お願いしますので、黙れ。
学園祭はつつがなく始まった。
開会セレモニーも無事終わり、生徒会、ならびにアリシャ商会やクーヘン家とのコラボも大盛況に終わった。
予約でいっぱいになったオーダー表を確認してはヘレナは幸せそうに微笑んでいる。
その笑顔はなかなかに黒いが、正面に陣どって集計と確認作業の手伝いをするカムイにとってはご褒美だった。
この作業とイベントが終わったらちゃんと婚約を申し込むぜ!と密かに決意していた。
午後の部の目玉は武道大会である。
リロイの親友ガストの出番となっており、見に行けるメンバーは見に行く事になっていた。
早めの休憩をする為に一部の生徒会と実行委員会のメンバーが生徒会室に戻ったとき、事件は起きたのだった。
「ここを通しなさい!
私を誰だと思っているの?!」
やけに耳につく甲高い声が扉の向こうから聞こえた。
その声を聴いてリロイは派手に顔をしかめた。
できるなら会いたくもない、その声は…
「シンシアお嬢様、ここは関係者以外は立入り禁止となっております。
別な学校ですので無理は通りません。お父様とお母様の所にお戻りください。
大変申し訳ありませんが、お引き取りください。」
「使用人の分際で私に意見する気?
あなたを首にだってできるのよ!お退きなさい!
私を誰だと思ってるの!本当に下級貴族かどうかもわからないような下民が私の前を遮ろうとはおこがましいにもほどがあるわ!!」
扉の外でゼベットの止める声がする。
それでも相手は引く気はないようで、更に言いつのり…
パーン、と何かを叩く音が聞こえた瞬間、リロイは扉に走り勢いよく開けた。
そこには…
「あら、お兄様ごきげんよう。
この使えない下民をどうにかしてちょうだい!身分の差も弁えないのよ!
今すぐ首にしてちょうだい!」
煌めくように美しい美少女が険しい顔で立っていた。
その少女を無視してリロイはゼベットを見た。
スッと、リロイの顔から表情が消える。
「たいして痛みもありませんよ。
それよりもお止めできず申し訳ありませんでした。」
頭を下げたゼベットの頬には赤い線が見えた。
アクセサリーが引っかかったのだろう。細い傷口であるが血がにじみ滴る程には深いようだ。
頭を下げた拍子にポタリ…と、床に血が落ちた。
「シンシア…何をしに来た…」
血が出そうなほど手を握りしめてリロイがたずねる。
かの美少女はリロイの実の妹であったが、色彩は全く正反対であった。
リロイが黒髪に榛色だが、妹のシンシアは両親譲りの金に近い茶髪に深緑色をしている。
美少女…シンシアはいつにない兄の固い声に少し尻込みしたが、すぐに強気に言い返す。
「私がわざわざ見に来ましたのに案内もしてくださらないなんて、どういうことですの?!
先ほどのファッションショーも友人を連れて行きましたのに前の席を譲ってもらえず恥をかきましたわ!
私に後ろの方で見ろと言いましたのよ!友人達が遠慮したのでその場は引き下がりましたが、食事しようにも並ぶよう言われて不快ですわ!
お父様とお母様に言っても仕方がないと、とりあってくださいませんの!
友達も対応が悪いせいで帰ってしまいましたし!
お兄様は生徒会にいますのに何故、家族である私達を優先してくれませんの!
おかしいですわ!私に恥をかかせた者達全て罰してください!
お兄様が案内しないからいけないんですわ!
こんな下賎な者の多い学園なんて信じられませんわ!
そうです!今すぐみんな退学にするべきですわ!」
支離滅裂のような言葉を喚く妹にリロイは無言で腕を振り上げ…
「どなたか知りませんが…」
その手をそっと、しかしがっちりと掴んで止めて薔薇のような麗しい笑みを浮かべてエレクトラが進み出た。
「淑女として、そのように喚くのははしたなくてよ?
これ以上騒ぎを大きくするのであれば、こちらも兵を呼ばなくてはいけなくなりますわ。」
「あなた誰ですの!私は誇り高い…」
「少し黙ってくださらない?
無理ならば今すぐ摘まみ出しますわよ?」
冷や汗が出るほどの圧を醸し出しながら、それでも優美に歩みでるエレクトラは恐ろしいほどに美しかった。
さり気なくゼベットにハンカチを渡し、まっすぐにシンシアを見下ろすエレクトラ。
どこかで試合開始のゴングが鳴ったように感じるゼベットだった。
嵐が今、吹き荒れようとしていた。




