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章3(視座№:A2) その6

「さて。『神罰代行』を退(しりぞ)くなら『不倶戴天』は砕かせてもらうぞ」

 添田の承認を得たその席で、サスラが言った。

「それが『炬』を出す条件じゃ」

「……分かった」

 僕は軍刀に戻した『不倶戴天』を机に置いた。

 サスラは手品師のように手首を回す。

 すると指の間に別の神咒がカード状態で出現した。

 解放。

 真鍮色の歯車が現れる。

「『金剛(こんごう)不壊(ふえ)Ⅱ』じゃ。『ふえ』って部分がカワイイじゃろ。能力は――見れば分かるな」

 サスラは歯車の中心の穴に指を入れた。

「やめるなら今じゃぞ?」

「悔いはない。そもそも僕みたいな高等遊民に戦場は向いてない」

「きゃっきゃっ。本気で言っておったら笑うわ」

 もう笑ってるじゃん。

 歯車が、コトコト音を立てながら、抜き身の刃の上を転がっていく。

 それが離れた瞬間、『不倶戴天』はガラスのように砕け散った。

 もちろん神咒スレイヤーである『不倶戴天』の刃に触れた『金剛不壊』も無事では済まない。結果として二種類の金属片がテーブルに散乱した。

 サスラは100円ショップの卓上掃除セット(ブラシとちりとりがセットになったやつ)をポシェットから取り出すと、それを使って金属片を集める。

「ちょっと待って。この残骸、僕が貰っていいかな? こんなのでも、じいちゃんの形見だから……」

「こんなの言うな」

 サスラは一瞬戸惑ったが、淑やかに口角を上げた。

「ま、好きにせい」

 僕は安堵の表情を浮かべ、残骸から柄を手にする。

 祖父とのつながりはたしかにまだそこにあった。

「ありがとう」

「よせよせ、そんな子犬みたいに見るな。恥ずかしいじゃろ」

 サスラは集めた金属片をこれまたダイソーで売っていそうなアクリルケースに入れて僕にくれた。透明な箱の中に金と銀が混ざってそれは綺麗だった。

「さっきの神咒は何だったんだ?」

「ざっくり言えば、『絶対に壊れない』、そして、『攻撃したものを破壊する』」

「壊れたよな?」

「まさか壊れるとは思わんかった。本当にチートじゃ。『不倶戴天』なんか作るんじゃなかった」

 ちなみに僕の持っていた『不倶戴天』は触れた神咒の第Ⅰ段階の効果のみを無効化できる。

 最強の矛と最強の矛がぶつかった結果、双方砕け散ったということだ。

「まあ、矛は盾ではないからのう」

 サスラは遠慮がちに笑って、それから自分のスマホを出して運転手に連絡を入れた。

「ではわしは帰るぞ。そういえば……ミラヴェルは息災にしておるか?」

「姐さん? ああ、元気だけど……知り合いだったの?」

「いや。元気なら、良いんじゃ」

 サスラは一人で納得したようにうなずいた。

 意外にも、僕は知らなかった。

 そりゃじいちゃんと一緒にいることが多いから、サスラと姐さんに直接の面識があってもおかしくはないだろう。しかし仮にも異世界を統べる神格たるサスラに身を案じられるとは、どういうことなんだ?

 疑問をぶつける時間はなかった。

「『炬』にはマシェル討伐を命じておくからな」

「うん。なるべく弱いやつを頼む」

「尺度的には?」

「いざとなったら僕らでも抑えられるやつ」

「そんな弱いのはおらん――まあ、なんとかしておくから安心せい」

 僕たちは玄関先までサスラを送る。そして車に乗り込むサスラに、添田ともども深く頭を下げた。

「どうぞ、よろしくお願いします」


×     ×


 二時間後。

 吹上御苑に一人の『炬』の尖兵が降り立った。

 だふっとした猫耳フード付きパーカーで顔を目深に隠しており、口元だけが笑っている。一分丈スパッツから伸びる生足は健康的だが、その肉感からまだ年端もいかない少女だということを物語っている。

「こいつは参ったのであるな。次の戦場は東京なのであるか」

 周囲を見回して、楽しげに言った。

 少女はさっそく神咒を発動した。

 神咒の名をことほぐ。

 実をいうと、彼女の神咒はその猫耳パーカーだった。

 彼女の足元を中心に、瞬間的に局地的な地震が発生した。

 正確には何かが地表を移動する振動なのだが、それはたしかに地面を揺らした。

 表向きは何も起こっていないように見える。

 だが、もっと目線を下げてみると、その正体が判明する――。

 少女の足元をよく見ると、いた。

 金色の毛玉。

 どこから現れたか、愛くるしいゴールデンハムスターが一匹、懸命にひまわりの種をかじっていた。

 するとハムスターがもう一匹近くに現れる。

 別の方からもう一匹。

 てちてち。てちてち。可愛い。すごく愛くるしい。

 食レポ風に言えばもちもち感の玉手箱やー、である。

 だが愛くるしいとか呑気なことを言ってられるのはそこまでだった。

 ハムスターの数がみるみるうちに増えていく。そしてついに、

 どん! と地面から黒い塊が吹き上がった。

 皇居の森のいたるところから噴水のように湧き上がるハムスター。その噴水の数も瞬く間に増えていき、ハムスターの波濤と化す。

 個々が愛くるしいとはいえネズミ。黒い塊となって押し寄せる様は、まるでマンホールから噴火するゴキブリのようだ。またその種類も大きさも実にさまざまである。

 出現が収まると、夥しい数の野良ハムスターは彼女を中心に綺麗に統率の取れた同心円を描いた。熱蒸気のような声を上げ、殺気立った無数の瞳が、猫耳パーカー少女に傾注している。

「みなのもの、準備はよろしいか。索敵開始である!」

 手を広げた途端、野良ハムスターたちは恐ろしいざわめきを響かせ一斉に森の外へ散開していった。


×     ×


【神咒図鑑】その2/その3

「金剛不壊」

 効果:「金剛不壊」は破壊されない。

「金剛不壊Ⅱ」

 効果:「金剛不壊Ⅱ」で『攻撃』されたものは破壊される。『攻撃』とは破壊する意思を持って触れることである。

※但し:

1、使用者が「金剛不壊Ⅱ」に触れていないとき効果は発揮されない。

2、「金剛不壊Ⅱ」の効果が及ぶ範囲は使用者の心臓を中心に半径2m以内。

3、「金剛不壊Ⅱ」は生物(生体部分)を破壊できない。

※本来は半円に分かれてメリケンサックとして使用する。


「本地垂迹」

 効果:「本地垂迹」を装着した者は能力『姿映し』を得る。『姿映し』とは対象者の外見と記憶を自らに複写することである。

※但し:

1、効果は「本地垂迹」を装着している間、持続する。

2、『姿映し』の対象は使用者が実際に会い話したことがある者に限る。会話の際、使用者が「本地垂迹』を装着している必要はない。

3、『姿映し』をするために対象者の了解を得る必要はない。

4、『姿映し』の対象者が亡くなっても効果は持続する。

5、『姿映し』の対象は一人につき一度。同じ人間に二度変身することはできない。



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