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笑わない少女と決闘

6月30日(木)

編集作業に入りました。

9時前には教室へ着いたので、生徒達を観察する事にした。


ほとんどが、レベル一桁でまれに十を超えるくらいが数人いる。

二桁超えは貴族が主で、内包魔力から見て、所謂いわゆるパワーレベリング、金を積んで冒険者の中に混じり安全にレベルアップをしたのだろう。

そのせいで内包魔力がレベルに対して少なくなっている。

これは、実際に戦闘などを経験していないから魔力が身体に馴染んでいないためにレベルアップで手に入れた魔力が霧散したのが原因だろう。

とはいえ、レベルが下の者よりは魔力が高いのもまた事実。


……私から見れば大した差はないが


そう言えば、私に対して他の生徒から挨拶は少なかったな。

まあわずらわしくなくていいのだけど。

ここら辺は記憶通りね。


そうこうしていると、時間ぎりぎりになって悠然ゆうぜんとジョリーナ一行が教室に入ってくる。

ジョリーナは私を見て目を見開くが、すぐに顔を逸らし自分の席に着く。

そう言えば、私を罠に掛けて備品室に閉じ込めたのだったか。


つまり、あのクソッタレな迷宮ダンジョンへ落ちる原因はあの女な訳だ。



……殺すか。


どうやって殺すかを考えている内に時間は過ぎていたようで、いつの間にか一限目は終わっており、次は移動して魔法実習だそうだ。


ちなみにあの裏表女リティシャは隣のクラスである。


朧気おぼろげな記憶を頼りに実技室に向かう。

ここは、校舎の中になく、強力な対魔法防御アンチマジックバリアで幾重にも守られている。

……二十もの対魔法防御アンチマジックバリアを重ね掛けしているのは凄いが、所々穴だらけでどう見ても紙である。

それぞれの生徒達の私語で広い教室内が騒がしくなった頃、やっと教師達が現れた。


「私語は止めろー! いいか、これより3ヶ月間のお前たちの技術の推移を見るために、実技試験を行う!」


突然の試験発言に生徒達がざわめく中、ジョリーナ達が平然としているのが印象的だった。


「騒ぐなー! いいか、呼ばれた者から順番にあの的に向かって初級魔法の火炎弾ファイボルトを当ててもらう!」


教師が指差した方を見れば他の教師が的を並べていた。

的にも、対魔法防御アンチマジックバリアを掛けて防御力を上げているのか。

そして、教師はチラとジョリーナの方を見てから始めの生徒の名を呼ぶ。

「最初は……マキナ! お前からだ! 前に出ろ。」

私の名が呼ばれた瞬間、あちこちからクスクス笑いが聞こえる。

前の私は、火炎弾ファイボルトすらまともに発動出来なかったからの反応だろう。

とはいえ困ったな……

初級魔法の呪文を忘れている。他の生徒が詠唱するのを真似ようかと考えていたが仕方がない。


「どうしたんですの? マキナさん、後がつかえてましてよ?」

ジョリーナはそう言って楽しそうに笑う。


ああ……なるほど、こいつは私をさらし者にする気ね?

家の権力で教師に言うことを聞かせたのだろう。

ジョリーナを無視して前に出る。

反応がなかった事に鼻白んだ様だがすぐに笑顔になる。



「マキナー無理ならそう言えよー?」

「頑張ってね、マキナさん、クスクス。」

「あいつにやらせるのは時間の無駄だろ?」


などの声援を受け私は的を見やる。

軽く手を前に出す。その手の平に小さな火炎を生み出しながら。


「なにあれ? しょぼ!」

「あんなのじゃ小鬼ゴブリン一匹倒せないぜ!」


教師を見ればほとんどが目を見開きこちらを凝視している。 さすがに分かるか。

わたしが《《無詠唱》》で炎を生み出したことに。


そして、この火炎に凄まじい魔力が込められていることを。

私は無造作にその炎を放る。

その火炎弾ファイボルトは凄まじいスピードでジグザグの軌道を描き、的をすり抜け上へと…


「外した…?」

「なんだよ所詮しょせん落ちこぼれか!」


外野が五月蠅いが黙らせよう。

的の上空にいった火炎は空中に止まり四つに別れ的へと降り注ぐ。

的に当たった火炎弾ファイボルトは貫通し、的は一瞬で灰になって崩れ落ちた。


「ば、ばかな! あの的は、対魔法防御アンチマジックバリアで防御しているんだぞ!」

「そ、そんなことより! 彼女はさっき無詠唱で魔法を!?」


教師が興奮しているようだが、私はさっさと場所をあけて椅子に座る。

やれやれ、少々やりすぎたようだ。

私はうんざりしながらため息をついた。


ジョリーナが目を見開き顎が外れんばかりの変顔をしていたのは笑えた。


……笑わないが。



その後は、ほかの生徒が魔法を使うのを見ていたがどれもどっこいどっこいな低い技術レベルに退屈になってきた。


そうこうしている内に、ジョリーナの番になったようだ。

ステータスを覗いて見ると、このクラスでは最高レベルの15だった。魔力値も魔法がまともに使える人間が最低で20いるところを、彼女は45と二倍はある。

これと伯爵家というアドバンテージにより彼女の自尊心は肥大化していったのだろう。

……私の魔力値はカンストしているので全く脅威にもならないが。



白線の前に立ち、的を見つめ詠唱を始めるジョリーナ。

「大いなる魔力マナよ、我が手に集いて炎となり眼前の敵を打ち抜け!火炎弾ファイボルト!!』

生み出した火炎は他の生徒達よりも大きい物で他の生徒達が感嘆の声を上げている。


だが、なんとも無駄な魔力の使い方を……


ジョリーナの火炎弾ファイボルトが真っ直ぐ、芸のない動きで的に命中する。

あんな真っ直ぐな動きじゃ牽制にもならないわね。


ジョリーナは、生徒達の拍手を受けながらこちらを見やり自慢気に笑った。


「どうかしら? マキナさん。私の魔法は? あなたのよりも力強い火炎弾ファイボルトだったでしょう?」

「そうね……」


チラリと的を見るが、対魔法防御アンチマジックバリアで守られている為、焦げ後一つない。


「無駄な魔力の使い方をしてご苦労様、と言ったところかしら?」

私の答えにジョリーナが顔を引きつらせる。


「あんたっ! ジョリーナ様になんて口の聞き方を!」

取り巻きの……何だっけ?  忘れた。 の一人が食ってかかる。


「感想を聞かれたから答えただけだけど?」

「ジョリーナ様の魔法のどこに問題があるのよ!」


もう一人の取り巻き、やっぱり名前忘れた。 が聞いてきた。

めんどくさい……


とは言え皆も興味津々のようでこちらに耳をそばだてている。

私はため息一つつくと説明してやった。

「魔力の込めすぎ。 呪文を改編してないのに規定外の魔力を込めても無意味よ。だから定着せずに的に向かっている間に魔力が霧散して、通常の火炎弾ファイボルトと同じ威力になっている。 私が無意味といったのはそう言う事、わかった?」


ふう、久し振りに長々と喋って喉が痛いわ。



ジョリーナを見ると俯いてブルブル震えている。

やがて顔を上げ、こちらをキッと睨みつけると指差して叫ぶ。


「マキナさん! あなたに決闘デュエルを申し込みますわっ! こんな侮辱生まれて初めてよ!」

「いいけど。」


私があっさり決闘デュエルを受けたのが意外だったのかポカンと口を開けた間抜けな顔で見返してきた。


決闘デュエルはいつるの?」

おっと間違えた。


「……決闘デュエルは明日の放課後! 場所は鍛錬場よっ!」

そう言い捨ててジョリーナ達はきびすを返し去っていく。

まだ授業中のはずだけど……


実技室は、この突然振って湧いた決闘話にざわめきの声で満たされるのだった。


やれやれどうやらかなりクソッタレな事になりそうだ。


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