笑わない少女と勇者と死と……
6月13日(月)の投稿になります。
私は死ねない。 死ぬわけにはいかない。
私はあの迷宮で時戻しという力を得た。
それは単純に死から甦るという物ではなかった。
死んだのち、その力を手に入れた場所つまり、幸福毛玉を喰らった場所で復活する。
その時手にしていた装備品などは死んだ場所で落とす。
ストレージに仕舞っておいた物はそのままなのだが、そうそう死ぬ前にストレージに収納する事ができるはずがなく、幾つかの貴重なアイテムを無くしたものだ。
色々な理由から、この力はただ甦るのではなく死をなかった事にする力なのではないか。そう考えている。
迷宮内であった時はまだよかった。
攻略した階層まで戻るのは手間であったが、それくらいだ。
アイテムに関しては、災厄魔竜の時のような強敵相手の場合は装備をしないという手もある。
だが今は……
迷宮をクリアしてしまった今では問題がある。
あの迷宮を出る方法は二つある。
その一つは、最深部にいる災厄魔竜を倒す事。
緊急脱出装置の壊れたあの欠陥品の迷宮はそれ以外で生きて出る方法はなかったのだ。
ともあれ私は脱出できた。 それはいい。
しかし、その後は?
ここで私が死んであの迷宮内で復活したとしよう。
その時、災厄魔竜はいるのか?
もし復活していなければ、一度クリアした者の前に現れない仕様だとすれば……
もう一つ、あの迷宮からでる方法……それは死ぬこと。
そうすれば死体は迷宮からはじき出される。
この力が死がなかったことになると考えたのもそのせいだ。
私が外で死ねば迷宮で復活し、そして二度と出られない。
寿命であれば死ねるのか分からないが、何十年もあの迷宮で生きるなど考えたくもない。
私は死ねない。 死にたくない。
今、私を殺せる存在。
それは勇者、スバルくらいだろう。
レベル差を覆す攻撃は幾つかある。
防御力貫通攻撃。 これはどんなに防御力を高めていても無視される攻撃の事だ。
次に、継続ダメージを与え続ける攻撃。 猛毒であるとか、私の周りを灼熱に変える魔法であるとかだ。
そしてダメージによらない即死攻撃である。
即死攻撃、これが一番問題だ。
他の二つは一撃で死なない限り脱出できる可能性はある。
また、即死攻撃が魔法であるなら魔防抵抗出来れば無効化できる。
しかし、純粋に知覚外からの物理攻撃による即死攻撃。
これに対応するのは難しいだろう。
そして、そしてスバルの職である剣聖にはその即死攻撃のスキルがあるのだ。
剣聖奥義、『終の太刀』
もちろん見たことはない。が、人造勇者のシステムメニューにあるライブラリという項目内に各勇者のスキルが載っていたのだ。
そこに書かれていたのは、視認できぬほどの速度の斬撃による即死攻撃。
私は死ぬのが怖い。 私はスバルが怖い。
依頼を終えてギルドへ戻る。
やはりというか、鉄ランク依頼の魔物討伐によろポイント加算は多く、スバルのランクアップのポイントが規定値に達していたので、彼のランクは青銅に上がった。
「ごめんねマキナ。 色々迷惑かけて……」
うなだれて申し訳なさそうに謝ってくるスバル。
「別に、問題のない範囲内よ」
慰めともつかない言葉に彼はどう思うだろうか?
「次はがんばるよ!」
スバルはそう言って無理やり笑顔を浮かべる。
「……じゃあ宿に戻りましょう」
なにかフォローをするべきだったろうか?
分からない。
相手がどういう行動に出るか。 私の言葉にどう反応するのか。
私は彼が分からない。
彼の瞳は何と言っていいのか……そう、視線は前を向いているのにそこを見ていない。
どこか遠くを、物語を見ているような印象を受ける。
今日一日いて、そう思えた。
召喚されたばかりで現実だと認識できていないのだろうか?
私もあの迷宮へ落ちた当初はそうだった。
そうならば彼の気持ちを予想する事は出来るだろか。
なんにせよ敵対行動だけは避けなければ。
……慰めの言葉をかけるべきだったろか?
宿に向かう道すがらそんな事を思いながら進む。
どちらからとも声を発することなく宿に着き中へ入る。
明日も朝からギルドで依頼を受けることは決めていたので、そのままそれぞれの部屋へ戻る。
現状、私を殺しえる唯一の存在。
易々と強力な魔物を倒す事が出来る力を持つ者。
しかし、子供だからという理由でその力を振るうことをためらう面もある。
二律背反
私は彼が分からない。
分からないなら……
ーー コロセバイイノ? --