笑わない少女と勇者と王魔将……
6月21日(火)の投稿になります。
前回投稿を昨日加筆修正しております。昨日以前にごらんになった方はお手数ですが見直していただかないと話がわからなくなるかと思われます。
ほどなくして、銀ランクのキャラベラ達が構築した中継地まで帰り着き、合流した後街へ帰還した。
キャラベラ達はなにがあったのか聞きたがったが、ギルドに着いてからとアルベルに言われ、さらにランセルクがその背に背負ったゼオの遺体に目をやるとそれ以上何も言わず引き下がった。
無事街の門を潜り抜け、ようやくギルドにたどり着いた時、ギルド内は騒然としていた。
忙しなくギルド内を駆け回るギルド職員。 あのデスデモーナですらイヤそうにしかめっ面をしながらであったがあちこち駆け回っている。
酒場スペースにいた冒険者達は肩身が狭そうに酒を飲んでいたが、どうも依頼の受付が停止されているようだった。
「なにがあったんだ?」
アルベルがそう誰に言うとなく口にした後、しばらくその騒がしいギルド内を見ていると一人の男性職員がこちらに気付き声を掛けてくる。
「あ! アルベルさん戻られたんですか。ギルド長が戻ったら執務室まで来てくれと言っていましたよ」
そう言ってまた慌ただしく立ち去る。
「とりあえずいこう」
アルベルを先頭にして執務室へと向かう。
その際、ゼオの遺体を背負ったランセルクは別行動となった。
早くゼオを綺麗にしてやりたいのだそうだ。
ランセルクと別れ執務室の前まで到着する。
その扉をノックするとすぐさまベンソンの声で入室の許可があり中へ入る。
執務室の中は多数のギルド職員が詰めかけ書類を仕分けていたり、魔道具でどこかへ連絡したりしていた。
「よく帰って来た。 早速で悪いが報告してくれ」
ベンソンは疲労を色濃くのこした顔をこちらに向け報告を促した。
「ああ、実はな……」
報告を聞いたベンソンは、倒れこむように椅子に腰かけると深いため息を吐いた。
「そうか、ごくろうだったな。 ゼオについては残念だったが…… こっちも、君達が出たすぐ後に、各街のギルド間専用の念通信で驚くべき報告があったのだ。 それは、たった一体の魔物によってモルサル王国の首都ブレッサスが壊滅的被害を受けたというものだ」
たった一体の魔物に?
商業王国であるモルサルの首都ブレッサスは、そのありあまる財力によって分厚く強固な城壁が造られ、他国より要塞都市、難攻不落都市とも言われ恐れられる凄まじく防御の硬い都市だ。
そのブレッサスが落ちるというありえない事態に、皆が信じきれないでいるとベンソンは続けて話す。
「その魔物は、破砕猪の……同種食いだったそうだ。 自らを【戦車】と名乗る通常よりも巨大なものであったと生き残りからの報告だ」
破砕猪。 集団で行動する種で、体長はおよそ2メートルほど。 群れを討伐するとなると白銀ランク数人を含むレイドで挑む必要がある魔物だ。
その突進は凄まじく、普通の石壁程度なら容易く破壊することから破砕の名を付けられたほどだ。
しかし単体なら銀ランク数人で対処可能な知能の低い魔物でしかない。 それでも並みの冒険者では荷が重いのだが。
それが同種食いとはいえ単体で王都を滅ぼせるとなると……それに名乗ったとは。
それはつまり……
「そう、君達が出会ったという二体の知性を持つ同種食いと特徴が似ていると思わんかね?」
そのベンソンの問いにアルベルは頷く。
「ああ、似てやがるな」
その頷きを見てから再びベンソンが話し出す。
「ヤツは去り際にこう言葉を残したそうだ。 『聞け人の子よ。 我らは666の魔物を従えし王魔将なり! これよりのち遠くない日にて、我ら魔物の王を統べし王、すなわち魔王オージャ様が降臨なされる。 その祝い火のためにオージャ様が復活されるまでの間、人間の街を一つづつ滅ぼしていく。 恐怖するがいい』そう言って、いずこともなく消えていったそうだ」
あまりの事態に皆、声も出ないようだ。
突如現れブレッサスを滅ぼした同種食いに、魔王が復活?
私は横目でスバルを見る。
彼は何事か考えこんでいるようで下を向いている。
「魔王はともかく、強力な同種食いが、それも最低でも三体発見されたのだ。 これは由々しき事態だ。 そこで、ギルド緊急条例に則り銀以上の冒険者は、通常依頼の受注を停止し、ギルドの専用依頼のみを受けて貰う。 問題ないな?」
アルベルとキャラベラ達は否はなく頷いた。
ベンソンはその返答を受けた後、こちらに向き声を掛けてくる。
「マキナ君とスバル君はごくろうだった。 暫くゆっくりするといい」
そういってアルベルとキャラベラ達を残し退室を促した。
まあ仕方ないわね。
私に出来る事はもうないと執務室を後にしようとしたその時、スバルが決意した表情でベンソンの前に進み出た。
「ギルド長、僕も手伝わせてください」
真っすぐにベンソンの眼を見つめながら話すスバル。
「む、ありがたいが君はまだ鉄で……」
そう言うベンソンの言葉の途中で、スバルは手元を動かしステータスを他人に見えるように可視化した。
なにを……まさか!?
「なにかね? そんな物を見せられて……なんだと!?」
「こいつは! レベル500だと!? 」
「それよりここ見て! 職業のとこ剣聖いえ! 勇者って!?」
ベンソン、アルベル、キャラベラが次々とスバルのステータスを見て驚愕の声を上げる。
「どうですか? 少しは役に立てると思いますが?」
スバルの突然の行動に目まいすら覚え座り込みたくなったが、なんとか堪え睨みつけるくらいしかできないのであった。
理解不能の自信に満ち溢れている勇者の背中を……
無事退院できたので毎日更新がんばるぞ。