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5.人の人間関係に口出ししないでよっ!

 ナツキは目を伏せ、首をわずかに振る。

 それからすんすんと鼻を鳴らし、空を仰ぐ。


 彼女につられ空に目をやる。

 雲が厚い。一雨来るかもしれない。


「普通ちゃん、キミは警戒心が薄すぎる。キミの適応能力の高さがそれを許しているんだろうね。普通の人は、まず有峰有栖になんか近づこうとはしないはずだ。ボクだって、あの子を遠目から見ているだけで寒気がするんだから」


「アポカリプスって……有栖さんが、何をしたの?」


「柩ヶ丘中学校を廃校に追い込んだアポカリプス、その表の要因は薬物だ。そしてその裏の要因、生徒間の関係性をズタズタにしていた人物が、各学年にひとりずついたのさ。彼女達は『三大女王ディザスター』と呼ばれていたそうだ。

 有峰有栖は、そのうちの一人なのさ。


 当時中学一年生、『寄生女王パラサイトクイーン』、有峰有栖。

 関わった人間ほぼ全員を不幸のどん底に陥れた悪魔だ。


 当時中学二年生、『賭博女王ギャンブルクイーン』、九蓮宝子くれん ほうこ

 大手闇金融会社社長の一人娘だ。空き教室で賭博を作り、どんどん規模を拡大させていった。

 先生も何人か抱き込んで黙認させていたみたいだ。

 払えなくなった相手に売春の強要、いじめ、従わない相手の親に痴漢冤罪を仕掛けて見せしめにしたりとなんでもアリだったみたいだね。


 当時中学三年生、『洗脳女王ヒュプノクイーン』、紀伊神御幸きいがみ みゆき

 柩ヶ丘中学最後の生徒会長になった女だ。

 病的なまでに不確定要素と反乱分子が許せない性分らしく、自身の特技である催眠術を活かし、学校をディストピアに作り変えたらしい。 

 食事から会話の制限まで行っていたのだとか。

 ここまで徹底してたのに学園賭博を許容してたのは……裏で九蓮宝子と繋がりがあったのかもしれないね。


 直接麻薬売買に関わっていたかはわからないけれども、彼女達の悪行が不安感を募らせ、麻薬売買を促進させていたことは間違いないだろう。

 彼女達は、三人揃ってこの玖澄宮女子高校に入学している。キミがいつも言っているように普通の平穏な高校生活を送りたいのなら、絶対に関わっちゃいけない相手だよ。

 嫌われるのは勿論、好かれるのももっての外だ」


「だ、だから有栖さんが何をしたっていうの?」


「……なんとなく、キミもわかってきてるんじゃあないのかな。キミは警戒心こそ薄いけれど、そこまで察しの悪い人間でもないだろう。有峰有栖は、自分が気に入った相手の人間関係を徹底的に打ち壊す。そうして相手が耐え切れなくなって倒れたら、またすぐに次の寄生先を見つける」


 確かにマリス人形を持って近くを歩かれるだけでも、かなりクラスから浮いてしまった感がある。

 あれが悪意を持ってのことだったとしたら末恐ろしい。


「だからキミは、なんとしてでもあの子と関係を切った方がいい。穏便にただのクラスメイトに戻るんだ。さすがにこれは笑えない類のジョークだから、ボクも縁切りに全力で協力しよう」


「で……でも……」


 有栖さんの笑顔が、あの嬉しそうな様子が、全部嘘だったとは私にはどうにも思えなかった。

 思いたくもなかった。


「もうちょっと……様子見てからじゃあ……ダメかな」


「ダメだ。有峰有栖に関しては、情が移るのが一番危険なんだよ。『三大女王ディザスター』は、人間だと思っちゃあいけない。ああいう習性を持つ虫、そういう認識で充分だ。そうでなくちゃあいけない。『地獄の一年アポカリプス』で何人が自殺、登校拒否に陥ったことか、わかったもんじゃあない。柩ヶ丘中学出身で心に傷を負っていない生徒なんて、彼女達くらいのものだろう」


 ナツキの様子はいつもの掴みどころのない調子とは違い、真剣そのものだった。


「有峰有栖も成長はしているのか、はたまた準備期間なのか、聞いていたよりはずっとマシだ。他の二人にも言えることだけどね。でもどっちにしても、いつ爆発するのかはわからない。普通の高校生活を送りたいのなら無関係でいるか、徹底的に敵対して打ち滅ぼすしかない。仲良くするなんて選択肢は、絶対にありえないよ」


 ナツキがそう言い終えると同時に、昼休み終了のチャイムが鳴った。

 それと同時に、曇天からぽつぽつと雨が垂れはじめる。


「授業、始まっちゃったね。普通ちゃんは先に戻っておいてくれ。ボクは少しひとりで考えごとがしたいんだ」


「う……うん」


 一度こう言い出したナツキは梃子でも動かない。

 元々サボり魔気質で、授業中も先生の目を無視して最前列で無関係な本を読んでいるのだから始末に終えない。


「キミがどっちを選ぼうとも、ボクは有峰有栖を引き離すように動く。キミがどれだけボクを恨むことになったとしても、ね。そのことは覚えておいてくれよ」


 屋上を出ようとする私の背に、ナツキが声を掛ける。

 私はそれに肯定も否定もできず、扉の隙間からただ苦笑いを返す。

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