笑わない少女と勇者と歴史の話…… Side:スバル
6月10日(金)の投稿になります。
今回は、マキナの性格を掘り下げる目的の話です。
ほどなくしてマキナの泊まっている宿、『突進猪のあくび亭』へと到着した。
特に高級でもなく、おんぼろでもない何とも評価しずらい宿だった。
中に入り出迎えてくれたのは、これまた愛想をどこかへ落としてきたんじゃないかというようなおばちゃんだった。
彼女がここの女将らしい。
問題なく部屋を借りることが出来、(勿論マキナと相部屋ではない)僕の部屋でこの世界について教わることとなった。
「なにから教えましょうか?」
早速、マキナがそう聞いてきたので、まずはこの国のことを聞くことにした。
「分かったわ。 この国はレシュトーラナ王国といって、この大陸一の強国よ。」
「レシュトーラナ……ノースリーフじゃなくなったんだ」
と僕が呟くと、マキナは続けて教えてくれた。
「ノースリーフ、おおよそ100年前はその名前だったわ。 けどあなたの知識だと神話時代のはずよね? これはあの説が信憑性をもってきたわね」
「あの説?」
マキナは無表情に頷くと説明してくれる。
「神話時代が終わりを告げた後、新たに起こった文明があったの。 それが古代アル=レギルス文明よ。今まではアル=レギルスという一国が大陸を治めていたとされていたけど、神話時代にもノースリーフがかつてあった。 そして古代文明が滅んだ後にもノースリーフがあった。」
そこでマキナは自分の顎を一撫でした後、説明を続ける。
「これは、実は古代文明は多数の国家の集合体である説があってね? まあ同じ名前で復活したとかの可能性はあるけど、アルという古代語は多数の、という意味であるという説があるの……今は関係なかったわね。 忘れてちょうだい」
マキナはふと我に返ったのか、話を元に戻してきた。
正直、今までのマキナはどこか作り物めいた感じがしていた。 そうまるでNPCのような。
出会った人数は少ないけれど、今まであったどの人も感情が見え隠れしていたものだ。 この宿の女将でもだ。
しかし、マキナはまったく感情がないかの様に感じていた。 でも今はちゃんとした感情ある人間のような……
「聞いてるの?」
「ふぁい!? 聞いてる聞いてる!」
どうやらぼんやりとしていたようだ。 いけないいけない情報収集大事!
「続けるわよ? ノースリーフは100年前にレシュトーラナ王国に攻め滅ぼされた。まあ自業自得だったけど」
「自業自得?」
「ええ、ノースリーフは元々レシュトーラナの庇護を受けていたわ。 小国であったけど可もなく不可もなくと伝えられているわ。 でもある一人の王族が過ちを犯してしまった」
過ち……国一つ無くすほどの過ちとはいったい……
「歴史書や物語でも、他の国の戒めとして話は残ってるから聞く機会もあるでしょうけど」
そう言い置いてマキナ説明してくれる。
「それをしたのはこともあろうに王太子、つまり次代の王になる人物だった。 そしてなにをしたかというと…… 婚約破棄よ」
へっ? 婚約破棄?? それくらいで国一つ消えたの!?
「納得いかない顔ね? まあお互いがただの貴族であったならここまでの話にはならなかったでしょうね。 でも婚約者はレシュトーラナの公爵家の人間で、両国の結びつきを強める目的でノースリーフの方から打診したのよ」
おおう。 それはたしかにアレだなぁ。 でもそれで攻め滅ぼされるのはどうなの?
「そもそも王太子の理由が、真実の愛を見つけたから……だったらしいわ。お相手は平民の娘で学園で出会ったと伝えられているわね」
いわゆるシンデレラストーリーってやつだろうか? こういうの女の子は喜ぶんじゃないの?
マキナは凄く不機嫌そうだけど。
「この事件が起きるまではそういった話は人気あったらしいわね。 でも現実だとそんなことにはならない。 ならなかった」
マキナの話を要約すると、ノースリーフ側から婚約を打診して公爵家の令嬢との間に幼い時から正式ではないが婚約の約束だけしていたらしい。
しかしお互いがある程度の年齢になった時それは起きた。
王太子に好きな人が出来たのだ。 まあそれだけならまだよかった。 愛人という手もあるそうだし(うらやましい話だ)
話がややこしくなったのは令嬢にも思い人がいたことだ。 しかし、彼女は両国との結びつきを優先し、その思い人も令嬢に負担を掛けたくないと自害したらしい。 この時12歳くらいだったそうで……
そうやって思い人が自害してまで婚約を大事にしたのにも関わらず、相手の王太子は婚約を破棄した。 それも平民の娘のために。
なんとそれを告げたのは、婚約の正式発表の場だったらしい。 令嬢はその後自害したそうだ。 公衆の面前で辱めを受けたとして。
怒ったのはレシュトーラナ王国だろう。 その令嬢は公爵家、王の姪だったそうだ。 当時の王が一番かわいがっていたと伝えられている。
レシュトーラナ王国は宣戦布告をした。 しかし、殆ど戦闘は起きなかったそうだ。
なぜなら、この王太子の仕打ちにノースリーフの国民が呆れ、レシュトーラナ軍を招き入れたのだ。
もちろん貴族も同様だった。
しかし、いくら国との約束を破ったからって他国の軍を招き入れるものかね?
そう質問してみると呆れられた。 なぜ??
「いい? 考えても見なさい。 仮にも王族が、次代の王が国と国との約束を破り、自分の欲望を優先させたのよ? 今度はその欲望の矛先が自分達に向かないとどうして言えるの? 自分の欲望のために何百という人民の命を要求しないとどうして言えるの? そもそもレシュトーラナと戦争になれば、その命を要求したも同じだから間違いじゃないでしょう?」
う、確かに…… 国民にとったら自分の恋を優先して戦争を起こすような王はお断りだよなあ。
「その後は王や王太子、そして婚約者になった平民の娘を処刑して話は終わるわ。 流れた血はそれくらいで済んだのは奇跡よね」
その娘まで殺す必要があったのか疑問だけど、どうやら話によると婚約破棄を唆したのはその娘だと伝えられているそうだ。
死刑の間際、悪役がどうとかハッピーエンドルートがどうとか意味不明な事を喚いていたと書かれている本もあるとか……
うん? なんかそんな話聞いた事があるぞ?
まさかその娘、転生者とか? いやまさかね……
「まあそんな訳で、ノースリーフの愚を犯すな。とはどこの国の貴族、王族の間で言われているそうよ」
脱線しすぎたわね。 そう言ってマキナは頬を掻いた。
今のマキナならNPCには見えないな。
そんなことを考えながら再びマキナにこの世界の事を教わっていくのだった。
マキナは歴史好き。