全然いいって!…ま、あんまり凛人には明るい時間に来てほしくはないんだけどね。……あの時はホントに酷かったんだよ?」

「いや、スマン。マジで。…ああなるとは思ってなかったんだって…」


 以前ここに寄ったとき、それを偶然目撃され、周辺にいた生徒や、メールやSNSで拡散された情報を受け取った生徒が雪崩のようにここに集まってきた事があるのだ。

 …アレはホントにヤバかった。

 隣にあるパン屋と逆隣にある魚屋、向かいにある本屋から人手を借りてきて集まっている生徒を統制しながらどうにかしたのだが、全てをやり過ごすのに二時間を費やした。

 因みに、その日の売り上げを関係した四店で分配したのだが、四店ともに半月分の売り上げを超え、何故か俺はその日から商店街の人から『賽銭箱』と呼ばれている。…金が集まるからなのは分かるが、せめて人にして貰いたかった。


「家とうちゃーく。あ、ちょっと待ってて。お父さん呼んでくる!」


 そう言い放って、風香は店の奥に姿を消した。


「おう。…大丈夫か?」

「何が?」

「…いや、何でも無い」

「?」


 状況を分かり切っていないため首を傾げる麻弥花には悪いが、説明は省こう。…この話もまた、俺が賽銭箱と呼ばれる様になった理由の中に含まれるというだけだから。


「お父さん呼んで来たよー!」


 言いながらこっちに来た風香のうしろには、イメージ的には魚屋に居そうなかっこ良い感じの男性が。

 この人こそ風香の父親であり、そして八百屋『純沼』の経営者である、純沼一郎(いちろう)だ。


「お、久しぶりじゃねぇか賽銭箱」

「その言い方はやめて下さいって…」

「あんだけ女に囲まれてんだ。少しくらい良いじゃねぇかよ」

「お父さん?」

「ウグッ…悪かった悪かった。言わねーよ」


 この通り、娘には勝てない親だったりする。


「で?今日は何を買いに来たんだ?風香か?」

「アンタアホか!?」

「冗談だよ!くれてやるわけねぇだろ!」

「子供か!」

「大人だ!」

「…ごめんね?こんな人で…」

「あはは…。麻弥ちゃんも大変だね」


 まぁこの流れは既に何度か経験済みと言えば経験済みなので、乗るだけ乗って話を戻す。


「今日はきゅうりとレタスを買いに来たんだよ。…良いのある?」

「きゅうりはそこので全部だ。レタスは…こないだ結構もらったからな。分け(てや)るよ」

「お、マジですか。助かる」


 一郎さんはそう言うと店の奥へと再び入って行った。その間に俺も俺できゅうりを何本か選ぶ。

 すると、選び終わったタイミングで一郎さんが戻って来た。その手には箱いっぱいのレタスが。


「こん中から好きなの取ってけ」

「…じゃあ、そうですね。…コレとコレを」

「…ほんと、目利きだな…。まぁくれてやるよ」


 愚痴を言いながらも袋に詰めてくれる一郎さんに感謝しながら、なんとなく辺り振り返った俺の視界に写ったのは──。

 ──重橋生徒の集団だった。


「ん?どうし──!?」


 俺が気付くのとほぼ同時に一郎さんも気付き、一瞬固まる。

 そして、考えていた事は同じだった。


 俺が流れるように店の中へと消えていき、そのタイミングで一郎さんが外へ出て呼び込みを開始。…そう、これぞコンビネーション。

 かなり危険ではあるが、俺は姿勢を低くしていたし、敢えて呼び込みをする事で俺がいないかのように振る舞うのだ。…なんせ、俺がいたら呼び込みは必要ないからな。


 こうして、俺の危険な買い物は幕を下ろした。




 ×⇔×⇔×




 少し時間を空けてから、念の為店の裏から出る。


「また来いよ。電話くれりゃ開けとくから」

「そん時はお世話になります」

「おう。任せろや」

「じゃーね、麻弥ちゃん。凛人」

「バイバイ、風香ちゃん」

「じゃーな」


 軽めの挨拶を済ませ、商店街を後にする。

 これを言うのが何度目かは既に覚えてないが、いつも大体こんな感じなので、これについてはもう慣れている。…と言うよりは、諦めてから慣れたのだが。

 一応、学園側の計らいで、状況があまりに酷いようだと警護をつける、みたいな事が全校放送で流されて以来、少し落ち着き、普通に生活できるようにはなっていた。

 …てか、そもそもなんで普通に女子と扱いが同じなのに俺だけこんな人を集めるんだろうな。他の女子のところには一々こんな集まったりなんかしないだろうに。


 そんな疑問を抱きながら、俺は麻弥花と帰路に着いた。


 …とでも言おうとしたのだが、既に目の前にはマンションが。


「ようやく帰って来たね」

「そうだな。…あ、ちょっと下回りして来るから、先に開けて用意しといてくれ」

「分かった。じゃあいろいろやって置くよ」


 そんな会話をしながらも、俺はポケットの中からマンションの自室の鍵を取り出すと、麻弥花に放る。

 麻弥花はそれを胸の前で両手でキャッチすると、手を振ってから階段を上がって行った。

 因みに、下回りと言うのは簡単に言えば敷地内のパトロールみたいなものだ。不審者や不審物が無いかを確認して、無ければ何もなし、あれば管理人に報告する。一日交代で住人が役を担当する事になっている。


「…何もなしか」


 それだけ確認し終わると、俺も自室を目指して階段を登って行った。


 ──ようやく、一日が終わる。

Twitterやってます。よければどうぞ。

津久井晴太

@Tsukui_Haruta

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