笑わない少女と血盟兵器
6月30日(木)
編集作業に入りました。
大きな破砕の音に大慌てで飛び出してきた『バルバロイ・アックス』の面々。
本来は安全であるはずの砦内であったためだろう、全員盾以外の防具らしい道具をを装備していない。
「なんだっ? 敵襲!?」
「あ、あいつたしかマキナって女じゃ!?」
私に気付いた彼らは戦闘態勢に入る。
『ほう、なかなか素早い対応じゃねえか』
レベルも全員100超えばかりだしね。
八人いる内の六人は纏まってフォーメーションを組む。彼らは普段から同じパーティーなのだろう。
大楯を持った男が前衛二刀持ちがその背後に隠れるように位置取り、さらにその左右に二人が配置する。
魔法使いらしい二人はさらに後方。
フォーメーションを組まなかった残りの二人は、物理後衛職らしく近くの遮蔽物に身を潜ま弓を構える。
その動きを一瞬で終えた後、大楯を構えた盾役がそのままダッシュで突っ込んでくる。
それに合わせて魔法使いが詠唱破棄で魔法を撃ち込んでくる。
「追尾魔弾!」
ご丁寧に追尾能力付きのヤツとは。
ならば……
「追尾魔弾」
迎撃には同じ魔法で対応する。
しかし。
「『俊足』!」 魔法への対応の隙をついた盾職の男が、移動スキルでさらに加速しその持っている大楯を叩きつけてくる。
「おおおおっ!『盾強打』!!」
スキル使用による淡い発光に包まれた大楯が私に迫る。
その大楯を、私はたやすく斬り裂いた。
「は?」
ありえないことに呆然とする盾職を蹴り飛ばす。
『攻盾強打』で体勢を崩した所に畳掛けようとした攻撃職の足並みが動揺で乱れる。
間抜け面を晒している二刀流の剣闘士に、氷牙投槍をストレージから取り出し投げつける。
投槍が間抜け面の命を奪うのを見ることなく、もう一人の戦士の足を払い、地面に倒れた所で心臓に剣を突き入れる。
「くそがああああああっ!」
吹き飛ばされても倒れなかった大楯を失った盾職ともう一人が同時に向かってくる。
さらに物陰に隠れていた二人からの矢が迫る。
「対矢防壁」
飛び道具への絶対防御の魔法で矢をそらし、私の攻撃を受け止めようとした男の剣ごと切り伏せる。
「くそっ! 後衛っ援護どうした!?」
矢以外の攻撃がこない事に疑問を持ったリーダーだろう男が吠えるが、魔法で援護するはずの魔法使いの二人は返事をしない。
いえ、出来ないでしょうね。
その心臓に氷牙投槍を喰らって倒れた男達が返事出来ようはずがない。
「いっいつの間に!?」
当然、剣闘士に投げつけた時だけどね。
最大八本に複製を作れる氷牙投槍は便利な武器である。
絶え間なく矢の援護が飛んでくるが魔法で守られた防壁を抜けてくることはない。
敵を前にして背後を晒した三流の男の首をはね、物陰に潜んだ二人を遮蔽物ごと火炎弾で吹き飛ばす。
さて、残るはダイスとあと三人か。
ダイスがレベル210。 取り巻きも200近いレベルね。
『ほう、才能限界が300だからそこそこじゃねえか?』
カリヴァーンの言葉に頷きながら、私はその場を動かずダイス達を待つ。
しばらくすると砦の中から《《三人》》が姿を現す。
「……まさかうちが壊滅寸前とはな。それもたった一人にだ」
こちらを憎々し気に睨み付けるダイス。
強く噛みしめられた歯は今にも砕けそうだ。
ダイスはその鷹を思わせる目を閉じ、そして再び開いた時私に静かに問うた。
「……これで手打ちにしないか?」
突然の事実上降伏宣言に等しい事を言い出したダイスに取り巻き達が食って掛かる。
「盟主っ!? なんでそんなことを!」
「こんな銅ランクに我々がっ!?」
「その銅に追い詰められてんだよっ!」
そのダイスの一喝に言いよどむ取り巻き。
「どうだ?」
再び尋ねてくるが……
「お断りよ。第一あなたそんなつもりないでしょう?」
ダイスは最初、無表情だったが段々楽しくて堪らないというように笑いだした。
「クククッ! やはりばれてるか! まあいいやれっ!」
その掛け声と共に、砦の上部の張り出した部分に反応があった場所から巨大な弩砲が姿を現す。
なにかと思えば、弩砲とはいえ今の私には魔法による飛び道具に対する防御があ 『やべえっ嬢ちゃん避けろ!! あれは魔法防御無視の血盟兵器だぞ!』
なっ!? 私は短距離転移でダイスの側に転移しようとしたが……
魔法が発動しないっ!?
私に向かって金属製の矢が迫る中カリヴァーンの言った説明を思い出す。
この砦は神話時代の遺跡だから転移系魔法は使えねえぞ、と……