笑わない少女と勇者と道中にて……
6月24日(金)の投稿になります。
ちょっと短めです。
レシュトーラナ王国の王都へ向かう街道。
大国の威信を知らしめるために主要街道は見事に整備され、街道近辺へは王国騎士団による魔物の定期的な討伐は旅人の安全を保障する事だろう。
しかし、その安全を他国に知らしめている王国街道を行く多くの旅人や商人の姿は今はない。
いや、何人かいる。 それらは、街道の端に寄ってこちらを恐ろしそうに見ているのだった。
爆音を上げながらその整備された街道を走るのは、スタッドの街の冒険者ギルドより借り受けた高速馬車だった。
馬の全力疾走をはるかに超えるその速度に、そしてその巨大さに旅人達は恐れおののいた事だろう。
その手綱、ハンドルといったか? を握るのは、ギルド職員のデスデモーナだ。
彼女は普段の不機嫌そうな表情はなりを潜め満面の笑顔である。
そのデスデモーナは鼻歌まじりで朝からずっと運転し続けているんだが、休憩の必要はないのだろうか?
「そろそろ街道外れる。 用意する」
「へ? なんで街道を……ぐえっ!?」
デスデモーナの操縦により、整備された街道をいきなり外れる馬車。 そして不整地を通る事によって車体は大きく振動し、捕まっていなかったスバルは天井に頭をぶつけるのだった。
「こっちが近道。 街道通りだと寄る必要ない街に繋がってる」
本来は、野宿などを極力減らす工夫として近くの街へと道を伸ばしているのだろうけど、この馬車は中で寝れるほどの広さがある。
野営の準備に時間を取る必要がないのはかなりの利点ではある。
その時間を使い、出来るだけ距離を進めておきたいのだろう。
それにしても、今は揺れがひどいけれど普通の馬車とは比べるまでもないほどの快適さである。
通常の馬車ならこんな道もないような所をまともに走れないだろう。
そして暫く進んだ所でデスデモーナが馬車を停止させた。
窓から外を見れば日が暮れだしてきていた。
「ここで今日は休む」
行程としては三分の一まで進んだそうで、本当に三日で到着するつもりらしい。
「ぬおー! 腰がちっと痛い」
少し外に出てくる。と言い置いて、スバルは腰を押さえながら馬車の扉を開けて外へ出ていく。
私はそのスバルを見送ってから、なにやら寝る準備をいそいそと始めているデスデモーナに尋ねる。
「そういえば夜の見張りはどうするの?」
その手を止めてこちらに向き直り答えをくれる。
「別に必要ない。外で寝るんじゃなければ」
ある種の結界のような物でこの馬車は守られているようで、なまなかな魔物ではこの馬車を傷つけることすら難しいらしい。
この辺りはさきもいった通り、王国騎士によって魔物の定期的な間引きが行われている為数が少ない傾向にある。
もっともしばらくすれば突然現れたりするのが魔物の恐ろしさなのだが。
まあそういう事ならいいのかしらね……
一応警戒だけはしておくが。
「とりあえず周りは安全みたいだよ」
それからしばらくして外から帰って来たスバルは、どうやら周りの索敵をしていたようだ。
「ご苦労。ごはんの用意はよ」
「……え? 僕がやるの?」
スバルはそっと私の方に助けを求めるような視線を送るが。
「たのんだわね」
その言葉にスバルはがっくりと頭を下げ頷いた。
食材はデスデモーナが用意していたようで、それを使えとスバルに言っていた。
魔道具による簡易コンロを外に設置し、調理を始めるスバル。
「出来たよー」
程なくして、以外にまともな料理が出て来たことに驚きつつ夕食を食べ終わると、デスデモーナはさっさと布団に潜り込む。
「睡眠大事」
そう言い置いて直ぐに寝息を立て始める。
……呆れればいいのか、感心すればいいのか。
デスデモーナの寝顔を見ながらそんなことを考えてしまった。




