笑わない少女と殲滅戦
6月30日(木)
編集作業に入りました。
闇夜に走る一閃。
それが、その場にいた『バルバロイ・アックス』血盟員の首を切り落とす。
驚愕の表情のままのその首が地面に落ちる時、すでに私はいない。
深夜の森。そこに4人の冒険者の死体が崩れ落ちていた。
一週間ぶりに冒険者ギルドの扉を潜る。
私を見たギルドにたむろしていた冒険者がざわめく。
皆『バルバロイ・アックス』との血盟戦のことは知っているだろうから。
大規模血盟に狙われている私が平然とギルドに顔を見せる。
当然騒ぎになるだろう。
私は真っすぐセナさんの所へ。
「マキナさん、どうしました? 血盟戦の仲裁なら専門の係員が対応いたしますが……」
それには答えず討伐部位の豚亜人の左耳をカウンターに置く。
常駐依頼なら依頼を受けていなくても討伐部位を提出するだけでもよかったはずだ。
「これは……豚亜人の左耳ですね。と、討伐に街から出ていたんですかっ!?」
セナさんが引きつった顔でそう言ったので頷いてやる。
「豚亜人の討伐依頼は鉄ランク相当なんですが……いえ、常駐依頼なので問題はないんですが。あの」
と、そこまで言って声を潜める。
「『バルバロイ・アックス』の血盟員とは会わなかったんですか?」
「会ったわよ? と言うより始末したけどそっちも問題無いわよね?」
そう言えばセナさんは絶句していた。
その後セナさんは動揺しつつも終了処理を終えたのでカウンターから離れる。
その後掲示板へ向かい、これ見よがしに小鬼の討伐依頼書を引きはがし再びカウンターへ。
セナさんの方は人が並んでいたので今度は別のカウンターで受注処理をする。
その受付嬢はあまり関わりを持ちたくないのか言葉少な目な対応だった。
まあそっちのほうが楽でいいのだけど。
昨日、深夜まで粘って出てくるのを待っていたけれどあれは失敗だったわね。
今回はもう少し分かりやすく餌をまきましょうか。
私は尾行してくる彼らを引きつれながら街を出る。
街から出る間に念通話で連絡を取ったのだろう。その人数は20人以上いるわね。
そしらぬ顔で森の奥まで入る。
ふむ、10人ほど前に回り込んだみたいね。
『よう。どうやら俺様の出番らしいな?』
ふいに鉄屑の声がする。
こいつまた勝手に……
何時の間にやら腰にぶら下がったカリヴァーンが呑気に鼻歌を歌っている。
鼻歌を歌う伝説の知性武装ねぇ。
私はあきれながら足を進める。
やがて。
『お! 仕掛けるようだぜ?』
包囲網が完成したのだろう。一斉にこちらに向かってくる。
私はストレージから魔犬騎槍を取り出す。
『ヤイヤイ! 俺様がいるのにその駄犬を使おうとするとは何事だっ!』
私はあきれながらも鉄屑に答えてやる。
「忘れているようだけど、私に剣スキルは無いのよ?」
『んなもん俺様を持ってればスキルなんざいらんだろうに』
たしかに、カリヴァーンを持つと剣スキルが追加される。
私のようなスキル無しでも達人クラスになるほどの。
まあ、森の中で騎兵槍は使いにくいのはたしかね。
魔犬騎槍を仕舞いカリヴァーンを鞘から抜き放つ。
そして時間差で畳み掛けるように襲い掛かる血盟員達。
最初に四人一組で襲い掛かってきたので、一人をかわしその影から攻撃してこようとしたヤツを先に斬りり捨てる。
「ちいっ!」
最初の男は慌てて振り向いたがすでにそこに私はおらず、二人目を斬った所でこっちに向かってくる。
三人目を向かってくる男に向かって蹴りつけ二人が纏めて倒れ込んだ所で。
「衝撃真空波!」
剣技スキルによる真空の斬撃を飛ばし二人を始末する。
新たに現れた四人が襲い掛かると同時に後方にいた魔法使いが魔法を唱える。
「「「氷結飛槍!!」」」
三人の術士による多重連結詠唱によって増幅、強化された氷の槍が私に襲い掛かってくる前衛達に先んじて到達する。
しかしそこに私はいないわ。
「ぎゃっ!?」 「ぐわあ!」 「おぐう」
短距離転移で術士の側に転移して手早く片づける。
「やろう! いつの間に背後に!?」
『なあおい。なんでこんなメンドイことやってんだ? さっさとやっちまえよ!』
耳障りな声でうるさくわめきたてるカリヴァーンにうんざりする。
もう少し対人戦をやっておきたかったのだけどね。
とはいえこのレベル相手にしても無駄か。
「カリヴァーン。深紅形態」
『お! やる気になったか!! よっしゃ深紅形態』
私の声に反応してカリヴァーンがその姿を変える。
刀身が真ん中から開く。そしてそこに赤い魔素の光が灯る。
『深紅形態・技能解放』
残りの数は……十四人。
「絶剣技・血薔薇剣舞」
呟くような私の声にカリヴァーンの刀身が霧のようにかすれて消える。
そして……
私の知覚した十四人の上下から水晶のような赤く半透明な刃が彼らの体を無慈悲に切り刻む。
彼らは断末魔の叫びも上げれぬままその身体は赤い水晶へと変わり、カリヴァーンに吸い込まれる。
『げっぷ……あ、いかんあの駄犬みたいなげっぷしちまったい!』
静かになった森の中、馬鹿なことを言うカリヴァーンをストレージに仕舞う。
さて残るはダイスと取り巻きが数人ね。
終わりにしましょうか。
私は監視魔眼で調べた彼らの拠点へ転移するのだった。