笑わない少女と拠点攻め
6月30日(木)
編集作業に入りました。
浮遊感となにかに弾かれる感覚を感じた後、私は自分の部屋に転移していた。
普段と変わらない自室の風景の中私は眉を顰める。
なぜ? 私はたしかに『バルバロイ・アックス』の拠点に転移したはず……
そこに再びカリヴァーンが現れその口を開く。
『こいつは……おい、たしかシステムメニュー使えたよな? それでバックログ見てみろ』
バックログ? システムメニューは人造勇者の能力にあるけれど。
『あーわかんないか。取りあえずメニューを開け』
カリヴァーンの言葉に従いメニューを開く。
そこには、半透明の板のようなものが浮かび文字が並んでいる。
丁度鑑定スキルを使ったときに似ている。
メニューには
ステータス▼
アイテム▼
スキル▼
パーティー▼
マップ▼
コミュニケーション▼
コンフィグ▼
とあった。
これは知っていることだ。
『そこじゃない。デフォだと……左下か? そこに別のチャットって書いてるウィンドウがあるだろ?』
そういえばたしかにメニューを開いた時に見えていたわね。
私の側にいる声が文字で表示されるよくわからない機能で気には留めていたが……
『そこのチャット欄にあるシステムメッセージって頭に付いてる文字を見てみな?』
そう言われてそのチャットウィンドウの所を注目してみた。
ある意味耳障りなカリヴァーンよりも腹の立つクソッタレな天の声と同じ名前であるシステムメッセージの文字を探す。
……あった。
そこに書かれていた文字は。
システムメッセージ:転移で移動出来ない領域です。
システムメッセージ:登録してあるホームへ転送します。
とあった。
これは?
『たぶんそいつらの拠点は神話時代の建造物を使ってんだろ。嬢ちゃんの転移で移動出来ないのもそのせいだ』
なんでも神話時代の重要な施設には転移不可の機能があったらしい。
おおよその街にその機能があるらしいが。
しかし『バルバロイ・アックス』の拠点は街の外にあるはず。
『だからたぶん元々血盟拠点だったんじゃねえの?』
それは、困ったわね。
転移出来ないとなると普通に乗り込むしかないのか。
「そう言えば、私は王都内は転移出来るけど?」
私は浮かんだ疑問をぶつけてみた。
『ああ、そろそろ出来なくなると思うぜ? アレを起動させるんだろ?』
……なるほどね。
これは計算外だわ。 そしてどうやら血盟拠点は専用のアレが独立して存在しているらしい。
アレとは、神話時代。 カリヴァーンが言うにはエクス・エンド・オンラインと呼ばれる時代があったそうだ。
『まあ時間軸的には繋がってないがな』
そうカリヴァーンは誰に言うでもなく呟く。
神話時代には聖霊炉と呼ばれる高エネルギーを供給する物があった。
古代アル=レギルス時代はそれを解析し再利用して繁栄をしていたという。
イスハーン大陸にある古代文明時代の遺跡を利用した王都、もしくは大都市にはこの聖霊炉でエネルギーを得ている所もある。
とはいえその数は非常に少ないのだが。
そして、ここストレイナ王国の王都であるストレガにある聖霊炉は稼働していない。私はジョリーナへの復讐のためにそれを起動させようとしている……
いえ起動させるのは私じゃないわね。
それよりも『バルバロイ・アックス』の拠点へは近場までは転移可能だそうだから後は歩きかしらね。
私はめんどくささを感じながらも『バルバロイ・アックス』の血盟拠点がある街から少し離れた場所ににある小さな砦の見える丘へ転移した。
私が今いる丘から砦へは目視で1キロ程度。
周りを岩場で囲まれたその砦は三百人収容可能なほどの大規模な拠点だそうだ。
そういえば砦内で魔法は使えるのかしら?
私はその疑問を相変わらずストレージに引っ込まないカリヴァーンに尋ねる。
『ああ転移系以外なら使えるぞ。 嬢ちゃんは今、血盟戦中だろ?』
なら問題は無しか。
そうとなれば少し派手にやりましょうか。
砦まで300メートルほどまで接近して目標である砦の門を視認する。
魔法補助スキル、二重詠唱を詠唱破棄で発動させる。
その魔法は……
古代文明時代でも攻城戦にて使用されたという大規模破砕魔法。
「時空歪之悪夢」
私の発した起動単語に従い魔法は発動した。
大気に含まれる膨大な魔素が、破壊そのものの力へと私の魔力を介して変換されていく。
それは目標である門を閉ざす大扉を起点にして、光の暴風となって荒れ狂う。
変換された魔素が時空を歪め、最初は軋む音を上げそして段々とその破壊の音は大きくなり、遂には凄まじい音を立てて大扉が破壊されていく。
しかも、大扉以外には一切傷付ける事なく。
吹き飛んだ破片もすりつぶされるように徐々に消えていった。
後に残るのは、一見しただけでは扉が開いている様に見える大門。
突然の大きな破壊の音に、にわかに騒がしくなる砦の中。
大門を潜りその砦の内部へと足を踏み入れながら、慌てて飛び出してきた『バルバロイ・アックス』の血盟員を睥睨する。
その数八人。
ダイスは……たぶん幹部であろう連中と共に砦の奥から動いてない。
おそらくは、装備を整えているのだろう。
ならば、まずはこいつらから始末しましょう。
さあ、私の復讐の前座を務めてもらうわ。