笑わない少女と勇者と同種食い……(修正加筆)
昨日緊急入院いたしまして更新出来ませんでした。
6月20日(月)
退院しましたので修正しました。
今日はこれのみとなります。
魔物。 神話時代よりも昔から存在する人類の天敵。
その生態は今だ謎に包まれている存在。
魔物は生殖行為によらず突然発生するという謎。
赤鬼熊の子供などのような幼生体がいる種もいるが、実は生殖によるものではないという。 そもそも妊娠している魔物を今だ発見出来ない。
普通の動物のように、妊娠時に違った行動を取る事がないため子連れを探すことも難しい。
そんな魔物の発生頻度は場所によってまちまちであるが、ある一定の数より増える事はないという説もある。
例外は存在する。 自然環境の変化または、他の魔物との縄張り争いに敗れ移動したり。
不思議なのはそういった移動が行われるとその移動した所にその魔物と同じ種が発生するのだ。
そして一番の謎。 なぜ人を襲うのか?
それは決して捕食の為に襲うのではない。
もちろん、人肉を好んで食べる種もいるがそういったものはごく稀である。
人を見ればその命を奪わんと襲い掛かる。 そこに理由は見いだせない。
人を襲い人に仇なす謎多き生物。
それが魔物である。
それでも魔物には一定の法則もある。
それは、どんなに飢えていても同種の肉は喰わないと言うものだ。
人間を含む動物の中には飢えていれば同種
を喰らう時がある。
それは生存本能の成せる技なのか……
しかし、魔物はそれをしない。
どんなに飢えていても、それこそ無理やり口に押し込んでもだ。
だが例外のない法則はない。
それが同種喰い。
自ら好んで同種の肉を食らうモノ。
それらは凄まじい力を持つ全く別の魔物としか言えないモノへと変化する。
今目の前にいる豚亜人王のように……
悠然とした態度で手にした剣を弄ぶ豚亜人王の同種食い。
しかし、その発する気は凄まじい力を感じる。
その気に押されてかアルベル達は足が竦んでいるようだ。
彼らは役に立たないわね。
スバルはと見やれば、彼はこちらを見てきた。
「マキナ、『終の太刀』はクールタイム……いや再使用に10分掛かる」
……なら使われる前に倒す!
『瞬動』で眼前まで移動し、そのまま槍スキル『刺突三連』を放つ。
並みの相手なら反応すら許さぬ攻撃はしかし、無造作に振り上げた同種食いの剣にて全て防がれる。
「ブレードガード!? あいつやっぱり剣聖の技を!」
スバルが私のスキルを防いだ同種食いの技を見て驚きの声を上げる。
防がれた衝撃に逆らわずその勢いを利用して後ろに飛びすさる。
ヤツは目線で追うだけで何もしてこない。
「今の感触、実にいい。 余の血がたぎってくるのを感じるぞ」
そう言うと下げていた剣を構え、剣を持たない左手で手招きをした。
「構わぬ二人掛かりで来るがいい」
頭に血がのぼるのを感じる。
たかが魔物ごときがっ!
スバルの用意が整うのも待たず駆け出す。
『瞬動』の有効距離まで詰め寄り発動する。
その背後へと! 狙いはその首筋だ。
取った!
必殺の間合い。 魔犬騎槍が大気を押しのけながら同種食いの首を噛みちぎらんと襲い掛かる。
しかし、その視覚外からの攻撃は容易く防がれる。
同種食いの剣によって。
「このお!」
スバルが私の攻撃を受け止めた隙を突き、盾剣を袈裟懸けに振り下ろすが同種食いは避けようともせずそのまま喰らう。
だが、その攻撃は同種食いにかすり傷を負わせることすらできなかった。
「イージスブレードじゃダメージ負わないってのか」
スバルはそう独りごちると一旦後ろに下がる。
「武装セレクトB セットアップ」
そう言った後スバルの体に光が集まり、その光がはじけた後には純白の鎧を纏い、大きく翼を広げたような意匠の剣を手にしていた。
「本気装備で行かせてもらう!」
そう言って構えるスバルに反応してどこか余裕だった同種食いも剣を構える。
「はあああああああ!!」
「ぬううううううう!!」
しばしのにらみ合いののち、どちらからともなく気合いの声を上げぶつかり合う。
黒き鋼と白き鎧。
二つのぶつかり合いはまるで嵐のよう。
これが本気のスバル……
私でも目で追うのがやっとの動きで森を駆け抜ける二人。
隙のない攻防、いやその隙すら攻撃のための罠なのだ。
同種食いが放った斬撃をスバルが受け止めたと思ったら、次の瞬間には後ろに回り込みスバルの背に左手の拳を叩きこもうと迫る。
しかしその攻撃に合わせるようにスバルのスキルが発動する。
「『旋風の太刀』だあああああ!」
風を纏いて振り向きざま救い上げるような斬撃はしかし、同種食いの頬をかすっただけであった。
「ほう、余の皮膚を切るとはなかなかの業物よな」
同種食いは斬られた頬をなで嬉しそうに嗤った。
「うそだろ、SSR級武器のフェザーオブグローリーでかすり傷とか硬すぎだろ」
スバルは驚愕の表情でつぶやく。
一旦仕切り直しとばかりにお互い距離をとる。
そして再びぶつかり合う。
剣が防がれれば拳で、拳が防がれれば蹴りで、お互い致命傷を負うことはないが多少の攻撃は喰らう程度。
そして、スバルの剣を防いだ同種食いの動きが一瞬止まる。
ここ!
『瞬動』ではなく、短距離転移によって左側面に転移した。
「その左腕もらった! 喰らいなさい魔……」
避ける事のできぬ隙を突いた攻撃はしかし、……
ギイイイイイイン!!
突如飛んできたナニカによって槍は弾かれた。
「なぁにやってるのー? 【剛力】」
声のした方を慌てて見ると、そこには漆黒の羽毛に包まれた鳥魔女が木々の間を羽ばたいて滞空していた。
鳥魔女、上半身は人間の女性で下半身は鳥のそれ、腕の代わりに翼を持つ魔物
ニタニタと笑う美しい顔には狂気に染まった金色の眼が輝いていた。
こいつも同種食い!?
「その気配……おぬし、【節制】だな?」
豚亜人王の同種食いはねめつけるようにその鳥魔女の同種食いを睨む。
「せぇーいかーい! ひっさしぶりだーねぇ【剛力】ギャハハハハハハ」
なにが面白いのか【節制】と呼ばれた同種食いはゲタゲタと笑う。
しかし【剛力】がその剣を【節制】に向けると、馬鹿笑いをやめ不思議そうに【剛力】を見る。
「あれあれー? なぁんであたしに剣を向けるのかなぁー?」
「【節制】よ、なぜ余達の戦いの邪魔をした?」
「いやいやー? だってピンチだったじゃーん?」
そう言って肩、にあたる羽を竦めて見せる【節制】
【剛力】はその言葉に苦虫を噛み潰したような表情を見せると剣を収めた。
「興がそれた。 熱く滾っていた余の血が冷めてきたわ」
「ならあたしがもらっ……うそうそーいりませんよー! だからその剣をこっちにむけないでー?」
【剛力】が素早く引き抜いた剣を【節制】に突き付けた。
【節制】は素早くその範囲から飛びのくと高く舞い上がる。
「どっちにしても早くしないと遅れるよー? みんな待ってるよー」
そういいながら目にも止まらぬ速度で飛び去って行く。
それを見送った【剛力】はこちらに向き直る。
「本来であれば、このまま街を潰すつもりであったが気分ではなくなった。 残念だが此度の戦いは分けとしておこう」
そう言い終えると背を向ける。
逃がすか!
そう思った次の瞬間、【剛力】の姿が掻き消えた。
……転移魔法? 違う、魔道具か。
強大なプレッシャーから解放されたせいか膝がガクガクする。それを叱咤しながら皆の無事を確認する。
【剛力】、それに【節制】。同時に2体の同種食い……しかもまだいるような口ぶりだった。
なにか私の想像もつかない事がこの世界で起きている。
それにはたぶん……
地面に座り込んでため息をついているスバルを見やり考える。
それにはスバルも関わっている。そんな気がする……