笑わない少女と血盟
6月30日(木)
編集作業に入りました。
冒険者の実力を図る為の指標として、ギルドランクと言うものがある。
最下級から、銅、青銅、鉄、銀、金、白銀、そして魔銀である。
これは探索者ギルドと合併した際に、探索者ギルドの階級を採用した物だそうだ。
これはギルドカードの素材にも使われ一目でランクが分かるようになっている。
ランクが高い者は低い者を守り導く。
徒弟制度に従えばそうなる訳であるが、ギルドに加入しているとはいえ元々は、ならず者崩れが殆どである冒険者はお世辞にもお上品とは言えない。
貴族の次男三男あたりが家を継げず、冒険者となって名声を求める例もあるが殆どは職にあぶれた喰い積め者である。
酒と女そして金。
彼らは大体それで動いている。
昨今の冒険者の質の低下にギルドは躍起になって組織改革などを急いでいるようだが、あまり芳しくないようだ。
「冒険者同士の諍いにはギルドは不干渉……でよかったわよね?」
私に絡んできた酔っ払い共を床に沈めながら職員に尋ねる。
尋ねた職員……まあセナさんなのだが、は慌ててこちらにやってくる。
「マ、マキナさん。ギルド内は私闘禁止ですっ!」
「突っかかってきたのは向こうよ?」
そう言って肩をすくめて見せるが、セナさんは表情を曇らせたままだ。
「おい、あれ鉄ランクのバレドロじゃないか?」
「酔ってたとはいえ一瞬かよ!」
「でもあいつら確か……」
にわかに騒がしくなったギルド内。
セナさんは、私をギルドの隅に引っ張っていくと声を潜めて忠告してくれる。
「今マキナさんが倒した人達、あれはこの王都でも有名な血盟、『バルバロイ・アックス』のメンバーなんですよ!」
なんでも『バルバロイ・アックス』とは白銀ランク冒険者、フィオス・ダイスが血盟主を勤める血盟だそうだ。他にも高ランク冒険者を抱えた王都でも大規模の血盟らしい。その人数は百人を超えるとか。
さらに聞いてみると、あのミダイも所属していたらしい。
……めんどくさい事になったかもしれないが、まあ仕方がないわ。
「仕方がないって……」
セナさんは呆れたようだが、特に問題はないだろう。
対人戦の経験を積めると思えばいいのだから。
これはセナさんには言わないけどね。
他のギルド職員が酔っ払い共を片付けたようで掲示板の前は人がいなくなった。
私は、セナさんに軽く手を振りながら改めて掲示板へいき、依頼を物色する。
「もうどうなっても知りませんからね!」
と言い捨ててセナさんはカウンターへ戻っていく。
さてなにかないか……
飢餓狼の討伐。
一角兎の討伐。
薬草採取。
銅ランクの依頼は大した物がないようだ。
……小鬼の討伐か。 迷宮には《《人型》》の魔物は居なかったので試しに受けてみるのもいいかもね。
私は、依頼書を剥がし、セナさんの元へ。
「小鬼討伐ですか……これは10匹討伐になります。まあマキナさんの実力なら大丈夫そうですが、気をつけてください。 実はこの討伐依頼にある森何ですが、最近、豚亜人の目撃情報もあります」
「もし討伐した場合の報酬は?」
「豚亜人ですよ? 鉄が数人掛かりで討伐する魔物なんですよ!」
と言われたが、基本討伐依頼は討伐部位を持ち帰れば報酬は出るらしい。
私はセナさんに礼を言いギルドを後にする。
小鬼のいる森は東門のすぐ側だそうなので向かうことにする。
……レベル71と、53が二人か。
気配を消して後を付けてくるのを確認しつつ、門をくぐる。
少しは楽しめればいいのだけれど。
血盟とはなにか?
冒険者が依頼を達成するのに最適とされる人数は6人が良いとされる。
これをパーティーという。
なぜ6人か? これは、迷宮内や戦闘での行動のし易さ、連携の取り易さであったり、報酬の分配の問題もある為だ。
そして、6人では戦力が足りない強力な魔物などと戦闘する場合は最大で4パーティーが組んで行うチームとなる。
パーティーもそうだが、チームは何時も同じメンバーという訳ではない。
まれに固定で行動するチームもあるようだが、チームを纏めるには適切な能力を持ったリーダーが必要となる。
そして、普段からチームを組むほどの脅威はあまり存在しないのが現状だ。
メンバーが集まらない時もあるだろう。
そんな面倒を解消する為にギルドが設立したのが血盟システムだ。
これは血盟主の元、最大300人規模で登録出来る巨大なチームとも言える。
古代文明の技術である血判状により強固な絆で結ばれる事により結束するシステム。
血判状に血を与えることで、血盟員内で連絡が取れる様になる念通話や居場所を確認出来る物など恩恵は様々だ。
他にも、底レベルの者は高レベルの者に指導して貰いやすいという事もある。
勿論資金面でもだ。
高レベルの血盟ならば、血盟補助魔法が掛かるものもある。
さて、血盟『バルバロイ・アックス』はどうだろう……
森に入って暫くして、漸く二匹の小鬼を見つけた。
森に入った時にストレージから出しておいた、刃の部分が青く透き通る氷のような槍。氷牙投槍を構えた。
現在の装備は、この槍にレザーアーマーの軽装備である。もちろんレザーアーマーは魔法の付与された物であるが。
射程距離に不用意に入った獲物に無造作とも言える動きで三つに別れた槍を前後に《《同時》》に投げる。
前の小鬼二匹は頭を穿たれ絶命する。
後ろの間抜け一人は胸を貫きこちらも絶命だろう。
残った間抜けな男はなにが起きたか理解出来ず、腰が抜けたのか地面にへたり込んでいた。
まあ索敵の範囲ギリギリで様子を見ていたようだからまさかこちらの攻撃が届くとは思わなかったのでしょうね。
この氷牙投槍は攻撃力はそこそこだが、最大八本まで分裂させる事が出来るため、重宝している。
さて……
「えっ? な、お、お前! お前こんな事をしてどうなると思ってんだっ!」
漸く正気に戻ったのか腰が抜けたままでこちらに怒鳴りつけてくるクソッタレな男に槍を突きつけてやる。
「やっ、ぐっ!?」
どうやら言わなくても分かってくれたらしい。
静かになった男に質問してみる。
「あなたは、『バルバロイアックス』のメンバーよね?」
「そうだ! こんな事をしてただで済むと思うなよ! 血盟戦だっ! 昼も夜も眠れると思うなよ!」
またうるさくなった男を、軽く石突きで殴りつけ大人しくなった所でさらに問いかける。
「血盟員なら念通話のペンダントは持っているわね?」
私の問いに渋々頷く男。
「なら血盟主に伝えなさい。『バルバロイアックス』は一人残らず殺してあげると」
男は何か言いかけたが、首に掛けたペンダントを握りしめ通話を始める。
そして暫くしてこちらを睨み付けて啖呵を切った。
「お仕舞いだ! てめえは死ぬより辛い目に会わせてやる!」
そう言った後小狡く笑いながら。
「だがまあ俺も鬼じゃねえ、俺を生かしてくれるならリーダーに口添えしてやっ ドス がふっ!?」
言い切る前に男の心臓を突いて黙らせる。
「一人残らずって言ったわよね?」
すでに声は通じていないだろう男の亡骸に向かいそう言うと踵を返す。
さて、百人規模の血盟などたとえ血盟主が白銀だとはいえ維持できる資金などある訳がない。
ならどうやって?
それはミダイが答えを持っていた。
そう貴族のお抱えだ。
ジョリーナの家、コンティナ伯爵家がパトロンとして付いているのだろう。
まずは、その兵力の一部を潰させて貰うわ。
私は討伐依頼である小鬼を道すがら倒しながら街へと足を向けた。