表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/26

天然は罪なり。

「まぁ、おちつくんだハナ嬢。

この肉饅頭でも食べて気を落ち着かせるといい。」



叫んだハナなどどこ吹く風。

淡々とリロイに肉饅頭を進められ、ハナはなんだか気が抜けてガストの脛を蹴りまくるのを止めて向かいに座り大人しく食べ始めた。

一口かぶりつくと細切れにした肉と野菜がじゅわり肉汁とともに口に広がる。

リロイ同様仕事が忙しく昼を食べ損ねたハナの五臓六腑に染み渡る美味しさ。

記憶持ち転生者のハナが考案した肉まんはいつのまにか高級小籠包にまで進化していた。

無言でひたすらはむはむ食べる。

汁が垂れないように食べるハナは気付かないが、その様子はリスがどんぐりを食べる様子にそっくりで大変可愛らしく、人知れず皆の心を癒していた。



「リロイ、荒ぶるお嬢を鎮めるとは流石だな!

女兄弟がいるとやっぱり違うもんだな。」



ガストが感心して言うとリロイは串焼きを飲み込んだのち答えた。



「女の人がカリカリしたらとりあえず美味しいものを出すと落ち着くと姉上が言ってたからな!

肉饅頭の力は偉大だな。」


「うん、リロイ。

お前ちょっと勘違いしてると思うぞ。

普通な、イライラしたご令嬢に肉饅頭渡したら更に荒れるぞ。

これはお嬢だから通用したんだ。

お前のお姉さまはリロイが思う美味しいものじゃなくてお菓子とかちょっとした甘いものの事を言ってるんだと思うぞ。

というかな、リロイ…お前婚約者の一人や恋人の一人でもいてもおかしくない年齢と身分なんだから女に贈るモノが食べ物一択ってどうなの?」


「姉上や姪は喜ぶぞ?」


「お前!妹居ただろう!顔だけは美少女の!

何やってるんだよ、贈り物とか!」


「妹はこれじゃないと嫌だと毎回注文をつけてくるからな。

全部ゼベットに任せてる。だからよく分からないな。」


「まさかの従者任せ!」



ガストは嘆いたものの、しかし納得した。

リロイの従者は主以外基本慇懃無礼な感じではあるが、物凄く有能なのだ。

主第一!のゼベットが甘やかすからリロイはこんな感じで変なところで箱入りなのだろう。



「リロイ様は食べ物や指定されたものではないモノを身内以外で女性に贈ったことはありませんの?」



ハナの隣で揚げ物を食べていたヘレナがたずねた。

前々から思っていたがリロイはシスコンっぷりもすごいが、なかなかの天然だと思いながら。



「え?

ああ、この前エレクトラ嬢にミニ薔薇を贈ったな。」



ブグホッ!!!!

ガストが盛大にむせた。

自分で育てた花かウォルクラウン領のミニ薔薇をプロポーズする時に贈ると幸せになれるというジンクスが軍部や武道科に伝わっているからだ。

大々的ではないがそこそこ有名な話で、情報通のエレクトラが知らない訳ではないだろう。


エレクトラを見やれば、やや頬が赤い。

それもすぐ消え去るが、リロイ以外はもしや…と思いあたった。



「今年も綺麗に咲いたとの報告と献上の名目で姉上に会いに来た領民に分けてもらったんだ。

ゼベットがお世話になっているお礼にどうかと言っていたし。

花を贈られると嬉しいものよって姉上も言っていたから。」



リロイは微笑んで言葉を続けた。



「エレクトラ嬢、いつもありがとう。

貴女が手伝ってくれなければ今のような協力体制は得られなかっただろう。」



「…っ、と当然の事をしたまでですわ!

それにリロイ様がたくさん働き努力を惜しまなかったから今があるのですわ。」



頬が赤くなるのを必死に堪えようとしながらエレクトラは精一杯平静を取り繕った。

本人は無自覚の行動や言葉は酷くエレクトラを動揺させた。

王太子の婚約者でなくなった今、優良物件である公爵家の娘の自分が婚姻を結ばない事は許されない。もし嫁ぐならば自分がしたいことをやらせてくれそうな、そして御しやすそうなリロイを選びたいとの打算はあった。

だがそれを上回る居心地の良さや暖かなものがリロイの隣に居ると感じられるのだ。

思惑を、言葉の裏を、一歩先を、その後の結果を…色々なものを考え行動し、言葉にしなければならなかった以前の自分。

后にしかなれないであろう未来の為、王太子以外を見ないように、目隠しをして愛したのは自分の心を守るためでもあったのだろう。

それが無くなった事で、自由になった心にリロイの優しさは猛毒であった。

打算なのか恋なのかフラフラと揺れ動く天秤のような心。



『貴女が力になってくれる事がどんなに助かっているか分からないな…本当にありがとう。』



そんな時言われた何気ない言葉にぐらりと天秤は傾いてもう動くことは無かった。

王太子にそんなことは言われたことは無かったし、

周りも流石とは言うが、ある意味出来て当然だという態度だったのだ。


恋に落ちるきっかけなんて本当に些細な事。


自覚したエレクトラに贈られた薔薇の衝撃は言葉に言い表せない。

リロイは無自覚かつ意味を知らずに渡してくれたのはよく分かっているが、それでドキドキが治まるはずもない。



「皆にも感謝している、ありがとう。

お礼をしたいんだが皆も…」



『美味しい菓子でお願いします!』



皆も花がいいのか?と言うであろうリロイの言葉を遮り、その場に居たエレクトラ以外の全員が声をそろえて言った。



シスコンな上に天然というか鈍いリロイは罪である。





従者さんの名前登場!(笑)

由来…たまたまピノキオを絵を見たから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ