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章4(視座№:A3) その4

 とは言ったものの。

 机に置いた箱ボタンを前に、僕はもう二時間近く、何も手につかない状態を続けていた。

 断じて悶々としているわけではない。

 僕はまじめなことを考えていた。

 今日は、やけに早くお風呂入ってたよな、とか、どんな下着を選んだのかな、みたいな不真面目なことは一切考えていない。もう一度言うが、不真面目なことは考えていない。

 夕飯の後、帰ってきた添田から事件関連のことを確認することができた。

 一つは、暗殺に使われたのはやはり異世界製の拳銃だった。

 それは『テンペスト』が流通させている拳銃では最もオーソドックスで、旧日本軍で使われたストライカー式拳銃を発展させたものだ。情報が少なかった当時は足がつかないとされ爆発的に出回ったが、結局ロシア製や中国製のシェアを覆すことはできず、警察に情報が蓄積されて足がつくようになってからは見向きもされなくなってしまったという可哀想な拳銃でもある。そのため、こいつが使われた事件は間違いなく『テンペスト』絡みだといえる。

 もう一つは事件当日に祖父の部屋に出入りしたと思われる人間の名前だった。あの日僕は翠玲とデートしていたから知らなかったが、マシェル捜しをしていたこともあって人の出入りは多かったらしい。監視カメラに写っていた全員の名前と入退出の記録と、犯行推定時刻の時間帯に家に残っていた者のリストをもらい、その中身を確認する。そして僕はある名前を見つけた。

「なるほどね……」

 僕はリストをベッドの方へ投げると、机に脚を上げて楽な姿勢をとった。

 あとはこの『夜這いボタン』をどうするかだけど……。

 祖父が亡くなって間もないのにこんなこと――いや、祖父が亡くなった直後だからこそ、姐さんは僕に意識改革を求めているのだろう。

 ちょっと急ぎすぎているきらいもあるけど、姐さんは姐さんなりに家のことを考えてくれている。

 ……と思いたい。

 ほんと、何考えてるんだろう、姐さん。

 姐さん自身についても分からないことだらけだ。

 決して僕らの送迎係ではない。

 祖父の年の離れた愛人だと思われているが、それも定かではない。

 日本人離れした美貌と異国情緒あふれる名前からして、こちらの世界の人間かどうかも怪しい。

 姐さんが異世界人でないと分かるのは、彼女が東京と異世界が繋がる以前から墨染組にいると古参の組員の言質があるからだ。

 それにしても謎が多すぎる。

 椅子の背もたれに体を傾ける。天井を見ながら考え事をするには良い姿勢だ。

 ふと、木板の天井に気配を感じた。言葉では言い表せない何かの気配だった。

 墨染邸は戦後すぐに建てられた家で、リフォームや改築もされているけれど、基本的に古い。耐震化工事の際に抜け道や隠し部屋はだいぶ埋めたが、それでもまだいくつか残っている。

 そして、聞こえた。

 カタカタカタ……。

 ネズミの足音だ。柱を走る四足の不愉快な音だ。

 リフォームしたのを最後にしばらくいなかったが、また出てきたらしい。

 さすがに人の手で駆除しないといけない。翠玲の猫がネズミをとってくれるまでだいぶ掛かりそうだし。

 溜め息をついて時計を見ると、深夜一時を指していた。

 このままボタンを押さなければ、明日から(すでに今日だが)代わり映えしない平凡な日常が約束される。ヘタレの烙印は免れないが、失うものはないはずだ。

 こんなボタンの力を借りなくても、翠玲としっかり話し合って……。

「待てよ。押しても変なことしなきゃいいんだよな」

 そうだ。

 なぜ気づかなかったのか。

 お前はそれしか頭にない童貞かよ! しかたないじゃない、童貞だもの!

 やってやる。やってやる。やってやるぜ。押せば姐さんも納得させられるし、翠玲ともこの機会にいろいろ話をしておきたい。

 こんなことに気づくまで二時間も無駄にしてしまった。

 こんな小さなボタンひとつに悩まされて……。

 自分の馬鹿さ加減を忘れたい一心で、さくっと、ぽちっと、僕はボタンを押した。


 数分後、そこにいたのは姐さんだった。

「鳴らしましたね? うふふ」

 なんだこれ。

 姐さんの手には、ボタンと同じ緑色のブザーが。

 やられた! 翠玲に渡されたピンク色の方はフェイク!

「静かにしてくださいね、あるま様。もちろん多少声を出されても、翠玲は夕食に混ぜた薬でぐっすり眠っていますけど」

 音がしないように扉を閉め、なぜか部屋の明かりまで落とす姐さん。

 真っ暗で何も見えない。

「ご安心ください。悪いようにはいたしませんわ。さあ、ベッドへ」

「は、話なら、立ったままでいいじゃないですかっ」

「それではムードが出ませんから♥」

 『連れ込み宿』という単語が思い浮かんだ。

 消えて。早く脳から消えてその昭和語。

 それから僕は姐さんに誘われるままベッドの方へ――。

 どうすんの? どうすんの、僕?

 直立不動で固まった僕に、姐さんの肢体が艶めかしく寄り添ってくる。 

 暗くて見えない分、嗅覚と触覚が鋭敏になっていて、押し付けられている感触が3倍増しで伝わってくる。

 姐さんの顔が真横にきて、すこし吸い込むだけで女性の髪のめっちゃ良い匂いがする。

 まてまて。姐さんは家族みたいなものだ。ひとつ屋根の下で暮らしているのだからお風呂上がりの姿なんて慣れたものだ。おまけに子供の頃はよく翠玲と一緒にお風呂に入れてもらっていたわけで。でもその頃から姐さんって外見一切変わってないわけで。そこにあるのは紛れもない、たるみ一つないわがままボディである。

 やっぱりダメだ。脳内イメージと匂いと感触が完全に合体して僕の若気の至りが大変だ。

 さらに声を落としているので、耳元でささやく会話になる。

 (かそけ)き吐息が耳を撫でるたび、不随意に身体が震えた。

「しぃー」

 ところが姐さんは――僕の緊張をよそに――意識を天井に向けていた。

「どうやら、賊がおります。天井裏です」

「えッ」

「お静かに」

 口を塞がれる。姐さんのしっとりとした手のひらの味がした。

「ね、ネズミじゃないんですか?」

「んー。ネズミもおりますね。とりもちを用意しないと」

「とりもちって何?」

「さてここで、墨染邸子供部屋の天井裏についてご説明しますね」

 姐さんの笑顔がとりもちに触れるなと言っている。

「子供部屋は三部屋とも天井裏を使って外へ逃げ出せるようなっているんです」

「え? 僕の部屋は隣や翠玲の部屋みたいな隠し扉って無いですよね?」

「ここは壁紙で塞いだんです。もともとガサ入れを逃れるためで、どの部屋も天井裏から下の様子が見られるようになっています。男の子がそれを知ってしまうと、どうなると思います?」

「男がみんな窃視症予備軍だという前提はポリティカル・コレクトネスに反すると思います」

「と、言うようなプライバシー保護の観点から、あるま様のお部屋と真ん中の空き部屋から天井裏に上がることはできないようになっているんです」

 なんだか納得がいかないぞ。

「翠玲の部屋は?」

「女の子が好き好んで不衛生な天井裏に入るとは思えませんが、簡単な南京錠で施錠はしておりますよ」

「だからポリティカル・コレクトネス」

「はいはい。難しい言葉を使いたいお年頃ですのね。いい子いい子」

 よしよしと頭を撫でられる。やめて、蕩ける。

 むぎゅっと抱き寄せられ、僕の顔に姐さんのマシュマロが押し付けられる。

 それは接触魔術だった。

 僕を五歳児に退行させる気か。

「一緒にお昼寝してた頃が懐かしいですね。覚えてます? 昔は私のこと『お姉ちゃん、お姉ちゃん』って呼んでて、本当に可愛かったんですよ。どうです、たまには『お姉ちゃん』に甘えてみませんか?」

 そんな恥ずかしい真似が出来るわけがない。

 だが今の僕は五歳児だ。

 姐さんに抱きつくと、甘やかな体温を胸いっぱいに吸い込んだ。

 もちろん五歳児にやましい気持ちは一切ない。

「お、お姉ちゃん……」

「あらあら。あるまくんは甘えん坊さんですね」

「きゅう……」

 姐さんから『くん』で呼ばれた……っ。

 天井裏の慮外者を騙す演技だと分かっていても、前世いったい何をしたらこんなご褒美にあずかれるというのか。

 否、この世の通りやすさは、ひとえに祖父、そして親の徳によってもたらされるのだ。

 ありがとうじいちゃん。

 ありがとう父さん。

 人をダメにするマシュマロではなく姐さんの瞳が優しく細まる。それが識別できるくらいには僕の眼も慣れてきたらしい。明るいところでは青い海のような色をしているが、今は星を散りばめた夜の海だ。

 その輝きが再び天井裏の動向を察した。

「あら……いなくなりましたね」

「か、身体を起こしてもいいですか」

「いけません♥」

 がばっ、と姐さんが仰向けになった僕にかぶさった。

 両肘をついて顔は離れているが、お腹から下は交差気味に密着している。

 ふ、太腿が、僕の足の付け根に入り込んで……っ!

 若気の至りが本当に若気の至りになってしまう!!

「んふふ。元気ですね」

「こ、これは姐さんが……」

「私が?」

「はう……」

 言い逃れできない。辱めを受けている気分だ。

 もしかして賊がいる話も姐さんの自作自演だったりして。

「賊が降りてくるまで、お話しましょうか」

 降りてくるって……まさか、誰かが本当に天井裏に隠れていた?

 いや、まさかな。

 姐さんは微笑し、僕の髪を梳くように撫でながら、健全な方の夜伽をはじめた。

「私は、向こうの世界にいた頃、ある方と恋に落ちました」

 いきなりで悪いけどちょっと待って。姐さん、やっぱり異世界の人だったの!?

 という野暮な質問は雰囲気をぶち壊すので喉で止めた。

「ある方って……」

「もちろん、征義まさよし様ですよ」

「初耳です……」

 それは時空を超えた恋愛だった。

 神政メーレイジアの礎が完成し、他の神格との戦いで力を使い果たしたサスラが休眠状態にあった頃、その身辺警護の長を務めていたのが姐さんだった。建国の英雄である墨染征義と、サスラに最も近い場所にいた彼女が惹かれ合うのに時間はかからなかった。

「しかし征義様には出征前に婚約された奥様がおりました。それでもお互いが惹かれていたのは事実でした。――余談ですが、こちらの世界に戻って来て奥様が病気でお亡くなりになるまでの15年間、征義様は私には一切手を出されませんでした」

 僕は目を覆う。

 思春期の憧れの相手が祖父の愛人とか、前世いったい何をしたらこんな憂き目に合わねばならんのか。

 余談以下が完全に余談です、姐さん……。

 ともかくふたりはプラトニックに惹かれ合ったまま、祖父が異世界から帰還する日がやってきた。

 休眠していたサスラが力を取り戻し、一時的に時空間チャンネルを開くことができるようになったためだ。だが例のごとく帰還のチャンスはその日その星辰の位置する短時間しかなく、この機会を逃せば次は数十年後(つまり東京空中決戦があった日)になるというのだ。

「私は征義様にこの身を捧げる決意をしておりましたが、当時サスラ様のお付きをやめることは即ち死ぬことだったのです。とはいえサスラ様もその頃には人間らしさを備えておられ、私は特別に温情をいただき自由の身となりました――私の後を追って出奔した者も数名おりましたが……」

 姐さんが辞めるなら私たちも辞める、でなければ死んでやる、と言って聞かない者が続出したらしい。

 その結果サスラはなし崩し的に依願退職を認めざるを得なくなった。信頼を越えた姐さんへの支持が相当厚かったか、さもなくば職場環境が非常にブラックだったかのどちらかである。

「その者たちが城下に身を寄せて徒党化したのが後の『テンペスト』です」

「ちょっと待って」

 僕は今度こそ本気で待ったをかけた。

「あの、つかぬことをお伺いしますが、まさか『テンペスト』が『神罰代行』をふっかけてくる理由って」

「それは……ご想像にお任せしますわ。ふふ」

「どう考えてもじいちゃんに姐さんを奪われた腹いせじゃないですか!」

 じいちゃん、あんたって人は!

「『テンペスト』も世代交代していくうち、『神罰代行』の理由は忘れられ、ただ『神罰代行』をするために『神罰代行』をするようになっています。本来は征義様が亡くなった時点で存在意義を失うものでした」

 姐さんはそれまでと違って神妙な面持ちで。

 そっと、僕に額を寄せた。

「ご迷惑をかけて、本当にすみませんでした」

「いえ……」

 僕は姐さんの肩に手を添えて、わずかに押し戻す。

「僕はもう『神罰代行』をしませんから。ああ、そういえば、サスラが姐さんのこと気にかけてましたよ」

「サスラ様が? そうですか……何でもお見通しなのですね」

 意味深に切ない笑みを漏らすと、姐さんは顔の前で右手薬指の指輪を抜いた。

「これは『金輪奈落(こんりんならく)』。私の神咒です」

 指輪をカードに戻してそれが神咒であることを見せる。

 それを、もう一度指輪へと解放すると、恭しく僕の手を取り上げ、左の薬指にそれを通した。

 他に九本も指の選択肢がある中であえてその指を選ぶとか。

「あら、そんな乙女みたいな顔して」

 だって嬉しいじゃん。

 指の付け根近くで指輪が縮み、吸着したように感じた。

 どくん、と心臓の鼓動が早まった。神咒と指を通る血管がまるで融合したような熱を感じる。

 姐さんのしなやかな指先が、指輪を手放す一部始終を、僕はただ呆けたように眺めていた。

「差し上げます。征義様がいないのに、こんなものつけていても仕方ありませんから」

 不吉な考えがよぎる。

「え、あの、神咒がないと、どうなるんですか」

 不吉な考えを、どうしても確かめずにはいられなかった。

「姐さん、死んだりしませんよね?」

 返ってきたのは曖昧な微笑だけだった。

「ご想像にお任せしますわ」

「姐、さん……?」

 声を震わせる僕の前で。

 その首が、不意に力を失って。

 がくんと僕の胸に落ちた。

「姐さんッ!」

 そんな、嘘だろ。いきなりすぎる。

 こんな中途半端なところで僕を置いていくなんて、いくらなんでも勝手すぎる!

 僕は必死で姐さんの肩を揺する。

 取り乱して、ようやくスマホを手にした瞬間。

 その手を誰かに押さえつけられた。

 姐さんのひんやりした手が、僕の手を掴んで――。

 突然息を吹き返した姐さんが顔を上げてぺろっと舌を出した。

「――冗談です」

 空白のように息を吸い込んだ僕。

 吐くと同時にどっと全身の毛穴が開いた。

「ああ、もう、冗談きついって!」

 ふざけんな。していい冗談と悪い冗談がある。いくら姐さんでも、生きてなかったら殺してる。

 こっちの心臓がやられるかと思った――。

「外しても、普通に戻るだけです。でも――」

 姐さんは鏡に触れるように僕と手を合わせ、指を絡める。

「本当は征義様の後を追うことも考えました。でも、あるま様のそんな顔を見たら、できませんね」

 それだけでは信じられず、僕は空いている手で姐さんを確かめるようにその頬に手を添えた。

 僕の思わぬ行動に、姐さんは目をぱちぱちさせている。

「あ、あるま様?」

 僕は安堵の息を漏らした。

「よかった。ちゃんと姐さんだ。僕の姐さん……」

 手のひらに伝わる温度がわずかに上昇した気がした。

 姐さんの脈拍が、それは徐々にはっきりと、とくとくと早くなっていくように感じる。

 鼻と口が弾力に塞がれ、急に息苦しくなった。

「そうですよ。あるま様の、ミラですよ」

 蜂蜜のような声が耳にこぼれる。

 気づけば姐さんが、僕の頭を抱き寄せていたのだ。

「僕は誰の代わり(・・・・・)ですか?」

「あるま様はあるま様です。墨染在天。私のかけがえのない存在です」

「姐さんの代わりもいません」

「……お下がり(・・・・)でもよろしいのですか?」

 意地悪なことを訊きながら、姐さんは指で頬をつついてくる。僕はくすぐったさに目を細める。

「そばにいて欲しいです」

「ふふ。女性の従え方はまだまだですが、口説き文句には及第点をあげましょうか」

「そうですか……」

 ふわふわしていた僕は、その不適当な言葉を思わずスルーしかけた。

 待って、口説き文句って何?

 混乱に拍車をかけるように突然部屋のドアノブが回された。

 照明スイッチが叩かれる。

 僕は反射的に姐さんをはねのけて起き上がった。

 そこにいたのは、()だ。

 眩しさに目を細めるが、誰が入ってきたのかなんて、見なくても分かった。

 地獄の第九階層のような冷たい声がした。

「何してるの」

「ち、違うんだよ、翠玲――」

 止めるのも聞かずに翠玲は踏み込んでくる。

 僕にしなだれかかる姐さんの姿を見て、ぎょっとしたように歩みが止まった。

「……あるま君から離れて」

「えぇ? どうして?」

 離れるどころか挑発するように姐さんの腕が絡みついてきた。

 おかしいな、さっきまで止まり木のような安心感だったのに、今は邪智甘寧の毒蛇にしか見えない。

「彼、嫌がってるじゃない」

 口と態度が全然合っていない。嫌悪感たっぷりに見下す対象には間違いなく僕も含まれている。

 一応、僕にだって理由がある。

 だからこそ、誤解でこじれる前に弁明を聞いて欲しかった。

 本当は翠玲と話したくてボタンを押したんだ。でも何の手違いか姐さんが来てしまって、ほんとに何もやましいことはないんだ信じてほしい云々。

 僕は決意して口を開いた。

「あの――」

「黙れ」

 はい。

 抗弁すら許されなかった。浮気現場を押さえられた男の気分はきっとこんな感じだろう。

 姐さんがやれやれとこめかみに手を当てて嘆息する。

「男性との距離感で失敗するタイプね、翠玲」

「言われなくても三歩後ろにいるわよ。いつでも蹴り・・上げられる・・・・・ようにね(・・・・)」

「つかず離れずでしょう。気持ちで寄り添うようになさい。でないと男の人の格を下げることになるから」

 感じ方には個人差があると思うけど口を挟めない。

 埒が明かないと感じたのか、翠玲は親指で扉を示した。

「ねえミラ。外で話そう」

 姐さんは素直に応じて立ち上がる。

「ではあるま様。明日も学校ですから、ゆっくりおやすみになってくださいね」

「おやすみ、あるま君。覚えておきなさいよ」

「お、おやすみなさい……」

 二人が出て行く。

 扉が閉まる。

 精神的な疲労感と、張り詰めた緊張から解放された安堵感が同時にやって来て僕はベッドに倒れた。

 全て投げ出して眠ろうとした。

 この気疲れならすぐに眠れそうだと思った。

 だけど、結局、二人の顛末が気になって眠れるはずはなかった――。


(続く)

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