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野いちご摘みにはご用心!  作者: 名紗すいか
コケモモ摘みにはご用心!
19/29

後編1

どこかの中将のせい(?)で長くなったので分割します……。



 メアリが要塞内についたのを見計らったかのように、ぽつぽつと降り出していた雨が土砂降りへと勢いを増した。


「帰れない……」


 星のない灰色の夜空を見上げて、メアリはがくりとうな垂れた。

 しかしクロッカンに寝台へと下ろされて、右足を掬われると雨などささいなことは頭から吹き飛んだ。

 軍人、しかも大将が、自分の足元に跪いているのだ。メアリは慌てて足を引っ込めようとした。

 しかししっかりと掴まれていたせいで拒絶の意が伝わっただけという、なんとも中途半端な形に終わった。


「手当てするだけだ。……俺に触られるのが嫌でも我慢しろ」


「違っ……」


「じっとしてろ」


「は、はい……」


 大将に命令されて反射的に頷かないのは、どこかの不良中将だけである。


「打ち身と擦り傷だな。これくらいならすぐ治る」


 薬を塗って包帯を巻かれた足へと、クロッカンは律儀に靴下と靴を履かせた。


「ありがとうございます」


「礼はいい。罠の回収に時間がかかったこっちのミスだ」


 そう言って立ち上がり部屋を出ていこうとするクロッカンの軍服を、メアリはとっさに摘まんだ。怪訝そうな顔が向けられる。


「あの、あの……」


「なんだ?」


「この間は、ごめんなさい! あれは、違うんです」


 やっとこの言葉が言えた。


「違う? ……ああ、恋愛対象にはならないだけで、人としては認めてるってことか?」


「違います!」


「おい! 俺は人としてもだめなのか。さすがに傷つくぞ」


「いえ、違っ、違います! 大将さんは人としても素晴らしい方だと思います!」


「そうか。ありがとな」


 そして踵を返すクロッカンを、メアリは再度止めた。


「だから、なんだ」


「れ、恋愛対象……です」


 なけなしの勇気を振り絞った。メアリの顔は沸騰して真っ赤だ。

 気づいてしまったのだ。メアリはクロッカンのことが好きだと。元々好意はあったが、さっきそれを自覚したのだ。ケビンが言った通りだった。クロッカンに、恋をしていた。はじめから。


「……は?」


「大将さんは、恋愛対象です……」


 メアリは恥じらいと照れで、両手で顔を覆った。

 クロッカンは理解が追いつかずに、完全に思考が停止して動かない。

 声を発したときには大将としての威厳はどこへやら。たじたじでメアリへと問い詰めてきた。


「……いやいやいや。ありえないだろう! 自分がなにを言ってるかわかってるのか!?」


「わかっています……大将にとってわたしは恋愛対象外の、子供だってことも……。返事はわかっているので、いりません。ただ誤解だけは解きたくて――」


「待て待て! 状況がまだ呑み込めない! おまえ、俺のことが好きなのか!? 冗談だろう!?」


(この人はどうしてこんなに、自己評価が低いんだろう……?)


「冗談ではありません! す、すすす好きです!」


 言った! とメアリはやり切った思いで完全燃焼した。断られることがわかっているからこその心の余裕だ。

 だから、予想外の言葉には対応できなかった。


「……本気、なのか? 俺は軽い付き合いとか無理だぞ?」


「……?」


「おまえがそうと決めつけるわけじゃないが、大将の肩書きがある恋人がほしいとか、そういうことならよそを当たれ」


 メアリは肩書き目当てではない。しかしそう言われたことよりも、彼がきっとこれまでに幾度もそう言われてきたのだということを思い、悲しくなった。


「わたしは大将さんが、軍を追放されたとしても好きです」


 一世一代の告白。クロッカンの脳にもしっかりと響いたのか、精悍な顔に朱が混じり目を逸らされる。


「……追放とか、縁起でもない」


「ご、ごめんなさい」


「謝るな。口が悪いのはいつものことだ」


 メアリはごめんなさい、と言いかけて、口をつぐんで頷いた。


「それで……なんだ。返事はいらないとか言ってたか? それはつまり、あれか? そこにいた年上の男に憧れたってだけの話なのか?」


(だめ、伝わっていない……)


「違います、結婚したい、の……好き、です」


 言ってしまってから、メアリは自分がたった今なにを言ったのか頭が理解した。

 告白を通り越して求婚をしてしまった。逆プロポーズだ。ただメアリ本人以上に、クロッカンが驚いている。


「結婚って、おまえ……正気か!? 穴に落ちて頭でも打ったんじゃないだろうな?」


 頭の心配され、メアリはショックのまま言い募った。


「頭なんて打っていません! 本当に大将さんのことが好きなの! 会って時間は経ってないけど、好きになってしまったの!」


 恥ずかしいわ悲しいわで、とうとうメアリは泣き出してしまった。

 クロッカンが見た目に似合わずおろおろとする。


「お、おい、泣くなよ。……信じるから、泣くな」


「……信じてくれるの?」


「ああ、わかったから、信じるから。泣きやめ」


 メアリが目の前にある腰へと抱きつくと、クロッカンが氷結した。


「……っ!」


「好きなの……」


「ま、待て待て待て! 密室で男に迫るな! 俺じゃなかったら襲われてるぞ!」


「大将さん以外に、こんなことしません」


「くっ、なんだこの拷……いや、とりあえず離れろ! 今後の話はおまえの姉を交えてするから」


 メアリの保護者であるシュリを交えて話。どういうことだろうか。


「結婚を前提にという話なら、受ける。結婚するまでは当然だが健全な付き合いしかしないからな? 婚約期間中の問題は状況に応じて対応するが、不貞は許さない。その場合は申し開きなしに婚約破棄だ。それから――」


「あの、待ってください! 大将さんがわたしのことを好きなのかどうか、まだ聞いていないんですけれど……」


 クロッカンは歯切れ悪く言った。


「それは……まぁ、あれだ。嫌いではない」


「それは…好きってことでいいんですか?」


「あんまり言い慣れないが……好意は、ある」


 手で顔を覆い、反対の手のひらを見せてこっちを見るなと言うクロッカンが、メアリにはかわいく思えた。

 なので好意があると言ってもらえただけで、満足してしまった。




続きはすぐに更新します。

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