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2.深夜に電話かけてくるのやめてよっ!

「やっぱりキミはこっちでも事件を起こしたんだねぇ。いや、ボクはこうなるとは思ってたよ。普通ちゃんはトラブルメーカー体質だからさぁ」


「やっぱりって……」


 毒ポエム事件翌日の昼休み、私は中学からの知人であるナツキと屋上で昼食を食べていた。

 ナツキは私のことを普通ちゃんと呼ぶ。

 やめてくれと何度言っても聞き入れちゃくれない。


「なんで私、毎回こんなことになっちゃうんだろ……。まだクラスに馴染めてないのに、昨日のことが噂になっちゃってるみたいで……なぁ~んかクラスに居辛くって……」


「クラスに馴染みたい、ねぇ……まだそんなことを言っていたのかい。普通ちゃん、動物が群れるのは要するに生き残るためだよ。わざわざ不確定要素を抱え込むのは、そうする以外に道がないからさ。普通ちゃんやボクみたいな特別な人間は、そんなことをする意味はないと思わないかい?」


「でも私、まだ学校に友達ナツキ以外いないし……」


「イヤだなぁ、その言い方だったらまるでボクと普通ちゃんが友達みたいじゃないか。だから、ボク達みたいな人間には本来、理解者なんてものは必要ないって言っているだろう? いや、いずれ全人類がその境地に到達するだろう。

 そもそもの話、集団として完成するにしては人間は不完全過ぎる。集団にしては中途半端に個が強く、しかし個で生きるには脆すぎる。なぜだかわかるかい? 人類の遺伝子は、脳は、新しい形態を求めているんだ。今はその途上にある。個人として完成する、新たな段階のね。

 きっとボクや普通ちゃんは、進化の尖兵みたいなものなのさ」


「……ナツキの話は難しくって全然わかんないよ」


 弁当に箸を伸ばす作業に意識を向け、いつも通りにナツキの話を聞き流す。


「キミ、明らかに聞く気がないよね。まあ、いいさ。ボクはちょっと寄りたいところがあるから、先に戻らせてもらうよ。ゆっくり食べておくといい。屋上の合鍵をひとつあげるから、閉めておいておくれ。先生方に問題視されたら嫌だから、開けっ放しにするのはやめてくれよ」


 屋上は本来立ち入り禁止である。

 どこからかナツキが合鍵を手に入れ、こっそり忍び込んでいるに過ぎない。


「う、うん……」


 ナツキは基本的に昼食を食べない。

 パックに入ったゼリー状のもの(コンビニに売っているものではなく、海外から取り寄せたものらしい)を食べていることもあるが、それも毎日ではない。

 彼女が昼休みに屋上へ上がるのも、風に当たりながら本を読むためだ。



 食事を終え、昼休み終了のチャイム目前に階段を降りる。

 休み時間の教室はぼっちに厳しい。

 私の高校生活の目標は、まずは友達を作ることである。

 なまじ中学からの知人であるナツキがいたため、初日に彼女とばかり話をしてしまい、他の友達を作るのをすっかり疎かにしてしまっていた。


 私はナツキのように、たった一人で完成するーだなんて意味の分からないことを言い出すつもりはない。

 少しでも知り合いを作りたい。


「ね、ねぇ……あの、桜子さくらこさんだっけ?」


 五限目の休み時間、私は意を決し、隣の女子生徒に声を掛ける。

 ずっと机に突っ伏してぼうっとしている彼女にならば、声を掛けるハードルも低かったのだ。


「ふにゅ? さくらちゃんに何なのだ?」


 あざとい鳴き声と共に桜子さんが顔を上げる。

 机に広がっていたツインテールの髪が同時に持ち上がり、大きな瞳がぱちりと瞬きする。


「えっと……休み時間の間、ちょっとお話しないかなって……」


「やだ。さくらちゃんは、眠いのだ」


 そう言って、またすぐに机に頬をつけて目を閉じる。


 どうにも上手く行かないなぁと溜め息を吐く。

 また誰かに声を掛けてみようかと考えるが、しかしどうにも勇気が出ない。

 今日はもういい。一度頑張ったら。今日はもういいだろう。明日からまた頑張ろう。


 しかし、高校で友人が一人というのはどうにも寂しいものだ。

 いや、ナツキから今日友達ではないと切り捨てられたばかりだ。他に知人のいない私がナツキにくっついているだけだ。


「友人ゼロは、ちょっとヤバイなぁ……」



 学校が終わり、部活に入る気のない私は自宅へと直帰する。

 深夜二時頃、ベッドでぐっすり眠っていた私はスマホの振動音に起こされた。


 起きて手にとってみれば、ナツキからの着信だった。

 私は時間を再度確認し、それから起こされた怒りのままにスマホの角で壁を殴った。


「……なに、ナツキ、私寝てたんだけど」


「やあ、普通ちゃんこんばんは。手持ち無沙汰だったから、ちょっと電話を掛けてみたんだよ」


「次真夜中に掛けてきたら着信拒否するって言ったよね?」


「ヤダなぁ普通ちゃん、寝ぼけているのかい? ボクはスマートフォンを七台持っているんだよ?」


「全部着信拒否するけど?」


「それは大変だ、八台目を買わないといけない。ついでだから普通ちゃんの新しいスマートフォンも探しておいてあげよう。今キミが持ってるの、ちょっと高いしデザインもあんまりだし、それに機能もほとんど使っていないだろう? なぜか端っこがボロボロだし。そろそろ壊れちゃうんじゃないかな」


 思わずスマホでもう一度壁を殴ってしまった。

 もう電話番号を変えた方がいいのかもしれない。

 因みに角が傷んでいるのは、ナツキが夜な夜な嫌がらせ電話を掛けてくる度に壁を叩いているからだ。


「大した用事がなかったら本当に怒るよ!?」


「用事ならあるともさ。実はキミと善性と利害について語り明かしたい気分になって、いてもたってもいられずこうして電話をしてしまったわけなのだけれどもだね……。まず最初にモデルケースとして……」


「ナツキ、寂しくなったら時間を考えずに電話する癖本当にやめてくれない!?」


「寂しい? 馬鹿を言っちゃあいけないよ普通ちゃん。寂しいという感情が、どうして人間にあるのかというところから考え直してほしい。それは元を辿れば、種としての存続に有意だったからに他ならない。さて、ここで着目してほしいのは……」


「寂しいから夜中に電話ーって本当にやめてよ! 友達じゃないって言ってたけどあれか、ナツキにとって私は恋人かチャイルドラインか! 残念でした、チャイルドラインは平日の17時までだから! これ、私だけ毎回寝坊して遅刻するんだからね!」


「……えっと、それは要約すると朝にも電話しろってことかい?」


「んなわけあるかぁっ!」


 叫ぶように言い、それから電話を切った。

 電源を落とし、私は再び布団を被って横になる。

私の狂人日記:

天見峠菜月あまみとうげ なつき

危険度 :?[不明]

サイコ度:?[不明]

好感度 :?[不明]

 中学からの同級生、なんだけど……ちょっと変わった娘なのよね。

 変な栄養食みたいなゼリー以外口にしてるの見たことないし、いっつも難しそうな本読んでる。

 どうにも私を特別視してるみたいなんだけど、それにしては普通ちゃんなんて呼び方してくるのがなんとも……。

 なんだか昔変な施設に入ってたときに知能指数テストやって、IQ175を出したことがあるんだって。どこまで本当なんだかわかんないけど。

 ニヒルで孤高振ってるけど、ただの寂しがりやっぽいっていうか……。

 あ、夜に電話はやめて。いや冗談とかじゃなくて、本気でやめて。

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