その6
14話以降のルーク視点です。
3話ほど、お付き合いくださいm(_ _)m
書けたらもう1話追加するかもしれません。
ルークは人として決定的に欠けている部分こそあるが、決して人の道には外れているというわけではない。
軍内ではある種の美談として語り継がれている、ガレット中将が仲間を庇って被弾した件、についてもそうだ。
しかし、シュリが仲間と仲良く、と言ったから従ったわけでもない。
人間、とっさの判断が必要なとき、結局頭でなにかを考えている暇はないのだ。
反射的に動くか、反射的に動けないか。それだけだ。
ルークはただ、前者だっただけなのだ。
できれば恋愛絡み以外の争いごとをしたくないルークとしては、接近戦など、要塞にシュリがいなければ参加することも迷っただろう。
仲間たちがすべて殺されて要塞が落ちたわけでもないので、入られたところで取られるものもないと、のんきな考えをしていたかもしれない。
取られるもの……強いて言えば、クロッカンの首くらいなものだろう。
クロッカンがどうでもいい、というわけではもちろんなく、それは彼が討ち取られるという想像がうまくできないだけという、信頼からくる無関心であった。
クロッカンを倒すのはルークでも至難の技なので、ぽっと出の他人がどうこうできる存在ではないのだ。
きっと撃たれてもケロリとしているだろうというのが、ルークの偏見だった。
そして逆に言えば、ルークから見た他の仲間たちはクロッカンと違い、撃たれたらすぐに死んでしまうかもしれない、という存在でもあった。
目の前の敵を前にすると、身も守ること、侵入を防ぐこと、そして制圧することを意識しすぎて周囲への警戒がおろそかになるのは当然のことだ。
ただそこは、命がけの戦闘中とはいえルークはルーク。
野いちごちゃんとの思い出の木があっちにあるな、などと他ごとを考えて剣を交える余裕さえあった。
殺すことが最終目標でないのならば、指一本動かせなくなるまで疲れさせてしまえばいい。相手が焦れば隙が生まれるし、ここでこうして足止めをしている時点でルークたちの目的は達成されているのだ。
そうしてルークに生まれたわずかな思考の時間と、偶然にも野いちごの木のそばで闘っていたことが、結果的に仲間の危機を救った。
森の中だ。銃口が光って見えたなどという幸運があったわけではない。
遠くに見えていた、ルークとシュリが出会うきっかけとなった野いちごの木が、パキッと不自然に音を立てて折れた気がしたのだ。ルークには。
(……っ!)
敵が潜んでいることをいち早く察知したルークは、後はその角度から狙うならと目測をつけて駆け出した。
足を負傷してしまったのは予定にはなかったが、目の前で誰かが命を落とすことがなかったことに安堵はした。
しかし撃たれるというのは相当厄介なものだなとルークは思う。痛みもさながら、患部が焼けるように熱い。
幸いにも動脈は傷つけてはいないらしい出血量だ。しかし自由に歩くのは無理そうだった。
「ガ……ガレット中将っ……!」
ルークが助けた若い青年は、自分が撃たれたのではないかというくらいに血の気を引かせて青ざめていた。
ルークよりも年長者がこの場にいなかったせいもあり、真っ先に我に返った一人がやや震える声を張った。
「た、退避だ!」
ここで小競り合いを続けることはできなさそうだったので、一旦退くというのは妥当な判断ではあるが、クロッカンならば退避は選ばないだろう。
もっとも、彼がいれば負傷したルークに動揺したりせず、退いて追われるリスクを負うより、そのまま闘い続けて制圧してしまうはずだ。
被弾したルークには決定権などないので、顔を歪めて足を庇いつつ、助けた彼に肩を借りて退く。
しかし予想通り敵に追走され、ルークは混乱の中、敵味方をうまくかわし、茂みへと身を潜めた。
ここまま足手まといになるよりかは、むしろ一人でいた方が気ままに動けると思ってのことだ。足は動かなくても、一時的に隠れることくらいは容易い。
しゃべれば悪目立ちするが、本来一匹狼の狙撃手なのだ。
(後のことはクロッカンに……。野いちごちゃんも、要塞内にいるなら安心だ)
ルークは腿に血がにじんでいるのを目にして、上着を脱ぐとその腕の部分で幹部の上を縛り、簡易的に止血した。
それから痕跡を残さないよう、気配を窺いながら移動を試み、木に身体を預けて休める場所を見つけた。
(これくらい、平気だ。普段の行いがいいから、死にはしない)
なぜかそう信じて疑わないルークだった。
気がかりは自身のことではなく、大半がシュリ。そして野いちごの種ほどだが、仲間たちのことも。
だが今のルークにできることは、ほとぼりが冷めるまで待機することだけだ。
神は信仰していないが、祈るのもいいかもしれない。
実際に祈りはしないが。
「せっかく野いちごちゃんが受け入れてくれたのに」
いいところで邪魔をされたことを思い出したルークは、今さら敵に対する怒りが湧き上がった。だがシュリの姿をまぶたの裏に浮かべた瞬間、鎮火した。単純だった。
しかしこの怪我ではしばらく彼女を愛でられそうにない。
あんなことや、こんなこと。想像するかぎりの方法で、脳内のシュリを愛でる。
興奮してきて血が止まらない。ほんの少しだが、視界がかすむ。
ついには妄想から飛び出たシュリが、ルークを見つけると血相を変えて駆け寄ってくるという都合のよい幻覚が見えはじめた。




