第3話:アスタルテ~there is a great disparity in our view~
シャルが契約主だから話すことだがの。と前置きした割にはイズの同席をなんとも思ってないようで出て行くよう促したりもせず、俺が気づいて席を外すよう言う前にアスタルテは話を始めた。
「妾たち神はの、定められた神格に基づいて人間界で行動を起こすことで己の力を増幅させることができるのじゃ。妾の場合、統治者としての神格に基づいて行動しようとしておる。他にもいくつかあるがの、これが一番楽しそうじゃ」
「楽しそうとかいう理由で決めていいのかよ……。それで? 力を増幅させなければいけないことでもあるのかよ?」
神様なんてものは通常でも超がつくほどわけわかんないほど色々できるのにもっと力を欲するということがなかなか理解できない。
「うむ。それがな起きてしまったのじゃよ。神界でちと厄介事が起こっての。ゼウスを筆頭とする男神の阿呆どもが神界の序列を乱そうと暴れておるのじゃよ。しかもその反乱に乗じて色々な神が派閥をつくり頂点を求めておるのじゃ。」
語られたのはかなり俗物な内容。神も根本的には人間と変わらないってことか……。
「妾は元の上層部におっての反乱など戦神に任せておるつもりだったのじゃが、ちとしくじっての。大規模な戦闘に巻き込まれてしもうて……。これでも上層部におったから妾にも派閥があっての。その妾の部下と言ったらわかるか? 数人殺されてしもうて妾自信も神格をひとつ取られたのじゃ。故に完全にこの戦乱から身を引くというわけにはいかんことなっての。一撃で戦乱を終わらせる力が欲しいのじゃ」
それには人間界で契約者を頂点に立たせねばならない。少なくとも一国の主という形にせねば足りない。というのがアスタルテの説明だった。
「神様でもいざこざはあるんだな。神様って崇められても人間とやること変わらねーじゃねえか」
「それにおいては申し開きもできんのう。しかし、時間がない。妾たちはちと旗色が悪くての、できれば早う手中にしてくれんか」
「そうは言われてもな。神様のいざこざに人間まで巻き込まないでくれ。それに戦争を起こす大義がないな。政治が腐ってるのもさっき言った色々なことも大義にはならないだろう」
「大義とな……クク」
「何がおかしい」
「掲げた大義などすぐに朽ちるわ。そんな意味のなきものなど掲げんほうがまだマシというものじゃ。それにお前は大義なき征服者の血筋であろうて。あまり呪いを脅迫にしたくはないのう。早いとこ決めたほうがお互いの為じゃぞ?」
ふん。なら戦争なんてしないほうがよっぽどマシじゃないか。
しかし呪いをネタにアスタルテに命令されたら動くしかない。どうにか逃げ切る方法はないか考えなければなるまい。いずれにせよ逃げ切ることも革命を成功させることも難しいだろうけど。
「所詮、人は神の駒よ。人間界は神が作ったフィールドよ。その摂理は絶対じゃ。シャルも妾の駒として
早う動かんか。じゃないと次の一手が打てんじゃろうて。チェスのように相手は待ってくれんぞ?」
でもこうやってニタァと笑う神様の言うとおりにはしたくないな。
何でも人間が神様の思うとおりに動くと思うなよ。
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「シャル、お話はそのへんにしてお客様をおもてなす準備をしましょう」
イズが話を打ち切りにかかる。
「ああ、今日だっけ。あの3人が来るのは……。」
はい。と言ってイズが笑顔で差し出すのは箒とハタキ。
「シャルはお掃除をお願いしますね。あの二人の部屋も当分お掃除してませんでしたし」
「使うことはないと思うが……」
「あの甘々なお方ですよ?二人がおねだりすれば許しそうですが……」
それもそうか……いや、でも仮にも……うーん……と迷いつつイズを怒らせたくはないのでおとなしく掃除へ向かう。水回りはここのとこイズに任せっぱなしなのでそのついでに一階の掃除をイズにまかせある程度の力仕事が予想される二階の部屋へ。
「シャルよ。どのような人間が来るのだ? 口ぶりから三人とは思うのじゃが」
「ん……ああ。昔お世話してた双子とその主人……になるんだと思う」
ちょこちょこと後ろを跳ねるようについてくるアスタルテにそう答えて目的の部屋を目の前に少々開けるのをためらう。
「思うとはどういうことじゃ?」
「んー……あんまりはっきりとした関係性がないんだよな……あの二人と一人って! 勝手に開けるな!」
アスタルテが開けた部屋の先には可愛らしい小物がいっぱいでクローゼットは開けっ放し。もちろんそこには服もかかっていてなかには下着と思うものもかかっていた。
まるで部屋の主はまだここで生活しているように。しかし先程も述べたように彼女たちは既に新たな生活を新たな場所で始めているはずなのに……。
「なんじゃ、女子か! お主は女児しか引き取らんのかえ?」
真面目な顔してそういうこと言うのはやめてくれ。アスタルテには取り合わず部屋に入りどこから片付けたもんかと頭を抱える。
とりあえず服は無視して掃除をはじめるか。
「アスタルテ、そっちのハタキで棚の上からホコリはたいて。水組んでくる」
「おい……妾は神様じゃぞ?神様なのに……神様なのにぃぃ!!」
「神様だろうがなんだろうがそこに突っ立てんのなら手伝え」
神様なのに……。と情けない顔でつぶやき続けつつハタキを手に取るアスタルテを確認して庭に地下水を汲みに出る。
庭に出てアスタルテがいるはずの部屋を見るとちゃんと窓を開けて叩こうとしてるのが見て取れるけど……なんでぴょんぴょん跳ねてるんだ? 不思議な奴だ。
「おい! 何ぼーっとしとるんじゃ! 早う戻ってこんか! 背が上まで届かんのじゃぁ!! ……あっ!」
あ、コケた。着地に失敗したのか。
それにしても、背が足りないのにジャンプしてまでちゃんと真面目に掃除しようとしてくれるとこが律儀でさっきまでの印象と違うな。
「神様なら背丈くらい自由に変えられないのかよ」
水を汲んで戻ってくるとまだぴょんぴょん飛んでるアスタルテ。さっきコケたの大丈夫だったのだろうか……まあ神様だし大丈夫か。
「一度顕現した姿はなかなか変えられんのじゃよ。もうちと背を伸ばせばよかったかの」
「ふーん。そうなのか……。じゃあなんでその姿を選んだんだ?」
「趣味じゃ!」
前触れのない変態発言である。
「神界じゃといつも格上扱いじゃからの。少しは可愛がられてみたいものなのじゃ」
その割にはさっきは神じゃ神じゃって言ってた気がするけどな。
アスタルテがハタキ終わり床を掃いていると懸命に開いた窓に手を伸ばして拭いていたアスタルテが手を休め面白いものを見つけたような表情で言った。
「シャルはこの双子をよほど大事にしとると見た。このように私物を置いていっても捨てるもせぬし、売って生活の足しにもせず大事にとっておるしの。定期的にこの部屋の掃除もしとるじゃろ?」
「部屋の掃除をしてるのは時々イズにしてもらってるんだけどな。まあ、あの二人は忘れられないよ。あんなに大変で面白い子はいい意味でもそのままの意味でもなかなかいなかったからな」
「そのシャルに取って特徴的な双子が今、このタイミングでくる。なかなか因果よのぉ?」
「何が言いたい」
「その子らが何しに来るか、どんな話を持ってくるか楽しみよのぉ」
弱者を甚振るような眼で。
「それが妾にとって都合のよい話であるかんのう。あったらいいのう」
舌なめずり。一見すると妖艶なようでそれは獲物をどうやって調理するか考える捕獲者そのもので。
「それは偶然かのう。……否。妾がそうなるよう仕向けた。そしてその双子がシャルにとってかなり印象的になうよう行動させた。あの子らの感情、表情、行動、全て妾が動かしたのじゃ。そして今もそうしておる。ほら見てみい。人間なぞ神の駒にすぎんじゃろ」
「そうか。それは怖いな」
取り合わずにそう棒読みで言い切った。
「なんじゃ……意外じゃの」
「今の言葉がそのまま語ってるだろ。意外だと言った、つまり俺の態度を予測できてないということは感情まではコントロールできないってことだ。何か言質でも取りたいなら激高させて感情的にさせるべきだったしそもそも人間をそこまでコントロールできるならもうクーデターでもなんでも起こしてるだろ、俺」
「しかし、大筋だけなら動かせるかもしれんぞ?人間が運命と呼ぶものじゃ」
「神様にとって小さい誤差を重ねていけば、いずれは大きな誤差となるんだよ。神様ごときに人間様をどうこうさせるものか」
「面白いというか食えぬ奴よ」
ふふと笑い掃除に戻るアスタルテ。どうやら気に入られてしまったらしい。
つま先立ちで腕を目一杯伸ばして窓を拭いている姿は年相応の女の子にしか見えないのにな。本質は神様、それも強力な、なんだからなあ。怖い怖い。
「そういえば……どういうやつが来るんじゃ……あぁぁ落ちる落ちる!」
アスタルテを抱き抱え落ちないよう慌てて捕まえて
「ふう……窓ちょっとだけ閉めればいいだろ」
「外側が拭けんじゃろう!」
……ホントに律儀な、真面目な神様。
「で教えてくれんのか?」
「ん……別にいいだろ。訪問してくる主人ってのがフリードリヒ=ハプスブルク。この領地の領主様で双子がユリア=アウエンミュラーとカレン=アウエンミュラー。側近の精鋭護衛隊の二人……らしい」
「は……領主……」
アスタルテは驚きで固まった。
そんなに意外だったのだろうか……。
解説・注意などを活動報告で行っています。併せてそちらも読んで頂ければ幸いです!