笑わない少女と古代遺跡
6月30日(木)
編集作業に入りました。
古代アル=レギルス文明。
かつてこのイスハーン大陸を支配していた王国の名前である。
そもそもは大陸に数ある小国の内の一つでしかなかったレギルス王国が前身とされ、女神ル・シャラが大陸を魔王オージャごと封印した事件から神によらずに生きる道を模索し、そしてそれは成った。
彼らは様々な文化、技術で繁栄した。
復活した魔王すら倒して……
しかし繁栄は永遠とはならなかった。
その文明の最後は諸説あり歴史学者によって様々であるが、一番支持を得ているのは魔王の呪い説であろうか?
魔王が倒される際に残した言葉が呪いとなってアル=レギルス文明を滅ぼした。
数多い絵本や英雄の物語に書かれている。
次に多いのは天変地異による災害だ。
これは災害があったであろう傷跡が見られる土地があることから学者連中には好評である。
私はこの説には懐疑的だ。
なぜなら、残された遺跡にはその災害の爪痕が少ないからだ。
災害に対しての対策を行った形跡すらない。
災害説が主流にならない理由もそれである。
そもそも魔王を倒せるほどの文明が、災害に対して何もしていない筈がない。
私が知っているアル=レギルス文明が災害程度押さえつけられないというのは想像出来ない。
時間すら操れるのだから。
私は彼等が自ら消えたのではないかと思っている。
遺跡が経年劣化以外での破損が少ないというのが理由の一つだ。
だが、その理由までは想像出来ないのだが……
もう一つ私が理由に上げているのは、まだ機能が生きている遺跡かあるためだ。
その一つがここにある……
「ここがコントロールルームね……」
学園の最深部。多分何百年規模で人の立ち入りがなかったであろう場所。
この魔法学園、というよりこのストレイナ王国の王都ストレガは古代アル=レギルス王国の遺跡を利用して作られた街だ。
本来の街の中心がここの学園であったとも言われる。
なぜか? それは……
私はコンソールに手をやり魔力を流す。
すると休眠していた機関に火が入り真っ暗だった部屋が明るくなる。
『おはよう御座います。こちらはNo.1523468 都市管理型システム。開発コードはC1688 指示をどうぞ』
この声が、機関の管理人工妖精と呼ばれる存在。それが今、目覚めた。
どこか硬質的なその声は、私の指示を待ち待機している。
私は知らず止めていた呼吸を再びするために、そっと息を吐き出す。
そして、目覚めたばかりの管理人工妖精に指示を幾つか出す為に口を開いた。
この舞台の最大の仕掛けのための……
明るくなったコントロールルーム内に浮かび上がるモニターに幾つのも映像が映る。
街の各所のある監視魔眼の映像をコントロールルームのモニターで見ながら『バルバロイ・アックス』の面々の動きを見る。
ここで、冒険者ランクについて話そう。
現在、私のランクは銅であり、これは冒険者ランク最下位のランクである。
一般的にはルーキーとか、駆け出しと言われるランクだ。
銅のレベル帯としては、1~10レベルぐらいが多いだろう。
魔物の脅威度としてはFランク、これは一角兎などの積極的に人を襲わない魔物なら一人で倒せるくらい。
とはいえ、ほとんどは街中のトラブル解消のための依頼や、街の周りの薬草採取依頼がほとんどで討伐依頼は少ない。
私が受けた小鬼討伐依頼も小鬼の脅威度はFである、しかし小鬼は群れで行動する魔物であるため、時には脅威度が一段階から二段階上がる場合もある。
次に冒険者とまともに名乗れると言われるのが青銅ランクである。
レベル帯としては10~30くらいか。
ここから討伐依頼が増えていく。
集団の小鬼討伐や、単独の豚亜人の討伐などの脅威度E~Dランクの魔物討伐依頼や、それらの生息地にある薬草採取などが主になる。
鉄ランクになるには少し条件がある。
まずレベルが30以上であること、青銅ランクの討伐と採取依頼を各50ずつ達成していること、そしてギルドの試験に合格すること。
鉄ランクは一つの目安なのだ。
一人前と呼ばれるのもここからだ。
本当に実力がなければ鉄に上がれない……とはギルドの見解だが、まあ裏技はあるのだが……
その上が銀ランク。
レベル50以上が条件で、他にも一人以上の金ランクの冒険者の推薦もしくは三人以上の銀ランク冒険者の推薦があってギルドの昇格試験が受けれる。
金ランク。
レベルは70以上、白銀ランクの冒険者の推薦と、大都市のギルドマスターの推薦がなければ昇格出来ない。
ミダイもこの金ランクだった。
大体このランクから血盟を立ち上げる場合が多い。
また、国の引き抜きで冒険者を引退し騎士となったりするのも多いランクでもある。
つまりここから上のランクにいる人間は冒険者生活が合っているか、国に対して思う所があるか、後ろ暗い所があるか、もしくはよっぽどの阿呆かだ。
さてその阿呆のランク、白銀ランクは、レベルか100を超えていること、飛竜クラスの竜種などのAランク脅威度の魔物の討伐を達成していること。この場合、単独である必要はない。
さらには、白銀ランク3人か、魔銀ランク一人もしくは二人の王族の推薦が条件になる。
白銀ランクは国が10人かかえていれば各国に睨みを効かせることが可能となるレベルだ。
最後に現在において最上位ランクの魔銀ランク。
希少金属である魔銀の名を冠した者はイスハーン大陸に10人いるかどうか。
まず魔銀になるためには国王の推薦がいる。
大抵はその前に仕官なりしているのが現状だ。
そして何よりレベルが200以上である事。人間種の才能限界が300であることを考えるとまさに魔銀になるには努力だけでは足りないナニカがいるのだろう……
あれから5日ほど経っているから、かなりだらけているようだ。
少なくとも青銅ランク以下の連中は……
モニターに映る彼らの姿を見ながらそろそろ動くことを決めた。
私は管理人工妖精に残りの指示を出す。
『指示を確認しました。 これよりNo.1523468 は、指示を実行に移します。 他の指示はありますか? なければ終了いたします』
後は……取り合えずないので終了させましょうか。
『了解しました。 それではNo.1523468 都市管理型システムは待機モードに移行します。 ご利用ありがとうございました』
さて、この仕掛けが上手く嵌まれば面白くなりそうね……
私はコントロールルームの明かりを落としてから転移で自室へと移動するのだった。