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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

リアル・ラグナロク プロローグ

リアル・ラグナロク プロローグ【笑顔の道化の一騒動】

作者: 淡嶋 凛那

リアル・ラグナロク プロローグシリーズ第三弾です!

前作である、【戦姫】と【天使】を読んでいただけていると内容の理解が早まります!

毎度のこと拙い文章ですが、どうぞ!

 蝋燭の火だけが光を生み出す薄暗い部屋。

 窓の外……満月の浮かぶ世界の光など少しも入らない部屋の窓には、星の光など存在しない夜を彷彿とさせるような大きなカーテンが張られている。

 アンティーク造りの部屋は何冊もの本が収納された本棚に囲まれ、部屋の中央には来客と対面して会話が出来るよう机と椅子が配置されている。


 そして、窓の傍には蝋燭の火を反射させる艶やかな木製の執務机があり、机上には真っ白な紙と羽ペンが置かれている。


 「今夜は仕事も無いから、大好きなアイスクリームでも食べながら映画を観ようと考えていたのに~、来る日も来る日も報告書の整理や始末書の作成……私は休みが欲しいのに~!」


 皮で造られた高級感溢れる執務椅子に腰を掛け、愚痴を零す女性。

 長い栗色の髪と色白な肌、飾り気の無い黒いドレス。

 まるで芸術的な絵画から飛び出てきたような、物腰柔らかそうな絶世の美女……天夜鬽鈴(あまやみすず)は仕事に追われるOLのように机に項垂れていた。

 よく見ると、机上には山積みになった報告書や始末書であろう紙がそびえ立っていた。

 彼女はつい先程、長く険しい地獄から解放され、自由を手に入れた……はずだった。


 彼女のささやかな幸せは、自由は、一本の電話で崩れ去ったのだ。


 「これ以上働いたら私、この椅子から離れられなくなっちゃうかも……」


 執務室が静まり返る。

 時間さえ止まってしまったかと錯覚するほど静かな空間で彼女のため息だけが時間という概念の存在を改めて確認させる。


 「あぁ!やめようやめよう!こんなことをしてる暇があるなら仕事の山を終わらせるの!私、頑張っちゃうぞ~!」


 静かな空間で自らを鼓舞する。

 だが、それと同時に机上に置かれた携帯端末の着信音が室内に鳴り響く。

 突然の着信音に鬽鈴は慌てて手に取る。


 「えぇ~と、この間買ったばかりだけど、すまほの使い方は完璧です!」


 一人ドヤ顔をキメる鬽鈴はぎこちないが、通話に出ることに成功する。


 「は~い。天夜鬽鈴です」

 『夜分遅くに申し訳ありません。私は魔術警護部隊“黒硝子の番犬(ケルベロス)”の者です。あの……天夜様の方から派遣してもらいました二人の精霊術師なんですが……』

 「輝光海(きみか)ちゃんとアマネちゃんですか?もしかして怪我しちゃったんですか!?」

 『いえ!お二人には私の部隊の援護を頼んだのですが、前線に出て戦い、黒硝子の番犬(ケルベロス)の者も助けられ、皆感謝しています。それで……輝光海様なのですが……』 


 この時、鬽鈴の脳裏から“自由”の文字が消えた。


 「また……やらかしてしまいましたか?」

 『…………はい』


 机上の山が消えることは一生無いかもしれない……



 ××××××××××



 「二人とも、なんで私が怒っているかわかる?」


 目の前で栗色の髪の女性……天夜鬽鈴が、今にも「プンプン!」という効果音が聞こえてくるのではないかというぐらい可愛らしく怒っている。

 彼女の中から“自由”の文字が消えてから一夜が明けた執務室。

 机の上の仕事の山は半分ほど消えていた。

 昨晩、鬽鈴が怒りに身を任せて仕事を続けた結果、全てを終わらせることは出来なかったものの、半分を片づけることに成功した。

 そんな鬽鈴の憤懣から生まれた努力の成果で見晴らしの良くなった執務机の前には、鬽鈴の“自由”を奪った張本人である精霊術師二人が正座していた。


 「えぇ~っと~……徹夜したから?」

 「そうじゃないの。ヒントはね、あなたのある行動のせいなの」


 正座で受け答えをするのは二人の精霊術師の男女。

 鬽鈴の問いに対して徹夜と答えたのは、まるで光を反射させる水に濡れた宝石のように神秘的に輝く碧い瞳と、仔犬のような八重歯が印象的で、毛先がウェーブがかった金髪を後ろで粗末に束ねている少年。

 【予測不能(パンドラ)】と呼ばれる精霊術師……天夜輝光海(あまやきみか)だ。

輝光海は身寄りがなく、常世島で一人彷徨っていたところを鬽鈴に引き取られた少年であり、魔族にしか契約することのできない超常的存在である“精霊”を使役する異能力者。

 百五十五センチと身長は低く、初対面の相手には“少年”ではなく“少女”と錯覚させてしまうような容姿をしている。


 「う~ん……なんだろ?俺、そんな怒られるようなことしたかな~?ねぇねぇなんだと思う?」


 説教を受けているはずの輝光海はそんなの関係なしと思わせるぐらい嬉々として、隣に正座する女性に尋ねる。


 「あなたが勝手に行動して鬽鈴様の命令に背いたからでは?」

 「えぇ~?俺何にもしてないじゃ~ん!」


 輝光海の問いに対し、目を瞑り淡々と答える豊満な体つきの女性。

 輝光海と同様、天夜鬽鈴に引き取られた少女。

 名はアマネ。

 精霊【黎明の巨人王(オ・リオス)】の契約者にして完全なる人工生命体(ホムンクルス)

 藍色の長い髪を腰下まで伸ばしており、色白の肌と二メートル近くある長身な体躯が特徴。

 普段は鬽鈴の側近として働き、ミニスカート仕様のメイド服を着用している。

 成長しきった見た目からは予想もしないが、生まれてからまだ一年も満たない。


 「アマネちゃんも!なんで輝光海ちゃんを止めてくれなかったの~!?」

 「輝光海の勢いは私では止められません」

 「嘘よ!アマネちゃんは輝光海ちゃんに甘いところがあるから!」


 アマネは基本、感情を表に出さない。

 いや、「出せない」と言ったほうが正しい。

 だが、輝光海に対してだけ普通の人のように感情の表現ができる。

 それもあり、アマネは輝光海に対して、明らかに他の人とは違い好意的に接する。


 「それで?結局なんなの?俺がどうしたのさ~?」

 「コホン……。今回私があなたたち二人に出した任務は『シャルアリス王国第一王女の誘拐を企てたテロリストたちの捕縛と盗まれた客船の回収』よ」

 「でも、テロリストたちはちゃんと捕まえたけど?」

 「確かにテロリストたちは二人のおかげで無事捕縛。身柄は黒硝子の番犬(ケルベロス)に引き渡したわ」

 「ん~?じゃあなんで?オッケーじゃんか」

 「問題は『客船の回収』の方なの」


 昨夜、常世島でシャルアリス王国第一王女である、リアナ・レイ・シャルアリスが誘拐、拉致監禁される事件が発生した。

 直ちに、シャルアリス王国騎士団が動き、黒硝子の番犬(ケルベロス)も連携して捜索を開始した。

 だが、リアナ王女は一人の魔術師に救助され無事生還した。

 リアナ王女の監禁場所として使われたのが常世政府が所有する一隻の客船だった。

 リアナ王女によると、テロリストたちは無力化したが、船内に放置した状態。

 黒硝子の番犬(ケルベロス)は早急に対応した方が良いと判断。

 精霊術師である、天夜輝光海とアマネの助力を得て、船内のテロリストたちの捕縛と客船の回収に向かった。


 「私はね?『客船の回収』って言ったけど、多少傷ついていても大丈夫よ?テロリストたちと交戦したんだから……」

 「じゃあ……」

 「でもね……なんで船体が真っ二つになってるのよ~!!」


 輝光海とアマネによって回収された客船は船体が横真っ二つになっていたのだ。


 「あ~……」


 輝光海もようやく理解したのか微妙な表情になり、頭をかく。

 アマネは依然と目を瞑り落ち着いている。


 「しかも~!その客船を所有するのは常世政府だからいつもより倍の始末書を作成しなきゃいけないのよ!何であんなことしたの~!!」

 「だって、テロリストが抵抗してきたり、異世界の」

 「あ、ちょっと待って輝光海ちゃん」


 突如、説明の途中で止められた。


 「異世界のことなんだけど、いちいち『異世界』って言うのは分かりづらいじゃない?だから、これからは『異世界』じゃなくて『アナザー』って呼んで?安直だけど分かりやすいでしょ?」


 『アナザー』……一応、政府が正式に命名したものらしい。


 「じゃあ、その船がアナザー?の本大陸に到着する寸前だったんだよ!どうしようと思って、考えついたのが……」

 「真っ二つなの?」


 輝光海は船の操縦などできない。

 大陸への到着が意味するのは、今回の任務の失敗……

 焦燥する中、ようやく出した答えが『船の破壊』……

 船が航海不可能となれば、『大陸への到着』という今回の任務の不安要素は綺麗に消える。


 「鬽鈴様、あまり輝光海を責めないで下さい。輝光海が無茶なことをしないよう目付役として同行した私にも責任はあります」


 沈黙を貫いていたアマネが立ち上がり頭を下げる。


 「ほら~アマネちゃんは輝光海ちゃんに甘い!甘いのよ!」

 「そりゃ~ねぇ、俺とアマネはラブラブだもん!これが当たり前なんだよ~ん」

 「べ、べべべ、別にラブラブでは……多少仲が良いだけです……」


 正座をしてからずっと無表情だったアマネが、頬を赤く染めてわかりやすく焦りを見せる。

 輝光海以外には見せないアマネ本来の姿だ。


 「は~い!そこ、イチャイチャしない!」


 鬽鈴は「パンパン!」と手を叩いて注意をする。

 二人によって提出された報告書に目を通してため息をつく。

 すると、報告書に記述されていた名前に目が留まる。


 「この子……リアナ王女を救出した魔術師って悠梨ちゃんだったのね……」

 「あれ、知ってる人?」

 「えぇ、確か6年前だったかしら?一度日本に戻った際に見つけた子なの。あなたたち二人と同じで訳ありでね、私が常世島に来るよう勧めたのよ」


 6年前、初めて『天使の血を引く者』という少年に会った時のことを思い出し、懐かしさを感じて頬が緩む。


 「あれ?6年前ってことは鬽鈴がまだとんがってた頃の話?」

 「もぉ!そうなんだけど、それはやめてって言ったじゃない!あの頃は、慣れない仕事に追われたりして疲れていたのよ~。部下にも威厳を見せなきゃと思って……」


 あまりの恥ずかしさに机に顔を伏せてしまう鬽鈴。

 その姿を見て、腹を抱えて笑う輝光海に、顔を逸らして必死に笑いを堪えるアマネ。

 鬽鈴の黒歴史をイジって遊ぶのは輝光海の楽しみの1つだ。

 ひとしきり笑うと、顔を茹でダコのように真っ赤にした鬽鈴が報告書の整理を再開する。



 ××××××××××



 「いや~、怒られちゃったね~」


 鬽鈴の説教を一通り聞いた輝光海とアマネは執務室をあとにして、日の光に照らされた廊下を並んで歩く。


 「それにしても、【終末龍ノ断罪鎌ダムネシオ・ニーズヘッグ】の【精霊鎧装(デュナミス・アルマー)】を使用したのに、よく被害が船体だけで済みましたね。私としては、あの海域一つを崩壊させるかと思っていました」

 「フッフッフ、加減を覚えたのです~。前にさ、俺が加減を知らずに大暴れして無人島一つを消し飛ばしたことあったじゃん?」


 それは以前、常世政府が鬽鈴経由で二人に依頼を出したときの話。

 異世界(アナザー)に存在する無人島に逃げ込んだ魔獣の討伐という内容で、輝光海は億劫に感じるも、アマネに付き添われて討伐に向かう。

 しかし、その魔獣はとても素早くて二人は見つけることすら出来ず、最終的には、業を煮やした輝光海が精霊術で島を消し飛ばすという愚行に走った。


 「ハッハッハ~、あの時はやり過ぎたよね~」

 「はい、あなたにしては努力したほうだと思いましたが、無人とはいえ異世界(アナザー)に大きく干渉した出来事……決して、些細なものではありません」


 輝光海は反省の色を見せず、舌を出しておどけてみせる。

 『輝光海』という人間は、いつも笑顔で明朗快活、勇往邁進、彼の身を案じる人々からしてみれば、『超』がつくほどの猪突猛進。


 悲劇を好まず、喜劇を愛する────

 闇を好まず、光を愛する────

 月を好まず、太陽を愛する────


 そんな彼の態度には理由があった……

 輝光海が、初めて天夜鬽鈴と出会ったのは今から二年ほど前の話になる。

 当時十二歳だった輝光海には、ある二つが欠損していた。


 それは……『記憶』と『感情』


 輝光海には十歳以前の記憶が無かった。

 憶えていたのは、自分の名前だけだった。

 そして、輝光海には感情が欠けていた。

 欠けていた感情は、『怒り』や『悲しみ』などの負の感情だった。

 『怒り』を口にしても、その言葉には『心』が無い。

 『悲しみ』を口にしても、その言葉には『心』が無い。

 輝光海に残っていたのは、『嬉しい』や『楽しい』などの正の感情だけだった。


 これが天夜輝光海の『笑顔』の理由だ。



 ××××××××××



 私は輝光海と並び、廊下を歩く。

 窓から差し込む日の光が眩しい……

 日の光で輝光海のキラキラと輝く金色の髪が、一層輝きを増す。

 その瞳はとても生き生きとして輝く。

 常人ならば、記憶も無く、感情も欠けている、そんな現実に対して恐怖し、暗澹とするでしょう。

 なのに何故、彼は平然と振る舞えるのでしょう?


 「怖くないのですか?」

 「え?」

 「あ……」


 つい口をついてでた言葉は、彼の身を案じての言葉。

 私は彼のことになると、いつも感情的に……調子が狂ってしまう。


 「何が?」


 私は……本心を知りたい。


 「あなたの『記憶』と『感情』についてです」


 私の心は、酷く狼狽していた。

 今まで、こんなにも踏み込んで彼について聞いたことなど無かった。

 不安を拭いきれず、俯いていた私に彼は答えた。


 「わかんない!」

 「……………え?」


 私の不安を知ってか知らずか、輝光海は両手を腰に当てて、胸を張り、堂々と答えた。


 「だってさ、怖いも何も憶えてないんだし、怖がる理由が無いよ~。ていうか、『怖い』なんて感じないしー。それにさ、何となくだけどわかるんだよね。いつかはわからないけど、俺はきっと『記憶』と欠けた『感情』を取り戻すはず!」


 輝光海はスラスラと饒舌に、人差し指で宙に円を描くようにくるくると回しながら、根拠もない自信を言い放つ。


 「だから心配しなくていいって~!それに怖いだの、悲しいだの感じないってんなら、今の俺は世界一幸せになれるはずだよん!隣には大好きなアマネもいるしね~!」


 ……いつもの私なら、彼の言葉に焦って、頬を紅潮させていたでしょう……

 でも今は……彼の言葉が嬉しくて……自然と笑みが零れてしまいます。


 「愚問でしたね」

 「そゆこと~」


 ただ、私も悪い女ですね。

 笑顔の輝光海が好きですが、泣いた顔も見てみたいと……ほんの少しだけ思っています。



 ××××××××××



 う~ん……、心配させたくないから言わなかったけど、けっこう憶えてんだよね~……

 しかも、けっこう重要そうなシーンが鮮明に……


 水の中……俺は身動きがとれずにいた……

 真っ暗な部屋は、火花の散る機材ばかり……

 重く感じる体は冷たくて、肌寒さを感じた俺は、落ちていた布切れを羽織り、部屋を出た。

 気づいた時には、大きな広場に行き着いていた。

 そこで見た光景は……


 燃えさかる炎の中で、血まみれで倒れている男女の亡骸……

 直感的にわかったけど、たぶん俺の親だろう。

 女性の方は、俺と同じ金髪だったし。

 違いがあるとすれば、血と砂埃で汚れていたことぐらいだね。

 そして、最も鮮明に憶えているのが……


 その亡骸の前で、涙を流しながら笑っている銀色の髪の少年。

 その少年は……狂ったような笑いをあげて、大きな瞳で俺を見た。

 炎の中に見たその姿は……輝光海(・・・)だった。



 ××××××××××



 マジ笑えない……

 キラキラと輝く金色の髪の少年は、そう呟きながら、笑顔で目を伏せた。

誤字脱字は目を瞑ってください!

前作は長くなってしまいましたので、少し短くしてみました。

これからも物語を書いていきますが、そこらへんのバランスもうまく出来るよう頑張ります!

では、ここまで読んでくれた皆様!

どうもありがとうございます!

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