その手離さないで…
「真樹」
「…ん…」
朝、6時半。
いつもの時間に涼は同棲してもう七年になる真樹を起こしに寝室へ。
涼と真樹。
同級生でも同じ地元でもない。
地方から来たこの土地で知り合った。
会社は別々、だが職種は偶然に同じでイベントなどで何度も会ってる内に。
何度も喧嘩して別れて泣いて…今まで何度別れて復縁しただろうかと。
それが効そうしてか、七年前…海外に行き永遠の約束までした。
真樹を海外に連れていくまでに色々大変だった。
そう、真樹は心臓病。
障害手帳まで持ってる階級で。
病院に何度も通い、やっと海外に行ける許しが出た時は涼よりやはり真樹の方が凄く嬉しそうな声で電話で涼に報告した。
「真樹、朝だぞ」
「……ん」
「ん、じゃなくてよ」
小さくため息つくと涼は、ベットに座り体を低くした。
顔を真樹の耳元に近寄るとおはようと心地いい低音で囁いた。
はやり起きてるのか段々と真樹の耳が赤くなってくる。
「ったく、起きてんなら素直に起きろよ」
そう言った涼は真樹の頭を軽く叩くと寝室から出ていった。
会社では、一応にイケメンリストには入っているが、時々ドS発言するため変態リストにも入りつつある涼。
一方、真樹は病気のせいかほんわかしてる。
いつもの様に、一緒に朝食を取り着替えし先に玄関に行く涼。
「早くしな」
「待って、涼…」
鞄の中に、昨日持ち帰った書類を入れスーツのポケットに携帯を入れる。
指折り数える真樹は大丈夫と玄関に向かった。
段々と秋に近づく気温と空気の匂い。
アパートの駐車場に向かい、涼の車に乗り込む。
一緒に住むようになってから行きも帰りも、涼が送る。
もちろん会社は別な所にあるのだが、涼の会社に行く途中に真樹の会社があり。
「また、帰りな」
「うん、連絡するから」
「薬、ちゃんと持ってきたろ?何かあったら直ぐ飲めよ、あと」
「涼に報告、だよね」
「そ」
行ってらっしゃいとお互いに言うと、涼は車を走らせた。
心配でしょうがない…
真樹が障害者だなんて信じられなかった。
だが、割れ物でも触れるように涼は真樹の繊細な体を抱いたあの日。
おもいっきり真樹の体の真ん中に大きな手術跡を見て、涼は決めた。
真樹と一緒に、側に自分が居てやんないと、と。
何度も、目の前で苦しむ真樹を見てきた。
初めはどうしたらいいのかわからない。
あたふたした涼に真樹は冷静にもとりあえず薬と。
勝手に決めつけていた障害者。
だが、真樹はそれでも向き合って生きてる。
いつも、内心見せないで笑顔の裏には何度泣いてきただろうか。
付き合い、別れて復縁…それを何度繰り返してやっとわかったお互いの事。
いつもの様に騒がしいオフィス。
真樹の携帯にメールが来た。
それは、病院の先生。
数日前、言われていた手術の件だった。
一度した手術は高校卒業時。
それから、ずっと検査検査で。
最近、調子が悪いと言った真樹と先生の顔色が一致して。
手術した方がいいと言われずっと涼と相談していた。
手術したら真樹は長生き出来る。
だが、一方下手したら…そんな不安に涼はなかなか返事を渋っていた。
「…一応、涼に聞いてからにしよ」
携帯を持ってオフィスから出て廊下の隅に。
三度目で出た涼。
『どうした?』
「今、大丈夫?」
『あ-…でも緊急だから電話してきたんだろう?』
「うん…手術」
『それな……』
しばらくの無言に真樹もどうしたらいいかわからない。
「涼…やっぱ、後でいいよ」
『……やれ』
「え…」
『手術、やれってんだよ…大丈夫、俺が側に居っから…正直、真樹の事なのに俺も不安あるけどよ…手術して真樹がもっと心から笑顔見せてくれんなら俺はやってくれた方がいい』
「……うん……なら、病院に言っとく」
『おぅ、ならもう切るな』
「ごめん、涼」
『大丈夫だって、ならまた帰りな』
「うん」
決心した手術の為入院する前日。
寝れなくて真樹はリビングでテーブルに向き合ってた。
紙とペンを持って。
「……ん-」
書いた文面を読み返してると、風呂場から涼が出てくる音に、紙をたたみポケットにしまうとペンは近くにあったペン立てに突っ込んだ。
「起きてたのか」
「あ、うん…」
「明日の準備大丈夫か?」
タオルで髪乾かしながら涼は何も知らず。
「大丈夫」
「そか、なら俺明日真樹を病院連れていって、落ち着いてから会社行くわ」
「うん」
乾かした髪に涼は洗面所の方へ。
その隙に真樹は先程の紙をポケットから出し、涼のデスクの引き出しの一番上にしまった。
「…身内」
「俺、じゃダメですか?…真樹の親も病気で亡くなってるので」
母親は真樹を産んだ直後亡くなった。
父親は癌で。
そんなある意味病気一家。
わかってるからこそ、涼は手術の賛成に慎重になってた。
出された書類に名前を書く涼。
それを見た真樹は思わずうつむいた。
父親が亡くなった日からずっと一人。
いくら、社会人になったからと言ってもまだ新人。
自然に笑顔なんて出来なくなってた。
それを変えてくれたのは涼。
涼に会わなかったらこのまま…ずっと一人で誰にもわからず死んでいく。
不意に涙出てきて拭う手に、涼の優しい手が頭を撫でる。
「俺が側に居っから」
「…うん」
案内された病室は個室だった。
てっきり大部屋かと思っていた涼は小さく息を吐いた。
……大丈夫…そう小さく呟いて。
一旦、会社に行きお昼頃再び病室に来た涼。
入ると真樹は、テレビ見ながら横になってた。
いつのまにか付いてある点滴。
その回りには真樹の胸から何本もの線が器械に繋がってる。
「…メシ、食えんのか?」
せっかく買ってきた少しの量の弁当。
「お昼、終わったよ」
「マジか…なら俺が食うわ」
「うん」
まだ一人じゃない…
一緒に居る、目の前に居る。
お互いに色々な思い隠して…手術の日は来た。
麻酔で静かに寝に入った真樹を涼は黙って見つめる。
手術室前で涼は足を止めると頭を下げた。
「……お願いします」
本当なら会社に戻る予定だった。
だが、涼は戻れなかった。
約束した…
側に居っから―――…
手術開始から既に五時間は過ぎてる。
大体手術なんてどれぐらいで終わるかわからない涼。
まず、そんな短時間で終るとは思ってない。
時々、気持ち落ち着かせる為に病院の中庭に出たり院内をうろうろしていた。
時計を見るともう少しで七時間になる。
不安になってきた涼は手術室前の長椅子に座り、手を組んだ。
「…頼むから…」
祈るように涼は顔を上げない。
社会人のくせに大人しすぎる。
イベントも会うたび静かだった。
真樹の回りに居た上司やらは訳ありに真樹を気遣っていた。
それが気になって涼は真樹に声をかけた。
すると、少しずつ…真樹は笑顔を見せるように。
何度目かのイベント。
そのイベントのお疲れ様会に涼は真樹に告白した。
渋る真樹に涼はどうしても…
何か違うものを感じていた涼。
黙っていた真樹は静かに自分の体の事を打ち明けた。
よくわからないまま涼は真樹と付き合う事に。
一度目の別れは、真樹が具合悪くて数日検査入院するのを知らずにキレた涼が。
が、頭冷やしたのか涼から謝り再び付き合う事に。
二度目は涼の飲み会の多さに真樹が我慢出来なかった。
さして気にもしなかった涼が急に寂しくなったのか真樹にまた謝り入れて。
そんな付き合っては別れ、そしてまた付き合う二人は多分一生こんなスタイルなんだろう。
微かに聞こえた物音に涼は顔を上げ立ち上がった。
手術中の灯りが消えた。
唇噛み締めながら真樹が出てくるのを待つ。
開いた扉から、真樹は酸素マスクに未だ眠ったまま。
「これから、集中治療室の方に向かうので」
「…はい」
朝、早く涼は病院へ。
数分間でも真樹の側に居る。
お昼、仕事終わってから…
とにかく時間があれば涼は真樹の側に居た。
未だ目を開けない真樹に涼は真樹の手を握り。
そんな中、向こうでざわつく。
さすがの涼もは何か感じたのか目を強く閉じた。
すると…微かに聞こえた真樹の声。
ゆっくり顔を上げ見ると、真樹は涼を見ていた。
「……真樹」
体低く顔を近付けた。
――り、ょう
聞こえるか聞こえないかの声。
だが、はっきり言った涼の名前。
涼は真樹の名前呼び顔を撫でた。
「お疲れ、真樹…おかえり」
うん、と小さく頭動かした真樹に涼は真樹の手を握り離さない。
珍しく休日出勤で居ない真樹に、涼は自分のデスクで持ち帰ってた書類に仕事していた。
「…ヤベ、マーカー…マーカー」
一番上の引き出しを引いた涼。
無かった筈の紙に不思議な顔して取りだし広げた涼。
いつもありがとう、から始まる手紙に涼は段々真面目な顔になっていく。
もし、僕が居なくなったら…
長々と書いてある真樹の手術に対しての不安と親が居ない事と涼に出会えて良かった事に…涼は口元に手を当てた。
「……真樹、仕事終わった?今日、久しぶりに外食しねぇか?…あ?違うって、浮気でもねぇよ…ほら、退院祝いしてねぇだろ…わかった、なら今から迎えに行くからな」
真樹が涼に黙って隠していた手紙。
涼もまた、黙って隠していた物があった。
その小さな箱が入った小さな紙袋を手に涼は真樹が待ってる会社へと向かった。
end…
おひさしぶりです。
本当にしばらくぶりの短編はきがつきゃエロが無かったです。
ま、たまにはいいんじゃないかと
読んでくださってありがとうございます。
また、いつか…
9/16up 苑城 佑紀