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 ルークはふらふらとした足取りで己が仇敵、クロッカンの元へと向かっていた。

 肩から銃器を下げ、腰に短銃と短剣。身体のあちこちに武器を仕込んで完全に臨戦態勢だ。場合によっては爆弾の導火線に火をつけることも辞さない覚悟である。

 理由は単純明解。

 シュリに理想の夫ととして名指しされたあの男を、この手で葬りに行くのだ。

 これまで一度だって女性にフラれたことはなかったルークにとって、シュリの言葉の数々は胸に突き刺さり、深い致命傷を負わせた。

 かわいいからキスがしたかった。キスだけではもの足りなくて、それ以上がしたくなった。男としては当たり前のことだ。シュリへの愛情があふれた末の暴走であったが、ルークは言葉通りにきちんと責任は取るつもりだった。他の女に自分から結婚をほのめかしたことなど、ただの一度もない。

 森の妖精のように、可憐な姿で野いちごを摘んでいたシュリ。エプロンドレスがたまらなく似合っていた。エプロンドレスの純白と赤い髪のコントラスト。ルークの妄想は膨らむばかりだった。

 任務として服の下は調べはしたが、それだけだ。白い素肌を網膜に焼きつけこそしたが、触れてはいない。ほとんど。あんまり。そんなには。

 つまり少しは触った。仕方がない。それが仕事だ。

 しかしルークは、シュリの容姿だけに惹かれたわけではなかった。しゃべってみればしっかりとした女性であり、甘やかしたいと同じくらいにビシッと言われたい願望があるルークにとって、理想が突然降ってきたようなものだった。

 シュリだって、キスを嫌がってなどいなかったのに。はじめてプロポーズというものをしたのに。ルークは泣き言すべて、銃槍へと込めることにした。


「中将がご乱心だぞ!」


「誰か止めなくていいのか!?」


「誰が止めれるんだよ! お、おまえ行けよ!」


「なっ、無理に決まってるじゃないか!」


 醜い押しつけ合いがはじまり、要塞内はかつてないほどに荒れた。

 騒ぎを聞きつけた医務室帰りのリョカが、蒼白になりながらシュリを探しに走る。

 そしてルークは、今後の方針を下士官たちに伝えている最中だったクロッカンを、とうとう発見した。


「アーノルド・クロッカン! 貴様を葬りに来た!」


 クロッカンははじめこそ取り合わずに無視していたが、ルークの持参した武器の数々が視界の端に映ると、目を剥いて普通に怒鳴った。


「勝手に武器類を持ち出すな! その肩のは許可を得てないだろう!」


「黙れ間男! 貴様だけは絶対に許さん!」


 ルークは刀よりも銃の方が扱いやすくて好きだった。ゆえに、クロッカンめがけてぶっ放った。もちろん、狙いはぎりぎり外している。

 シュリが傷つけたり傷つけられたりしてほしくないとかわいいことを言っていたからだ。でなければ少しぐらい怪我をさせていただろう。


 恋とは、命がけのものなのだ。


 壁に黒い穴がいくつか空き、硝煙が漂った。


「おまっ、本気で撃つやつがあるか!」


「決闘だクロッカン! 武器を持て!」


「馬鹿なのか!? 貴重な弾を無駄撃ちするな、この大馬鹿が!」


「俺の……! 俺の野いちごちゃんをたぶらかした罪を、その身で贖え!」


「おい、誰か! この馬鹿を懲罰房に入れろ!」


 クロッカンの命令に、ようやく周りの男たちが意を決してルークを押さえ込みにかかった。

 しかしその顔には怯えが混ざり、ややへっぴり腰である。

 相手は腐っても中将。下士官に敵うはずがない。

 そこへ救世主ならぬ、ことの発端が現れ出た。リョカに連れられて来た、シュリだ。


「ルーク!? なにしてるの!」


 ルークの意識がシュリへと逸れた。そしてそのシュリへと、事態を収拾してくれという他力本願な視線が集中する。


「大将を潰して俺の方が強いことを見せるから、野いちごちゃんは危ないから部屋に戻っててくれ」


「も、戻れないわよ、この状況で! ルーク、いっ、一緒に戻るわよ!」


 引きつった顔のシュリが手を差し出してきたので、ルークは重たい荷物をその場で捨ててその手を取った。


「真面目(だけが取り柄)な大将ではなくて、結婚には不向きな俺と? 不誠実で節操なしの女たらしなこの俺と、一緒に部屋に戻ってくれると?」


 相当根に持ってるわね……と、シュリはごく小さく呟いたが、みんなのために静かに頷いた。


「一緒に寝ても……?」


「ご、拷問……しないなら」


 頰を赤らめるシュリに、ルークはぱっと笑みを浮かべて片腕で彼女を抱き上げた。


「拷問はしない。だから朝まで気兼ねなくいちゃいちゃしようではないか!」


 真っ赤になったシュリを連れて部屋へと引き返していくルークを見送りながら、青筋を立てたクロッカンが、さっきと同じことを淡々と繰り返した。


「おい、誰か。あの馬鹿を懲罰房へ入れておけ」


 その後、ルークは数十人がかりで懲罰房へと入れられ、シュリは彼を心配しながらも、穏やかな眠りにつくこととなったのだった。




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